二十一話 鉄壁の守りを自ら打ち破れ
よし、できた。ヘーベリック用の演説の完成だ。外を見るとまだ暗い。さっさと寝ることにする。
翌朝、隣のヘーベリックの部屋に向かった。ドアを開けるとヘーベリックは腕立て伏せをしていた。こいつもマイケルと同じ部類か。
「お、おい!ノックも無しに入ってくるんじゃない!」
「ヘーベリック!これが今日の演説の原稿だ。エルザから話は聞いているだろう?」
「まずお前は人の話を
「目を通しておいてくれ。台本通りにな」
「全く話を聞かない奴だ……しかもこれから戦争だってのに何を笑ってやがる」
ヘーベリックは原稿を読み始めた。
「なっ!?こんなのを読めってのか!ひでえ奴だ。ひでえ奴だよ全く」
彼は笑いをこらえていたが我慢できなかった。
「はははははははは!!!最高だ!!!」
昼過ぎ、昼食を食べ終えた後、エルザに頼んで全兵士を集めてもらった。
まずヘーベリックが演説台へと向かう。緊張したような素振りは全くない。さすがだ。
「兵士達よ!聞いてくれ!我々アルベリートはこれより敵国オーガーンと戦闘を始める!怖いだろう……恐ろしいだろう……だが!逃げる訳にはいかない!もとより逃げ場など無い!覚えているか?あの日の敗戦を……私は愛する妻を失った……」
ここはヘーベリックのアドリブのようだ。
「ヘーベリック……」
隣でオルタスが小さく呟いた。
「諸君らは何を失った……?皆一様に大切な者を奪われた……恐るべき敵がいる。憎むべき敵がいる。復讐してやりたい敵がいる!もう二度と誰も失わぬ為に、打ち倒さねばならぬ敵がいる!!行こう諸君。愛する者を守るために、この剣を抜こう。勝つために、出来うる限りを尽くそうではないか。諸君。戦いの叫びをあげよ!声高に!!」
「「「「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」」」」
兵士達の叫び声が響く。さて、そろそろかな。
俺は隣にいるエルザに合図を出す。
「私は便利な連絡用ツールじゃないのよ」
「おう!わかってるって!あ、そうだ。オーガーンの兵力は?」
「今!?」
「早く!」
「え、あ、オーガーンだけで10万よ。三国も合わせるともっといくわ」
「そうか!じゃあ合図してくれ!」
「えぇ!?それだけ!?」
「早く!!」
「は、はい!」
エルザがクリシュティナの隣にテレポートし、合図を出した。
「本当に良いのですか?こんなよそ者の提案を真に受けて」
「構いません。責任は私が取ります」
「分かりました。では」
クリシュティナがバリアを解除し、
「エクスプロージョン」
と呟いた。その瞬間オーガーン方面の西方の壁が爆発した。
「なんだ!?」
「オーガーンの攻撃か!?」
「あれはエクスプロージョンじゃないのか!?」
「まさか!クリシュティナ様の鉄壁の守りを打ち破る魔術師がオーガーンに居るというのか!!」
「そんなバカな!ありえない!」
皆壁が破壊された事に動揺しているようだった。
よし、今のところ順調だ。さて、それじゃあ俺の出番だな。
俺は演説台へと走ってヘーベリックを押しのけて叫ぶ。
「聞け!全ての兵士達よ!!」
兵士達が俺に注目する。
「今、諸君らを守る強固な壁は失われた!敵の攻撃によって!!先手を打たれてしまった!!だが良かったではないか!動きやすくなったぞ!敵に感謝しよう!もう意志無き石に守られる事は無くなった!この国は諸君らが守るしか無い!そのためにはいいか諸君、我々はこれからあの大国と戦争をする必要がある!しかし奴らは10万、我らは1万…ただでは勝てぬぞ?ただで死ぬぞ?無駄死には嫌だろう?ならば!愛する祖国を守るため、諸君ら自らが命を賭して新たなる壁となれ!!」
兵士達の顔に恐怖の色が浮かんだ。
「ははは怖いか?死ぬのは怖いか諸君?ははは確かに数の上では圧倒的不利だ。引きこもりで臆病者の諸君らは幾度と無い敗北を味わってきたことだろう……それをまた繰り返すのか?敗北の歴史を、敗戦の苦汁を、愛する祖国が燃やされる悲しみと怒りを」
恐怖の次は怒りだ。
「そんな訳無いだろ!」
「繰り返してたまるか!」
「もう失うのはいやだ!」
「そうか!では教えてやろう!気づいていないだろうが、諸君らは一人一人が屈強な一騎当千の強者だ。数々の戦火をくぐり抜けてきた歴戦の勇士だ。幾多の敗戦を味わってきた悲哀の戦士達だ。そして、王への忠義、家族や愛する者への想い、奪われた者、亡くした者、敵への憤怒、恨み、恐怖…いくつもの因果が我々を一つに統合する。思い出せ。かつての屈辱を、あの日の絶望を。諸君、愛する者は居るか?恋人を救え、家族を救え、国を救え、愛するモノ全てを救え、それができるのは諸君らしか居ない。この国に安寧をもたらすのは諸君らの務めだ。知っているか諸君、 我々は一万で一つの恐るべき怪物になった。一つで一万の移動する破滅だ。撃滅し殲滅し湮滅する一匹の獣だ。獅子が如く獲物を喰らい尽くせ!!鏖殺せよ!!死ぬのが怖いなら敵を滅ぼせ!!壁などもはや必要ない!!一人たったの十人殺せば良い!たった十人!たった十人だ!簡単だろう?」
「十人!たった十人!」
「やれる!」
「やってやる!!」
「いやそれでも、我々はこれから悲しいほどに死んでいくだろう…だが涙を流す暇は無い。分かっていると思うが戦いは常に命懸けだ。この戦には、命を懸けるだけの価値がある。隣の仲間が死んでも足を止めるな。最愛の友人が死んでも立ち止まるな。決して止まるな。涙をこらえて、明日を夢見て走って行かねばならんのだ。死を無駄にするな。時間を無駄にするな。敗北を無駄にするな。ただ真っ直ぐ、矢のように敵陣に飛び込め。いくら諸君らが強かろうと、厳しい戦いになるのは明白。数の足りない我々が勝利するためにはそれしかない。甘えるな。傲るな。諦めるな。死中に価値を見いだせ。そうすれば自ずと勝ちは見えてくる。それにだ。諸君らが例え死んだとて、その崇高なる魂は国家繁栄の為の礎となろう。死のうが生き残ろうが、諸君らはこれから永遠に語り継がれる伝説となるのだ。これは伝説への余興にすぎない。その伝説的な諸君らの圧倒的な力でたった十万の敵を飲み込んでやろう。闘争は数が全てで無いことを奴らに教育してやろう。化け物が如くやってやろう。戦神の如く見せつけてやろう。一心不乱に敵を打ち倒し、嵐の如く敵陣を壊滅させてやろう。烈火の如く敵国を燃やし尽くしてやろう。剥き出しにしたその鋭い牙で、奴らの喉笛を掻き切ってやろう」
「「「「「「そうだ!!やってやろう!!!」」」」」」
「諸君、準備はいいか?殺し合いの始まりだ!さあ法螺貝を吹け!銅鑼を打ち鳴らせ!大地を踏みしめろ!鬨の声を上げろ!拳を突き上げ高らかに!戦場に我らの音楽を奏でよう!我らの軍靴の音を!恐怖の音色を!殺戮の轟音を!!奴らの耳に届けてやろう!奴らに奴らの断末魔を聞かせてやろう!奴らの首を落とし永遠の子守歌を聞かせてやろう!奴らの屍の山を築きその上で笑ってやろう!戦慄の下に聞かせてやろう!心を震わす獣のような勝ち鬨を!!身を裂くほどの大歓声を!!!
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!!!」」」」」」
「…………今こそ……今こそ死んでいった仲間達の……嘗ての仲間達の遺恨を晴らす時!!追われる兎から狩る獅子に変じる番だ!!反撃の刃を奴らの心臓に突き立てる時だ!!遠慮はいらん!遠慮はいらんぞ!!奴らは倒すべき敵だ!打倒せねばならぬ絶対悪だ!我々に撤退は無い!死をも恐れず前進し悪しき奴らを叩き潰せ!!最後の一人になろうと敵を殺せ!!暴れまわれ!!振り上げたその拳を叩きつけろ!!怒りに任せた一撃を奴らに叩き込んでやれ!!情け容赦の無い闘争の時間だ!!恐れる事は何もない!!我々はこれから後の世にまで語り継がれる英雄となるのだ!!さあ右手を掲げ勝利万歳と叫べ!!
「「「「「「ジークハイン!!!!!」」」」」」
「「「「「「ジークハイン!!!!!」」」」」」
「「「「「「ジークハイン!!!!!」」」」」」
「誇り高きアルベリートの兵士達よ!!その磨き上げた剣を抜け!!!この日の為の剣を抜け!!!奴らに二度と明日を奪われぬ為に剣を抜け!!!命令は単純明快ただ一つ!!!殺せ!!!一片の躊躇無く殺せ!!!死んでも殺せ!!!味方じゃねぇ奴はみんな殺せ!!!残らず殺せ!!!徹底的にぶっ殺せ!!!いいか!!!諸君らの一撃がアルベリートの歴史をつくる!!!!諸君らの一挙手一投足が未来を決める!!!!明日を創造するのだ!!!!抑圧された明日を切り開け!!!!最初の一撃は誰だ!!!!?我こそはと思う者はその剣を振り下ろせ!!!!凪払え!!!!全てを粉砕し全てを守り抜け!!!!立ちふさがる全てを薙ぎ倒しその二万本の手で勝利を掴み取れ!!!!さぁ!さぁ!!さぁ!!!簒奪された明日を取り返しにゆくぞ!!!!大地を奴らの血で染め上げろ!!!!!」
「「「「「「オォーッ!!!!!」」」」」」
良い兵士だ。さて、さてさてさて!!戦闘開始だ!!!!くひひひひ……血が騒ぐ……!全身の血が煮えくり返るようだ!!




