十六話 魔術王国アルベリート
イグドラシルまでにこのまま真っ直ぐ向かっても後5ヶ月はかかる。それまでの食料などの衣食住の問題もある。そこでオルタスは思い出したように「魔術王国アルベリートへと向かおう。空間移動魔法のスペシャリストの知り合いがいる」と言った。もっと早く言え。
「ロザは空間移動魔法使えないの?」
「ワープでしょ?できないわ。物体を空間を越えて移動させるなんて高度な魔法、私には無理。訓練はもちろん相当魔力が強くないとできない」
「でも魔法ってイメージの具現化でしょ?」
「そうだけど、そうだからこそ得意分野があるのよ。私はバリアね。バリアの移動なんて芸当ができるのは私くらいなんだから」
ロザはちょっと胸を張る。
「つまりね、物体を動かしたり、浮かせて移動したりなんてことならできなくも無い、けど、空間を越える移動は難しいの。移動先のイメージもしなくちゃいけないから、目に見える場所に移すのとは訳が違うわ。学校で習わなかった?」
「あ、いや、聞いたことある気がするな」
「もう、しっかりしてよ勇者様!」
「ハイハイ、じゃあアルベリートに行こう。案内してくれ」
「あ、でも大丈夫かなあそこ」
オルタスが顎をさすりながら言った。
「何が?」
「確かあの国は戦争中だ。五年前から」
「いいさ、行こう。真っ直ぐイグドラシルに行くより早いんだろ?」
そういう訳で、俺たちはアルベリートに3日かけてやってきた。それまでの食料はどうしていたかというと、ハルが採ってきてくれていた。ハルは狩りが上手いようだ。どこで狩りを覚えたのか聞くと、「小さい頃から食べ物は1人で調達しなきゃいけなかったの、お父さんが『強くなければ生きる資格も無い』って言うから」だそうだ。ずいぶん厳しい父親も居たもんだ。調理したのは主にマイケルだ。びっくりするくらい美味しかった。ハルは肉じゃなく炭になってたし、ロザはそもそも美味しくなかったし、オルタスは味付け濃すぎて何の食べ物かわからなかったし、俺も塩胡椒以外の味付けできないし、マイケルが今後の料理当番だ。ちなみにそのマイケルは寝不足だ。
アルベリートは周囲を全て壁で囲んでいた。モンスター対策もあるだろうが、おそらく防護壁だろう。敵の侵入を防ぐためのものだ。物見櫓や縦に長い長方形の狭間なんかがある。主力は弓か、銃はなさそうだ。銃なら狭間は三角形や丸い形をしているはずだ。壁の上にはバリスタがいくつも設置してある。―――あれ、なんで俺そんな事知ってるんだ…?城好きって訳でもないのに…まあいいか。目の前には巨大な門がある。今は開いているが、壁の外と内にそれぞれ門がある。石造りの外門はかなり分厚い。一メートル半はあるだろうか。内門と外門の間には役人らしき人が詰めている。武装した兵士も何人か居る。
門を通ると役人に呼び止められた。
「どこの者だ。どこから来た。何のために来た」
それにはオルタスが答えた。
「エルザ・ヒューストイに用がある」
「なんだと貴様、我らが大師長様に何の用だ!」
「へぇあいつ大師長になってたのか」
「大師長様をあいつ呼ばわりとは何と無礼な!」
なんか言い争ってるな。あれ?ハルが居ない。さっきまで居たのにな。
ハルを探して見回すと、目の前に突然女性が現れた。やってきたのではない。何もないところから突然現れたのだ。
「お!みっけた!」
その女性は白いローブを纏っていた。金髪で丸い眼鏡をかけている。目はきれいなコバルトブルー。女性は振り向くと嬉しそうに
「オルタスじゃん!!久しぶり!」
と叫んで抱きついた。
「エルザ!?や…やめてくれ離してくれ怖い」
エルザは抱きついたまま離れずに
「やだやだやだー!」
と言って首を振る。入国審査官は戸惑っている。
「だ…大師長様…!?」
なんだこれ。なんだこの人。この人が空間移動魔法のスペシャリストなのか?なんだか不安な入国でした。




