仲間がいっぱい楽しい酒場
さて、俺は物わかりが良いと子どもの頃から言われてる。だから魔王を倒しに行こう。
いややっぱ無理だわ。おかしいわそんなん。急に呼び出して、「おう!お前ちょっと魔王ぶっ倒してこいや」とか何なんだ。ヤンキーでも今時そんなこと言わねぇぞ。
今俺は仲間集めの為に、酒場の前に立っている。看板を見上げるとそこには『friendly酒場』と書いてある。friendlyは筆記体で酒場はゴシック体だ。ひどいセンスだな!
さてどうしたものか。このまま帰ってしまおうか。いや、それはダメだ。今度は殺されるかもしれない。しかしこの中に入ってしまったら、もう魔王討伐からは逃れられない。なんで俺なんだよ。おかしいだろ!俺はただの学生だぞ!将来の夢とか語りたい時期なんだよ!これじゃ暗い未来しか見えない。しかし、このまま突っ立っていても仕方がないので入ってみる事にした。
ドアを開けると、酒の臭いが鼻を襲った。見渡すと、どいつもこいつも酒に酔っている。
「あら?学生さんは入っちゃいけないのよ」
突然声をかけられ、酔っ払いじゃないことを祈りながら振り向いた。
「あ、君が勇者になったっていう…ええと、誰だっけ?」
綺麗なお姉さんが立っていた。
「ねぇ聞いてる?名前はなに?名前!」
「あっ!はい!ハジメ・クロイヤードです!」
「ハジメ?あ!もしかしてトーヨーの?」
「最後の一族です!」
東洋最後の一族というのは、数百年前の核戦争の後、荒廃した東洋から西側へと逃れてきた者達の最後の血筋の者という意味だ。
「あーやっぱり!顔もなんだか浅黒いし!」
「ところであなたの名前は?」
「え?私?あーなんでも良いんだけどね、みんなにはフレンドリーちゃんって呼ばれてる。ここの店主で、紹介所の所長もしてるの」
フレンドリー…ちゃん?friendly酒場のセンスが最低辺に行ってしまった。てかあだ名だろうが。あだ名じゃなかったら本当にひどいセンスだ。
「それで、勇者様?どんなお仲間をお探しでしょう?」
「え?」
「なぁに?それで来たんでしょう?」
「あ、はい!じゃあ…強そうな人をお願いします!」
フレンドリーちゃんがニヤリと笑った。
「残念だけど、勇者様ご一行はもう決まっているのよ」
「へ?」
「まずは魔法使いのロザリンドちゃん!出ておいで!ほら!」
フレンドリーちゃんがそう言うと、ひょこっと、まさに魔法使いというような三角形の帽子を深く被っている少女が物陰から顔を出した。が、すぐに引っ込めてしまった。
「どうしたのー?」
フレンドリーちゃんが少女に問う。
「あいつ、やだ。かっこよくない」
グサッときました。一人の少女に、心を折られました。悲しいです。でもね、僕は大人だから、別に気にしてないふりをしました。
「でも勇者様よ?これからかっこよくなっていくわ」
「本当?」
「本当よ本当」
「嘘だったらぶっ殺す」
少女にしては物騒な言葉を吐きながら、ロザリンドはこっちに向かってくる。よく見ると長い銀の髪をそのまま下ろしている。きれいな金色の眼をしている。肌は白い。子どもだ。
「よろしく!」
明るい笑顔でそう言った。
「お、おう。よろしくな!」
「やっぱりかっこよくない」
小声でなんか言ってたけど気にしない。
「はい!次はムキムキの武闘派!マイケル君!」
「やあ!」
そう言って、ボディビルみたいなポーズキメながら、でっかい男が現れた。胸にでっかい傷がある。黒い。光ってる。強そう。
「僕はマイケル!よろしくな!勇者様」
服は黒いブーメランパンツだけだ。露出趣味だろうか。目の色は緑っぽい黒。ムキムキだ。
「あ、ああよろしく。ハジメだ。」
なんだか常識人みたいだ。いや、大人なだけだろう。今もボディビルみたいなポーズキメてる。
「さぁ!最後のひとりはさすらいのギャンブラー!んで、謎の男。の…」
「ハルだよ!」
フレンドリーちゃんの言葉を遮り、かわいい女の子が現れた。宝石やらなんやらの装飾品を沢山身につけているが、それを地味な色のコートで覆っている。気取った金持ち感は無い。センスが良いのだろう。腰に短剣を差している。背中には弓。肌の色は黄色がかった白。目は鳶色だ。多分自分と年が近い。あとかわいい。
「だれ?」
「さすらいのギャンブラーで謎の男のハルだよ!」
「女じゃねぇか」
「さすらいのギャンブラーで謎の男ってかっこいいでしょ!」
「そんな理由で?」
「うん!」
「あぁそうよろしく」
「よろしく!」
声がでっかい。なんかテンションがすごい。クスリとかやってそう。あとかわいい。
「はい!じゃあこれでパーティーは決まりね!なかなかバランスが良いわよ!魔法使いに僧侶。それと遊び人ね!」
「僧侶?だれ?」
「僕だよ」
マイケルかよ。武闘派じゃなかったのかよ。
「あぁそう」
「じゃあこれから魔王討伐の旅にでるのね勇者様?」
「え?あ、あぁうん」
「よし!じゃあいってらっしゃい!!」
「それだけ?装備とか貰えないの?」
「何言ってんのここは酒場よ」
そりゃそうだ。酒場は酒を売るところだ。
「わかりました。では、行ってきます」
「やっほー!さすらいのギャンブラーで謎の男出陣!!」
「僕の筋肉がみんなに見てもらえる!!」
「マイケルかっこいい」
ロザリンドてめぇ好みマイケルかよ。マイケル変態じゃねぇか。あんなのに負けたのか俺。ハルはテンション高いなぁ。あとかわいい。
「あ、ちょっと待って、忘れ物よ」
フレンドリーちゃんが何か奥の方でガサガサやってる。
「あった!これこれ!王様から預かってたの忘れてたわ!」
はい、と言われて手渡されたのは二本の刀だった。一本はアホみたいにデカい。二メートルはある野太刀。もう一本は普通くらい。たぶん太刀とか打刀とかそんなん。
「え?これ」
「これね!魔法剣なのよ!今時珍しいでしょ!あとこれも持って行って!」
今度は銃だった。単発式で、薬室が独立していて、リボルバーとかいうやつに似ている。
「これ自体には魔法はかけられてないけど、弾薬にはかけられるわ!うまく活用してね!」
「え、なんかありがとうございます」
すごく優遇されてる気がする。気がするだけだけど。
「あと防具はないよ!」
「え?」
「攻撃は最大の防御だよ!」
「えぇ!?」
「ハジメ…」
フレンドリーちゃんは急に真面目な顔になった。
「どうしたんですか?」
「あなたにはこれから、とても辛く苦しい現実が待っているわ。正直、私は行かせたくない」
「俺も行きたく
「でもね、私にはあなたを止める権利なんて無いの。選び抜きなさい。これから始まる長い長い戦いの歴史に終止符を打つために。今は何を言ってるかわからないかもしれない。だから、今はただ生き抜いて」
俺に母親がいたら、こんな事を言うのだろうか。俺は何も言えずに、ただ頷いて店を出た。
とりあえず、勇者(笑)と子ども魔法使いと武闘派僧侶と遊び人のパーティーが完成した。彼らはきっと愉快な仲間たちになってくれるであろう。重たい刀を引きずりながら、俺は言った。
「さて、ここからどうしようか?」
「一旦休もう」
「マイケルに賛成」
「ひゅー!!!」
ハル、恥ずかしくないのかい?気になってしまう。あとかわいい。
「じゃあ、そうだな、俺の家に行こう」
「いえーい!!」
「マイケルの家はー?」
「僕の家はこの国には無いよ」
「えー!」
「嫌なら置いていくぞ」
「はーい」
「イヤッホー!!」
ロザリンドは渋々従った。マイケルは彼女をなだめている。ハルはテンション高い。あとかわいい。