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私のクラスに異世界の王子達がいるんだけど  作者: 奏多
第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク
55/58

2-18

「殿下に近寄るな」


 ヴィラマインの騎士よりも早く駆け付けたのは、エドだ。

 その腕に、あちこち怪我をした竜を脱いだブレザーの上着で包んで抱えている。


「え、ちっちゃくなってる」


 竜は元の抱き上げられる小ささに戻っていた。

 一体どうしてかと思ったら、エドが教えてくれる。


「瀉血です。チョコレートを食べさせたら血の気が急増して、巨大化と凶暴化をしますが、増えた血を抜いてやれば戻るのですよ、竜は」


 なるほど……でも、だいぶん景気良く血が吹き出てたけど、大丈夫かな?

 飛び散った血は周囲の倉庫の屋根や壁にびっちゃりかかったけど、間もなく煌めく光を発して消えて行く。


 この現象については私も知っていた。特定の魔物の体液も体も、死んでしまうと空気に溶けてしまうらしい。竜もその一つだ。理由まではわからなかったけれど。

 ……血がびっちゃり残る魔物じゃなくて良かった。誤魔化しきれないもの。

 そしてディナン公子の方は、慌てて騎士を止めていた。


「まずい、警察が来た」


 確かに遠くから、警察車両のサイレンの音が聞こえてきた。相手に危害を加える現場を見られるのはマズイと考えたんだろう。


「まぁこんなに傷だらけになって……」


 ヴィラマインが心苦しそうな表情で、竜を見つめる。

 けれどヴィラマインに、竜を今すぐ介抱させるわけにはいかない。竜は痛そうにはしていない上、チョコレートの副作用なのかわからないけれど、ぼんやりとしている。

 一応そこについてはヴィラマインに確認する。


「ヴィラマイン、この竜の怪我は大丈夫?」

「ええ、竜は傷口がすぐに固まるので、命に別状はありませんわ。痛みは多少あるでしょうけれど」

「それなら、ヴィラマインはちょっと待っていてね」


 私は竜に近づき、ごめんねと言ってあるものを竜の口の中へ押しこんだ。口の横、牙の間から、えいと入れたのは――飴だ。

 目をぱちくりしながら、ごっくんと飲み込んだ竜に私は言った。


「誘拐されて怖かったわね?」


 とたん、竜の子はぽろぽろと涙をこぼしながら繰り返した。


「誘拐された。怖い。助けて」

「誘拐したのはあの人達よ」


 指さして竜に覚えさせたのは……もちろんディナンだ。


「さっき大きくなるお菓子をくれた人達は、悪い人」

「大きくなるお菓子をくれた悪い人」


 竜は泣きながら、じっとディナン公子と牧野君を覚えるように見つめた。


「ちょっ……!」


 ここでようやくディナン公子は、私が何をしようとしているのかわかったらしい。

 竜は飴を食べさせると涙もろくなるらしい。


「竜を手なずけて証言させるとは! こちらだってそれなら……」

「アンドリュー再生お願い」


 何か脅しをかけようとしてくるのはわかっていたので、もう一度あれをアンドリューに再生してもらった。


《ヴィラマイン様に交渉に応じさせるためにも、先にお前を母国へ送ってしまおう。交渉するにも、あちらで話した方がヴィラマイン様も色々と理解してくれるだろう》


 肩をびくつかせて、黙ったディナン公子に私はにやっと笑った。


「私達に罪を被せようとするなら、この録音したものを、お国のご両親……いえ、むしろ各国の王に届けてもらうわね」

「……!!」

「ここで、密輸したことがわかるだけならまだしも、私の誘拐まで企てたこと、ヴィラマインの国を脅していたことがわかったら……もう、公子としての地位とか、無くなるんじゃないのかな?」


 正直、密輸だけでもすごい大問題だろう。

 でもそれだけなら、子供の失敗で……まぁぎりぎり罰とかもあるだろうし、ファン・ベルクス公国もヴィラマインの国に多大な補償をする必要はあるだろうけれど、それで済む可能性がある。なにせ王子様のやったことだからね。


 でもヴィラマインの国を脅して言いなりにさせようとしたとわかれば、各国はだまっていないだろう。今まで周辺国へ騎士を派遣して防衛を援助していたからこそ、ファン・ベルクス公国は他国に優位を保っていたはずだ。それが無くなるに違いない。無理難題を押しつけられるよりは、自国か他の国へ援助を頼んで頑張った方がいい。


 それだけでもファン・ベルクスは衰退するだろうけれど、私の誘拐なんて話になれば……まぁ、異世界との貿易からは弾かれる。

 その原因を作ったディナン公子がどうなるかは……私は知りません。

 呆然としたまま何も言えなくなったディナン公子の前で、私はヴィラマインに竜を渡してもらう。


「貴方を保護してくれるのはこちらよ……ヴィラマイン受け取って。竜も、こんなにか弱く泣いているのだから、悪いようにはされないわ」


 竜を泣かせたのは、泣いている子供なら痛みの原因を教えてやればそのことだけしか言わなくなるだろうと思ったのと、うっかり危険生物として処分されないようにするためだ。


「わかりましたわ。後は私にお任せになってください沙桐さん。ご迷惑や面倒ごとはおかけしませんわ」


 私のやろうとしたことを察して、ヴィラマインは満面の笑みで竜を受け取った。

 ちょうどそこで、警察が到着する。

 通報を受けてやってきた警察は、もちろん倉庫が壊れた惨状を見て、怪我をして泣いている竜を抱えるヴィラマインに事情を聞きに来る。


「それで君たちは?」


 尋ねられた時、前に立ったのはヴィラマインだった。


「ここで竜が出没したと、学校帰りに動物園に立ち寄ったお友達に連絡を頂いてかけつけたのですわ」


 そう言って、ヴィラマインは自分についてきていた大人の騎士に、名刺を渡させる。


「竜の処遇についても、ぜひ私どもの国にお問い合わせくださいませ。あのタイプの竜の繁殖地は私の国だけですの。おそらく我が国から盗まれたものだと思われますわ」

「うわーん、誘拐されたー」


 竜の子はそう繰り返し、警察にディナン公子達を指さす。

 もうこれだけで、状況は決したようなものだった。

 ディナン公子は呆然としたまま警察署に同行されることになった。もちろん牧野君や彼の騎士も同じだ。


 ヴィラマインは自分の車を呼んで警察署に行くことになった。

 そして私だけど、目撃者は倉庫から逃げて来た人達もいる。おまけに一緒に通りがかったというお友達が、アンドリューという異世界の王族だということで、警察もこれ以上異世界に関わる面倒な諸問題を避けたかったのだろう。

 ヴィラマインにだけ事情聴取をすることで、私とアンドリュー達は帰ることができた。

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