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私のクラスに異世界の王子達がいるんだけど  作者: 奏多
第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク
50/58

2-13

 タクシーに乗った後、私は牧野穣一と名乗った彼と、数年前に開園した異世界の動物を多く集めた『桑野市動物園』へ向かった。

 桑野は学校がある場所の隣の市になるけれど、ひどく遠い場所ではない。車で30分くらいだ。

 本人や父親も、学校のある市の端に住んでいるのかもしれない。


 牧野君はタクシーの中で、どこかへ電話をかけた。

 そのうちに動物園を通り過ぎた。えっ? と思う。


「動物園の中じゃないの?」

「父さんに聞いたら、動物園にはいないらしいんだ。内密の話だから直接しないと……あ、ここで止めて下さい」


 動物園を囲む木々を隔てた倉庫群。そこで牧野君はタクシーを止めた。


「動物園の倉庫なんだ。父さんは今こっちにいるらしい」

「……そうなんだ」


 牧野君の話を聞きながら降りたものの、ついてきたのが早計すぎたかもしれない、という気持ちになっていた。

 なにせ倉庫の周辺は人もいない。

 静まり返った寂しい場所だ。助けを呼ぶのもむずかしい状況というだけで、心細くなってくる。


 でも、もし彼が何らかの画策をしていたところで、ここから逃げて……大丈夫だろうか。

 道には行き交う車もいない。ので助けを呼ぶこともできない状況だ。

 正直なところ、私に腕力とか格闘系の技能なんてない。だから少し離れた動物園まで、必死に走るしかないのだけど。


 と、そこで動物園の名前が入ったジャンパーを着た人が、倉庫から出てきたのが見えた。

 ……嘘を言っているわけじゃない?

 悩んだところで、持っていた携帯が鳴る。

 立ち止まって取り出してみれば、エドからのメールだった。中身は平和なものだった。


《殿下とヴィラマイン王女が密会をしております。これは脈があるということでしょうか?》


 思わず苦笑いして、少し気持ちが軽くなった。エドが暇そうなことを言うということは、ヴィラマインとアンドリューの周囲は平和だということだ。実に結構。


「どうかした?」


 先を歩いていた牧野君が、立ち止まって振り返っている。

 私は数秒考え、携帯のボタンを一つ二つ押してから言った。


「ちょっとお母さんから早く帰るように言われちゃって。あの、卵のことは頼んでいいかな? 遅くなると不審がられてしまうから」


 何も無理についていく必要はない、と私はようやく思えた。

 さっきは大人に絡まれて気が動転していたし、あの場所に一人で取り残されるのがちょっと不安だったのもあったから、私もついて来てしまったんだと思う。

 でも彼の行先は、ちゃんと動物園の人が出入りしている場所だし、処置してくれるんだと思えた。それさえわかればヴィラマインにこのことを知らせておけばいい。


「ごめんね」


 そう言って私が道路の方へ駆けだそうとした時だった。

 鳥みたいに素早い影が、私を捕まえる。


「うげああああっ!?」


 勢いがすごすぎて、掴まれた肩とお腹あたりが痛い。しかも真横に吹っ飛ばされるみたいな状況で、何が何だかわからない。


「何、なに? なにーーーーー!?」


 叫んだら口を塞がれた。

 速すぎて胃が揺さぶられて何もわからないまま、私はいつの間にか倉庫の中みたいな場所に来ていた。

 そこでぽろっと拘束していた人に離されて、床に膝をついてしまう。


 いったいここはどこ? 見回せば、鉄のコンテナが隅に積み重なった倉庫の中だ。

 というかどうして、なんで自分がこんな目にあっているのかと思っていたら、さっき私を拘束していたらしい男性が、急に私を縄で縛り上げた。


「ちょっ……なんなのあなた!」


 知らない人だ。でも身体能力的に、間違いなく異世界の騎士だ。

 そう思ったら、手と胴を縛られたところで、倉庫の中に二人が入って来た。

 顔を見て、そういうことかとわかる。


 一人は、私をここまで連れて来た牧野君。

 もう一人は、ディナン公子だったのだ。


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