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私のクラスに異世界の王子達がいるんだけど  作者: 奏多
第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク
40/58

2-3

 会場に戻った私は、ヴィラマインを連れてエド達の元へ行くことにした。

 ひとまず、他の男性と話していれば邪魔できないだろうと思ったのだ。

 これは穏便な解決を願うヴィラマインのためだ。彼女としては、この場を乗り切れば時間がかせげるので、その間に本国の方からファン・ベルクス公国に辞退の連絡をしてもらうという段取りにしたいらしい。


「だって沙桐さんの作戦を実行したら、やはり沙桐さんに負担をおかけすることになりますから」


 なんて優しい言葉までもらってしまった。

 そしてヴィラマインとしても、飛獣のことを知らせたら本国もファン・ベルクスとの婚姻については辞退すると考えているようだ。

 飛獣というのは、多少の利益を蹴ってでも、騎士以外への供与を避けたい存在らしい。


 しかしアンドリューの所にも、伏兵はいた。


「ヴィラマイン様もお越しになられていたのですか。ぜひアンドリュー殿下ともご歓談下さい」


 笑顔はないものの、ガン見しながらの催促に、ヴィラマインの頬がひきつっている。

 けれど入学当初の鬼気迫る勢いや、強要してるのかというような物言いはないので、ヴィラマインもかろうじて笑って流せているようだ。


 その主であるアンドリューは、大量のカナッペを皿に盛って帰ってくると、私達にも食べるよう差し出しつつ、もぐもぐしながらヴィラマインに謝っていた。


「いつもごめんねヴィラマイン。聞き流してくれていいから。沙桐さんのおかげで、やんわり勧誘する以上のことはしなくなったし」

「ええご心配なさらないで、大丈夫ですわ。それにしても沙桐さんは本当にすごい方ですわね。入学当時のエド様が嘘のようです」


 ほぅ、と頬に手を当てて息をつくヴィラマイン。


「私、沙桐さんが男性なら放っておきませんでしたのに」

「う?」

「こういった会に出たり、薦められたお見合より、異世界で出会った同級生が私を庇ってくれて……という方が、ときめきますもの」


 話だけかいつまんで聞くと良さそうに聞こえるが……男だったらそもそも気後れしてヴィラマインに近づいてないだろうから、友人関係すら築けなかっただろう。

 しかし背後から、同意の声が飛び込んできた。


「あら、私と気が合いそうねヴィラマイン様」


 顔を出したのはリーケ皇女だ。まさに女王、と言いたくなるような赤紫の衣装に目を奪われる。


「あら、リーケ様いらっしゃっていたんですね。ごきげんよう」


 挨拶したヴィラマインも、リーケ皇女の衣装を誉めてから尋ねていた。


「リーケ様もお相手探しですか?」

「うふふ。こういった所に来ると、こう、くすぐったいようなやりとりとか駆け引きが見られますでしょう? 私それが楽しくて」


 さすがリーケ皇女。合コンに来る理由がそもそも人と違っていた。

 しかも相手を見つけることなど眼中外らしい。きっと母国に婚約者候補の一人や十人そろえているので、今さら探す必要がないのだろう。

 そして合コンの楽しみ方も人それぞれと言う事かと、私は変な方向に感心してしまった。

 リーケ皇女は、ヴィラマインに滔々と語る。


「壁の花になってしまう少女に、手をさしのべる男性……そんな姿を見るだけでも、何通りもの楽しみ方ができますでしょ?」

「素敵ですわ!」

「恋物語のセオリー通りの誘いの言葉だけならまだしも、幼なじみ同士で、ぶっきらぼうに声をかけて誘ったり、実は予定調和な打ち合わせ済みの出会いで、お互いに嫌だから笑顔で嫌みを言い合うって場合もありですわよね。うふふ」

「リーケ様ったら想像力が豊かでいらっしゃるのね、もっと聞かせていただきたいわ!」


 わくわくした表情のヴィラマインに、私は少しほっとする。

 さっきまでお通夜みたいな雰囲気を漂わせていたから、明るく笑ってくれると、相談に乗った甲斐もあるというものだ。


 そんな事を考えながら、二人から一歩離れた。

 盛り上がったついでに、そのまま私から関係ない話題にずれてくれないかなと期待してのことだ。私の顔を見て、発端を思い出されたら困る。


「物語的に一番いいのは王子様かしら。ほら、あのレレネアの花の側にいる方。近くで談笑しているデルフトの王子のお国の方よ。とても優秀で、付き人として留学が認められた子爵家のご令嬢らしいの。たぶん、付き添いで参加したのでしょうけれど、もし王子に気持ちがあったりしたら……いいと思いません?」

「思いますわ! でももう少し王子が彼女を気に掛けるそぶりがあったら、こう、素敵なのに」

「アンドリュー王子でしたらどう思いまして?」

「そうですね……、最初から上下関係ができあがっている場合だと、むしろそういう関係を夢想しにくい人も居るんじゃないかな?」


 そろそろともう一歩離れている間に、アンドリューが話題に引っ張り出された。


「むしろ沙桐さんといえば、エドなんてそれに当てはまるんじゃないかな? 異世界で右も左もわからずにいたところを、教え導く人が現れて……みたいな」


 私は悲鳴を上げかけた。

 沈静化しそうになってたのに、どうして話題をそこに戻すんだ!


「ナニソレ美味しい……」

「エド様って、実はヒロインな立場とも考えられますのね」


 当然女子二人が食いついた。

 恨みがましい目を向けると、アンドリューが「どうしたの?」とばかりに首をかしげている。何も考えずに言ったかのように見える。けど、アンドリューに限ってそんなわけがない。

 絶対に自分が話のネタになるのが嫌だったに決まってる!

 でもこうなるともうヴィラマインやリーケ皇女を止められない。


「確かに沙桐さんは私にとってもヒーローですもの」

「先日も、こちらの世界の女の子を助けていたのでしょ? お人好しもヒーローとしては必須の条件ですわよね。沙桐さんたら理想的」

「こうなったらヒーローの取り合いがあってもいいのでは? 私ライバルとして立候補しますわ!」

「うふふ。エドはどうなのです? あなたにとって沙桐さんはヒーローではなくて?」


 ノリノリのリーケ皇女がエドに話を振る。

 しかし、むしろ私はそれでほっとした。エドのことだから、女心など遠い銀河の果てに放り投げるような、変なことを言ってくれるはず、という妙な信頼があった。


 必ずや彼は事態を沈静化させてくれると思ったのに。

 オリーブとローストビーフのピンチョスを食べていたエドは、しっかりと飲み込んでから言った。


「師匠は、私にとって唯一無二の方ですが」

「むにっ!?」


 どうしてその言葉をチョイスした! 愕然とする私。


「やだ、情熱的……」


 リーケ皇女はうっとりとしている。きっとお好みの状況が脳内で妄想されているのだろう。

 しかしエドには理由がわからないようだ。


「皆様どうしてそんな反応をなさるので? 師匠は今までになく、私を見捨てずにご指導下さる唯一の方でございます」

「そこは他に比べられる人がいないとか言いなさいよ」


 さすがに続いた言葉は情緒的にもあっさりさっぱり風味だったからか、リーケが口を尖らせる。エドはますます首をかしげるだけだ。


「比べる……? 師匠と比べられる方ですか……私の中で師匠と双璧を成すのは、騎士団長ですね。あの方はもう嫌だと言いながらも、結局は手を差し伸べて下さいました」

「……男と比べるのね、へぇ」


 リーケ皇女の声がものすごく冷めたものになる。表情が『普通に比較されちゃつまんないのよ、もっとネタになりそうなこと言いなさいよ』と言っていた。

 しかし私は満足だ。エドはやはりこうでなくては。

 ヴィラマインの方も、エドのこの話題に未練があるらしい。


「でも沙桐さんはそれほどにすごい人だということですわ。私、沙桐さんなら喜んでお嫁に行きますのに」


 そんなことを言いながらも、ヴィラマインが私のドレスの裾をちょんと摘む。

 ……どうしよう可愛い。

 同性相手なのに、ときめいてしまった。なんかお国のことが関わってるし、それを背負って立つ王女様の問題だからと思ってたけど、嫁にやるのが惜しくなる。

 うちの娘を嫁にしたかったら、私を倒してからにしろ! とか言いたくなる。しかし私の強さなどスライム以下なので、壁にもなりはしないだろうけど。

 そんな事を考えていると、一番婿候補から遠ざけたい人物が声をかけてきた。


「ヴィラマイン様は夢見がちな方なんですね。大変お可愛らしい」


 ぐでっとしたキツネ帽子を被った、ディナン公子だ。

 先ほどより近くでまじまじと見つめられるのでわかったが、キツネは精巧なぬいぐるみだ。ふれあいキツネ園みたいな所へ行ったことがあるが、こんなにほわほわした綿毛みたいな毛ではないので間違いない。


(うん……やっぱり変人だ)


 剥製を頭に載せるよりはややマイルドだが、高校生が仮装大会でもないのにぬいぐるみ載せ帽子を被っているあたりは間違いなく変人だ。

 やだなぁ。変な人ってどういう絡み方してくるかわかんないから苦手なんだよね。だから一度離れたところで空気読んで「あ、これ以上だめ?」ってのを察してほしかったんだけど。

 なんて考えている間に、ディナン公子がアンドリューに視線を移していた。


「ヴィラマイン様と親しいんだね。アンドリュー殿下」

「久しぶりだね、ディナン公子。同じクラスだから自然と同郷のよしみで話すことが多いんだよ」


 アンドリューは、突然割って入ってこられたことに驚いた様子も見せずに応じていた。

 そんなアンドリューにディナンがばっさりと切り込んでくる。


「まさか君も、ヴィラマイン王女の夫の座を狙ってるの?」


 尋ねられたアンドリューが、さっと視線を向けてきた。私に。

 ……どうする? って目で訴えてくるんだけども、なんで私に聞くかな。

 普通はヴィラマインの様子を伺うものだと思うんだけど……。そうか、さっき一緒に戻ってきたから、何かしら私とヴィラマインで打ち合わせていると思ってるのかもしれない。


 なら、アンドリューにも作戦に乗ってもらうとしよう。

 にこっと彼に笑ってみせると、私は会話に強制参加する。


「それってヴィラマインの王子様を探す話ですよね! 窮地に立たされた国を救いたいと願う姫のために、手を上げてくれる方が沢山いるんですって! アンドリューはこのこと知ってた?」

「いいや、今日初めて聞いたよ。でも……そうか。ヴィラマインが誰かの手を選ぶ日がもう来るなんてね」


 アンドリューはすぐにこっちに乗ってくれる。状況が良くわかっていないだろうに、ありがたいことだ。


「でもヴィラマインを一番大切にしてくれる人を選んでほしいと思うし、なによりヴィラマインが好きになれる人であってほしいと思ってるんですよね」

「沙桐さん……そんなに私のことを思って下さっているなんて……」


 超わざとらしく言う私に、ヴィラマインが感動したように頬を染める。

 いやいやヴィラマインさんや。頼むから感動してないで、さっき話してたこと思い出してー。ほら作戦開始だよー。


「まさか姫は……女性が好みなのか?」


 ディナン公子がちょっとばかり衝撃を受けたような顔をしてつぶやいた。

 その間に私はヴィラマインの背中をつっつく。彼女もそれで私の策について思い出したようで、唐突な棒読み状態で私が期待する台詞を口にした。


「わわ、私のことを思って下さる沙桐さんに、選ぶのを手伝っていただこうかしらー」

「お国のご両親にも相談なさるでしょうけれど、候補を選ぶのでしたら、手伝うわーヴィラマイン」

「そうですわよね、沙桐さんは私の好みも承知してくれてますものー」

「好み……?」


 私とヴィラマインの会話にディナン公子が首を傾げた。

 お行儀の良い王子様なディナンは、私達の会話に無理やり入って来ることができずにいるようだ。意外に押しに弱いんだなと思った私は、しめしめと心の中でつぶやく。これなら押し切りやすい。

 一方、傍でやりとりを聞いていたリーケ皇女が、噴き出しそうな表情をしている。

「まさか、ヴィラマインの好みってアレのこと?」

 話に乗ってきたリーケ皇女に、私がうなずく。

「好みがあるんだったら、はっきりと相手にも伝えた方がいいんじゃないかな? ほら、興味がある人達が他にもいるみたいだよヴィラマイン」

 アンドリューが振り返るので一緒に後ろを見ると、どうやらディナン公子以外の求婚者なのだろう、3人ほどの異世界人らしき男子が近くに立ってこちらを見ていた。

 ィナン公子が突撃したのを見て、自分達もヴィラマインに話しかけようと考えたのかな。

 他人事ながら、取り合いをされる女性の図というのに、私はわくわくとしたんだけど……ふと、私は彼らの後ろにいる人物が気になった。


 こちらを見ている、あきらかに私と同年配の、日本人の生徒だ。

 彼も衣装を借りたクチなのか、黒い裾長の上着の襟を、居心地悪そうに手で触れている。日本人の標準的な黒髪に銀縁のめがねをかけた大人しそうな顔立ちの彼は、確かに美麗な銀刺繍の服に着られている感がある。けれど気にするのは着心地だけなのか、微妙に落ち着き払っているあたり、胆力がある方なのかもしれない。


 彼もヴィラマインを見ているような……いや、ディナン公子のことも見ている?

 とりあえず疑問に気を盗られていてはいけない。私はヴィラマインが有利になるよう話を運ぶのだ。


「……正直に言ったらいいんじゃないかな? 好み」


 私はヴィラマインに言った。


「え、でも……」


 尻込みする彼女に、私は首を横に振る。


「こういう時だからこそよ。私はヴィラマインに悔いのある選択をしてほしくないし、どうせならばあなたが幸せな気分で過ごせる相手を選んで欲しい。それに『あの』条件なら、逆に問題にならないと思うの」


 純然たる好みの問題を提示されたら、誰だって「あ、ああ……」とうなずかざるを得ないはず。


 ――これが私の立てた作戦だ。


 もし選ぶ権利がヴィラマインにあるというのなら、なおさらだと思う。それにヴィラマインを獲得したいと思うのなら、条件を満たす義務があると思うのだ。

 恋愛感情無しで結婚するのならばなおさらに。ヴィラマインを得たいと思うなら、何か一つでも個人的な好みを叶える努力をすべきだと私は思うのだ。気遣う気持ちを感じたら、信頼関係という形で結ばれやすいだろう。そうしたら、選ばれた相手とヴィラマインの結婚生活は、少しでも穏やかなものになるはず。


 ……本当はこっちの感覚で言うなら、ヴィラマインには好きな人と結ばれてほしいけどさ。王族のことなんてわかんないし、そこまでは口を出せるもんじゃない。

 だからこれは、私ができる精いっぱいのヴィラマインへの友情の証だ。

 相手にしっかりとヴィラマインの趣味嗜好をわかってもらい、それを乗り越えた相手を選べるようにしつつ、避けたい相手を遠ざけるための通過儀礼を設けるのだ。


「あなたの好みを乗り越える気概を示すことができたら、周囲からもその相手は尊敬の目で見てもらえるようになるはずよ。……度量が広いって」


 私の言葉に、不審そうな表情をしていたディナン公子が、我慢しきれなくなったようにヴィラマインに尋ねてくる。


「ぜひお聞かせいただきたいですね。貴方の関心を得られる上、尊敬を集められるほどのこととあれば、僕はなんとしても条件を満たして差し上げたい」


 彼の言葉に、周囲にそれとなく集まってきていた男性陣が聞き耳を立てている。

 舞台は完成した。あとは発表するだけだ。


「さぁヴィラマイン、言っておしまいなさい!」

「わかりましたわ、沙桐さん」


 決意を秘めたまなざしで少年を見据えたヴィラマインは、大きく息を吸った。そしてため込んだ空気を解放するように声を出す。


「私、筋肉が素敵な人じゃないと嫌なんです!」


 筋肉。

 その言葉が思いきり叫ばれ、周囲に響き渡った瞬間――会場が静まり返った。


 うん……ヴィラマインさん。そこまで大声で叫ばなくても良かったんだけど……ま、いっか。

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