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私のクラスに異世界の王子達がいるんだけど  作者: 奏多
第一部 ガーランド転生騒動
28/58

28

 学校へ到着した時、車から降りた私とエドに、人々の視線が集まった。

 そこで私が思い出したのは、笹原さんにアンドリューと登下校をさせた時のことだ。


 恋人と誤解させるための行動を、もしや私もやってしまったのかと身構えたのだが、


「と、とうとう師匠に、送迎付きのVIP対応をするようになったのか……」

「あのエドを手懐けると、ルーヴェステインはVIP対応をするらしいぞ」

「どれだけひどかったのあの騎士は」

「俺はあの小幡沙桐がラスボスのように見えてきた」


 聞こえてくる言葉は、取り越し苦労を飛び越えて、人を魔王扱いするような代物ばかりだ。


 や、分かってはいたけどね?

 でもさ、こんなエドでも『騎士』ってだけで、一緒にいたいというミーハーな人もこの間増やしたからさ、ちょっとはこう艶っぽい噂とか経験しちゃうかもしれないって心配してたけど。そんなことはなかった。


 これはもはや、己に色気がないとかそういうせいかもしれない、とやや肩を落とした私だったが、これが予想外に良い方へ作用したらしい。

 乾いた笑いを浮かべている間に、男子生徒達とすれ違ったりしても気づかなかったほど、もう恐れる気持ちが消えていた。


 このエド効果に感謝すべきかどうか悩む。

 キースのことも多少は警戒していたが、周囲ににらみを利かせる三白眼なエドが真後ろをついてきているからか、心配はしなかった。

 ……たぶんうっかり顔を合わせたら、驚きはするだろうが。


 そうして教室に入り、まず最初にやったことはアンドリューに顔を貸せと、教室の隅へ連れて行ったことだ。


「で、アンドリュー。弟子をお迎えに寄越したのはどういうこと?」 


 アンドリューはさわやかな笑顔で答えた。


「いつでも助けに行くって言ったよね?」

「そりゃ言ったけど」

「でも助けに行く前に、露払いしとけばもっといいかなって」

「…………」


 エドで威圧して露払いか。

 意図は理解したけど、とうとう私への認識が魔王レベルになりつつあるのは不測の事態だ。エドに師匠と呼ばれるようになっても、せいぜい小ボスくらいの認識でとどまれると思っていたのに。


「まぁ、効果は……あったわ」


 認めざるを得ない。そんな私に、アンドリューはさらに攻撃を加えてきた。


「あと、これからエドが大丈夫って思うまで、ずっと沙桐さんと一緒に行動させるから」

「……は?」

「あと、送り迎えは僕とエド、もしくはエドが必ず同伴になるから」

「え、これからずっと!?」


 一回きりの措置ではないのか。思わず振り返ると、背後にいたエドもその話は了解していたようで、重々しくうなずいた。


「師匠、今までも校内では同伴させていただいておりました。その範囲が広がるだけです」


 最近、笹原さんの件でエドを便利に使って、いつでもどこでも連れ歩いていたのは私なのだ。

 その延長だと言われてしまってはぐうの音もでない。


「万が一のことがあってはいけないからね、沙桐さん」

「うぅ……」

「エドを、連れて行ってくれるね?」


 アンドリューにじっと見つめられて、私は夏の強い陽射しに負けた植物のようにうなだれた。


「……でも、ケリはついたじゃない?」

「沙桐さんが、怖くなくなるまでだよ」

「いやもう、多分怖くない……」

「こういうのは後から不意に思い出したりするそうだよ? だからしばらくは僕らといようね?」


 何を言っても、アンドリューには暖簾に腕押しというか、暖簾を押そうとしてもひらりとかわされて元に戻られてしまうような気分になる。

 とうとう反論が尽きた私は、なしくずしにアンドリューの提案を受け入れるしかなくなっていた。


 それからというもの、授業の合間に何をするでもなくエドが背後に立つ。

 移動教室も、背後にエドが付き従う。

 私の姿を見た人達がドン引きする。

 この図式に周囲が慣れ始めた昼休みには、


「おい、VIPが来たぞ!」

「ホントだ騎士連れてる!」

「へぇあれが異世界の騎士を屈服させたっていう女子生徒?」

「空手の有段者とかなの?」


 誤解がさらに広まっていく。それを否定しようとすると、今度はアンドリューに止められるのだ。


「怖い人だと勘違いしてもらった方が、沙桐さんにとっては良いでしょう? うかつに誰も近寄らない方が安心だろうし」


 その意見に賛同したのはヴィラマインだ。

 教室で机をくっつけて一緒に弁当を広げていたヴィラマインは、アンドリューの意見にうなずいていた。


「男性に脅されたのでしょう? いくら沙桐さんが平気でも、身を守るにはしばらく必要だと思いますわ」


 本日の異常事態に、とりあえず街中で(よく見知った男子生徒に)脅された話をしておいたヴィラマインは、護衛の意味を含めて必要だと主張してきた。


「ただ……沙桐さん、かっこいいと思いますわ」

「え、どこが!?」


 どこをどう見たらそういう評価になるのかと聞けば、ヴィラマインはちょっと頬を染めて言った。


「うちの国でね、ある町の屈強な兵士が魔物を飼い慣らしたらしいの。実際に身に行くことは禁じられてしまってできなかったのだけど、絵姿は人に書かせて送ってもらったのよ。その人みたいでとてもかっこいいわ」

「へ、へぇ……」


 私はひきつった笑みを浮かべるしかない。

 でもわかってるんだ。ヴィラマインは心からマッチョな強い人間が大好きなだけなのだ。ついでに言うと、マッチョじゃなくても強い女の子に憧れている彼女は、私にかくあってほしいという理想像があるらしいのだ。

 異世界人ってやっぱちょっと変わってる。


「恐縮です」


 エドはちゃんと訳が分かっているのかどうか、頭を下げて礼を言っている。

 この男の反応もかなり謎だ。エドよ。主の花嫁候補から魔物扱いされてるんだが、君はそれでいいのか?


 とはいえ深く突っ込むことはできず、私はお弁当箱いっぱいに詰め込まれていたエピピラフを口に運んだ。


   ◇◇◇


 お弁当を腹に収めた直後、アンドリューが誰かからメールを受け取っていた。

 そうして彼に誘われて、エドとともに人目を避けるようにして誰もいない化学室へと案内された。


 待っていたのは、オディール王女に連れられたキースだった。


 目が合った瞬間、肩が震えそうになったがそれは堪えられた。怖がっているなどというそぶりなど、決してしてやるものか。

 ぎゅっと右手を握りしめて入る時に、さりげなく案内をするようにアンドリューが私の左手を掴んで中へ誘導し、背後のエドが促すように背中に手を当てる。

 それだけでほっとしてしまう。

 本当は気を使ってくれる二人に礼を言いたいけれど、今は後回しだ。


 オディール王女の前に私が立つと、美しい黒髪を今日も背に流した彼女が、両手を肩に当ててお辞儀をする。おそらく彼女の国の礼儀作法なのだろう。


「沙桐さん、昨日の一件では我が国の者がご無礼をいたしました」

「オディール様がしたことではありませんから。頭を上げてください」


 落ち着いてオディール王女に応じることができて、私もほっとする。キースが見ている前でも声だって震えてはいない。克服したんだと思えば、なおさら自信がわいて来る。

 オディール王女は顔を上げて、でも申し訳なさそうな表情で続けた。


「事前に行動をお知らせいただいておりましたのに、対応できなかったのは私の責ですわ。しっかりと監督し、今後決してこの者から沙桐さんやもうお一方、ご迷惑をおかけしている方には接触させないようにいたします。それだけでなく……」

「王女」


 アンドリューの言葉に、オディール王女はハッとしたように言葉を途切れさせる。


「これ以上は大丈夫ですよ。沙桐さんもわかってくれますから。ね?」


 アンドリューの言葉から、更なる償いをと言い出そうとしていたのだと私は予測した。うん、止めてくれてよかった。あまりにがっちりと謝罪され続けるというのも、なんだか居心地が悪くなるものだ。

 だから私はアンドリューにうなずいて見せた。

 少しほっとした表情になったオディール王女は、次にキースの名を呼ぶ。


「さ、あなたからもお詫びをなさい」


 促されたキースが、一歩だけ前に出る。

 けれどオディール王女の前には出ない。半歩ほど下がった位置で、膝をついて左肩に右手を沿えて、平伏するかのように一礼した。


 いつもなら、異世界式の貴族にされるような礼におたおたする私も、今日ばかりは冷静に見下ろすことができた。

 こうした礼は、服従の意を表すために行われるものだ。

 利き手をよく見える場所に置くことで、剣を隠し持ってはいないこと――害意がないことを示させ、一段低い場所から見上げることで、どちらが上なのかを知らしめるためのもの。


 私は偉い立場ではないけれど、キースには私に害意がないと示した上での謝罪をしてもらう必要があると思った。

 なにせ剣をつきつけられたに等しい事をされたのだから。


「私の個人的な感情により、小幡殿には多大なご迷惑をおかけいたしました。お詫び申し上げます」


 顔を伏せたキースは『許してくれ』とは言わなかった。

 許してもらえるとは思っていないからなのか。とりあえず許しの言葉をもらうまではと、すがりつかれることだけはなさそうだと私はほっとした。

 罰はオディール王女が与えるだろう。女性が蔑まれる国を憂える彼女に、私からもぜひこき使ってやるように言って、後にその様子を教えてもらって溜飲を下げられればいいとする。

 私はこれからがんばらなければならないオディール王女に、余計な心労をかけさせたいわけではないので。


 はい、と顔を上げたキースは、一度オディール王女の方を振り仰ぐ。

 その表情に、私は微かな違和感を覚えた。

 オディール王女はキースのことを見ていないので、気づかなかったようだ。そのまま私にもう一度詫びを言い、アンドリューにも手を患わせたことを詫びる。

 そうしてオディール王女と私が握手をし、この件は決着をしたことになった。



 それから教室に戻った後で、午後の授業を受け始めたところで、私はキースの表情の何がひっかかったのかを思い出す。


 ……冷たかったのだ。元婚約者に向ける表情としては。


(でも別れちゃったわけだし。今は未練もないのだとしたら、冷静に王女のことを見られるようになっただけ、とか?)


 後考えられるのは、キースがいつも笹原さんに甘い表情をしていたせいだと思う。恋人同士だったのなら、あの片鱗ぐらいは伺わせるような態度だろうと、私が先入観を持っていただけだろう。



 放課後になると、気づけばエドが背後にいた。

 なんだか監視されてるように感じる。

 もちろん周囲は、弟子が師匠をVIP扱いしているだけだと思い、電柱がそこにあるくらいのスルーっぷりだ。

 反応されない方が良いはずなのに、微妙な気分になるのはなんでだろう。


「さ、参りましょう師匠」

「その前にちょっと図書室寄りたいんだけど」


 本の返却期限が迫っているのだ。返してしまいたい。

 エドはうなずき、もちろん図書室まで背後をぴったりとついてくる。追跡されてるみたいで居心地悪いが、私が昨日から今日に至るまで、怯えまくっていたせいなので仕方ない。

 慈善によるカウンセリングのようなものだ。


 本を返しに行くと、当番の図書委員は男子だった。けれどもう怯えることはなくなった私は、はいと本を渡す。しかしその時、図書委員が妙に怯えた眼差しで私の背後を見ていた。


 エド、なんで威圧したんだ。


 なので申し訳ない気持ちになり、新たな本を借りることもなくさっさと図書室から出る。

 二階建て構造の図書室のある校舎の別館は静かだ。

 玄関のある本館へ向かう廊下も、人の気配はない。

 そんな中、淡々と歩き進んでいると、ふいにエドに引き留められた。


「師匠」

「なに?」

「迷ったのですが……これをお持ち頂けるでしょうか」


 エドが差し出してきたのは、青に金のラインが入った小さな石だ。ラピスラズリに似ているが、あれはこんなにはっきりとラインが出るものだっただろうか。

 それにこちらの方がサファイアみたいに透明感がある。小指の爪よりも小さくて、黙っていればただの装飾品にも見える物だ。

 石は結びつけておけるようにか、首から提げられるようにか、長めの銀鎖がついていた。


「我がルーヴェステインでは、こういった贈り物をすることがままありまして」


 無表情ながら、エドは妙に歯切れの悪く説明する。


「その、魔物避けのようなものでして」

「はぁ魔物避け」


 こっちの世界にはいないけど、どうしてまたこれを私にくれようとしたのだろう。

 よくわからないものの、好意で申し出てくれたのは確かだ。拒否する理由もないので、御礼を言って受け取った。エドも受け取ったことにほっと肩の力を抜いたようだ。そんなに私に持たせたいものだったんだろうか。

 そう思いながら彼を見て、ふと気づく。


「あ、でもなんかこういうのエドも持ってるよね。同じ石?」

「左様です」


 答えたエドが、首から提げた青い石を襟元から引き出して見せた。

 思えばいつも斜めに欠けている勲章。これも青に金のラインが入っている。ルーヴェステインではこの石が象徴的なものなのだろうか。


「ルーヴェステインの流行り物なの?」

「いえ伝統的な贈りもので、本来は子供……」


 そこではっとエドが口を自分の手で塞ぐ。

 しかし私は確かに聞いた。子供。本来は。ということは、だ。


「まさか異世界的には子供へのお守りを親が贈るみたいな?」


 エドは数秒黙り込み、視線を逸らしていたものの、やがてあきらめたようにうなずいた。


「…………なるほど」


 今私は、朝からのエドの行動のおかしさに納得がいった。


 朝のお迎え。手つなぎ。子供向けのお守り。


 途中の見つめ合いだけは他からの情報を組み合わせたから異質で、だからこそ混乱したのだが、そうだとわかればなんのことはない。

 エドは、怯える子供と同じ対応を私にしただけなのだ。


 ほっとすると同時に、今朝ときめきかけた自分がなんだか恥ずかしくて、思わず頭の中で『心頭滅却……目の前にいるのは立方体』とつぶやく。

 それからようやく落ち着いた心で、エドに言った。


「まぁ、うん、ありがと」


 子供用の対応マニュアルしか頭の中に無かったとはいえ、確かにエドは心配してくれた末にこんな行動をとったのだ。子供扱いだからといって、責めるようなものではない。

 礼を言われたエドは、私が怒っていないと感じたのか、ほっとした表情になる。


「ではお手をどうぞ。帰りの車で殿下も待って居られますので」


 そう言って自然に手を差し出される。これも今朝の延長上なのだろうが。


「いやそれは拒否」

「なぜ!」


 拒否ると抗議された。どうして傷ついた表情をするんだねエドくん。


「殿下のは拒否されなかったというのに……」

「手を握るのって一時的措置あんでしょ? それに私、未成年だけど気持ちは有り難いんだけど、エドとは異性なわけで人前で見られそうなのはちょっと恥ずかし」

「はい、理解しました」


 言葉の途中で、エドがうなずく。

 差し出して手を下げてくれたことにほっとして、エドに導かれるまま校舎を出てルーヴェステイン所有の車に乗せてもらったのだが。


 私は、エドの神経細胞までが、斜め上に電気信号を送ることをまだよくわかっていなかったのだ。


 いつもは助手席に収まるエドが、私を右手に乗ったアンドリューの方へ押し出すように後部座席に乗り込んできた時、変だと思うべきだった。


「師匠はい、ここならば誰からも見えません」


 きりっとした表情でエドが手を差し出してきて、戸惑っているうちに左手を握られた。


「え? ええっ!?」


 確かに人に見られるのは嫌だったが、誰も『見られなければいい』とは言っていない!


「ちょっ、エド……」

「ぷっ、くくくっ」


 隣でそれを見ていたアンドリューが、笑い出す。

 笑って見てないで、自分の部下の暴走を何とかしてくれと言う視線を送ると、アンドリューはふるふると唇をふるわせながらエドに問いかけた。


「えっとエド。どうしてまた手を繋ごうと思ったんだい?」

「魔物被害時のマニュアルのことを、思い出しまして……」

「マニュアルにそんなこと書いてあったかな?」

「被害にあった者への対応で、不安がる場合は手を繋ぐのが有効で、被害者は落ち着くことが多いと。手の空いている者や無事な者はそういった形で他者を援助するようにと書いてありました。それを、昨日殿下が師匠の手を握っていたのを見て思い出しました。もっと小さな子供であれば抱き上げて背中をたたくというのもありましたが、さすがに師匠はその年齢ではないと考えまして」


 そこまで聞いたアンドリューは、こらえきれないように笑い出す。

 対して私は、真っ青になっていた。


 いや、まさかエド。私が中学生とかだったらまさか、抱き上げて背中を叩いてあやすとか、本気でやるつもりだったのか!?

 しかしエドに羞恥心はないのか? 女の子と接しないからわからなかったとか?

 まさかと思ったのだが、エドは本当に分からないらしい。首をかしげている。 


「何か問題が……? やはりもっと女性らしい対応の方が良かったでしょうか。師匠がそれを望むかどうかわからなかったもので。しかも男性からの被害とあれば、変に接触しすぎるのも控えるべきかと考えたのですが」

「そこまで配慮できるなら、なぜ……」


 私はめまいがした。

 どうして男性との接触を避けたいと思ったからと言って、子供対応になるのか。いや、問題はなかったけどさ。クッキーも美味しかったけど。

 そこではっと気づいて尋ねる。


「ま、まさか大人の女性の場合って何するわけ?」

「落ち着かせた後は、女性でお手伝い出来る方に対応を任せます」


 ……ちょっとだけ、私そっちの方が良かったかな。そんな事を思ったが、でもここまで一日で恐怖心が払拭されたのは子供扱いされたおかげともいえるし。

 なら私って子供っぽいのだろうか。

 唸りそうになっていると、ようやく笑いやんだアンドリューが爆弾を投下した。


「でも沙桐さん、僕が手を握っても嫌がらなかったもんね。……安心した?」


 なんてことを聞くんだこの王子は!

 しかもこっちは確信犯だ。絶対に私をおちょくってるに違いない!


「僕も手握ってみようかな。子供の頃を思い出すな。三人一緒に行動するために、手を繋いで歩くように、とか。あんな感じがするな」

「どうぞご参加下さい。師匠の心の傷が早く癒えるかもしれません」

「いや、これやったからってそんなわけは……」


 やんわりとお断りしたというのに、目に涙を浮かべて笑うアンドリューは、はっきり言わなかったのをいいことに、右手を握ってくる。


 そして私は拒否できないのだ。

 振り払ったら悪いじゃないか! しかも絶対空気悪くなるのにできない!

 それに……本当に不意に手を掴まれても、この二人には全く抵抗がなくなってしまっている自分に驚いたのもある。


 そして私は気づいていた。

 真正面を向きながら、老齢の運転手さんが肩をふるわせ、口を引き結んで笑うのをこらえていたことを。

 おかげで余計に恥ずかしくなって、私は何も言えなくなって黙り込んでしまったのだった。



 帰宅後、ぐったりして部屋に引っ込もうとしたところ、母に見つかった。


「あんた、今朝の異世界人らしい子のこと、下僕扱いしてるの? こっちのことに疎い男の子に嘘教えて、変な遊び方しちゃだめよ?」


 と言われてずっこけ、柱に足をぶつけて青あざができた。ひどいよ母さん……。自分の娘をなんだと思ってるんだ。

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