NO,2: Encounter
目の前の巨大なお城に圧倒されながらも、何故か体が吸い寄せられる様に前へと進む。
近付いてみるとその大きさがよく分かる。
日本のお城とは全然違う作りになってるし、そもそもこんなに大きくはない。
……実際に日本の有名なお城には行った事は無いけれど、ドラマとか映画とかで見るやつよりは遥かに大きい。
っていうか大きすぎる気がする。逆に不便そうだ。
ボ〜ッと前に進んで、丘を登っていたら人混みが見えてきた。
まだよく分からないけど結構いる。
ここで何かイベントでも行われるのかな?
「よかった、人いるじゃん」
仮に何かのイベントがあるのなら、あのじいちゃんが俺を送り込むのもまだ理解出来る。
いや、理解は出来るけど納得はしない。
だいたい日本からの参加者って浮くし。
今は違うけど、昔のサスケでアメリカ人は浮いてたし、俺もそんな感じになるのは嫌だよ。
……サスケみたいな競技が行われるんなら俺は逃げるけども。全力で。
あれに出るのは一概に化物だから。オールスターズとかあれ、リアルターミネーターじゃんか。
そんな事考えながら人混みに近付いていくと、よかったサスケっぽいのはしないらしい。
皆当たり前だけど外国人で、年格好は同じくらいだ。
人混みの奥の方にはでっかい門が見えるから、多分皆お城の前で何かを待ってるんだと思う。
……ところでやっぱりなんで俺はこんな所に送り込まれたんだろう?
布教かな? 何も知らないけど大乗仏教。
「……ん?」
気付けば周りの外国人さん達は皆チラチラと俺を見ている。
興味深げに見る人もいれば訝しげに見る人もいる。
ともかくなんか注目されてるね。
……スッゴい気まずい。
なんか「なんでいるの?」みたいな雰囲気出す人もいるし。
そんなに東洋人が珍しいのかな?
日本人とか韓国人のサッカー選手とかいるじゃんヨーロッパにも。
『ヒデ』とか知ってるでしょ?
見られるのはいい気がしない。
人種の差か、年格好は同じくらいでもガタイが違う人も結構いる。
顔もなんか如何にもヨーロッパみたいな人ばっかりだし、そんなのに見られたら緊張するしちょっと怖い。
強そうだもんね。
……取り敢えず平常心でいる事を心掛ける。
やっと着いたー、とか言いたげな雰囲気出して。
実際はここで何をするのかとか全然知らないけど。
「ハァイ! 君、東洋人? 珍しいね。日本? 韓国? 中国? 俺は日本人だと思うんだけど、アタリかな?」
「……はい?」
不意に真後ろから声を掛けられる。
まさか遠巻きで見るだけじゃなくて話し掛けてくるのかとビックリしたけど、別になんか高圧的なものでもない普通の挨拶だった。
振り向いて挨拶をくれた人を見てみれば、やっぱり年格好が同じくらいの男の子だ。
羨ましくも背が高くて、顔の掘りがしっかりある如何にもヨーロッパ人みたいな顔した結構イケメンな人。
茶髪が所々跳ねてるけど、多分ワックスだろうね。
スッゴい気さくな笑顔を向けてくれてる。
なんとなく、仲良くなれそう。
「あぁうん、日本人だよ。なんで分かったの?」
じいちゃんに叩き込まれた英語がここで役に立つ。
語学はまず喋れて聞けたらそれでいい。書くのは二の次だ。
そんな事はともかく、自分で言うのもあれだけど日本人にしてはまだマシな英語で返す。
っていうかなんで日本人って分かったのか?
はっきり言って同じ東洋人でもあんまり区別はつかないのに、なんで見るからにヨーロッパ人の彼が分かったのか不思議で仕方ない。
どう考えても世界で一番中国人が多いのに。
「ワァオ、英語上手いな! 少なくともオーストラリア訛りより俺はずっと君の発音の方が好きだ。でも、君が日本人なら、えぇーっと……。あー、あー、……ちゃんと俺は日本語で喋るよ」
「……!」
英語が上手いとか言われてちょっと嬉しい。
この人絶対良い人だね。
とか思ってたらいきなり日本語で喋りだした。
しかもカタコトじゃない、かなり流暢だ。
俺の英語を外国人が聞くよりも、この人の日本語を日本人が聞いたらこっちの方がよりネイティブに近い。
微妙に発音がズレたりもしてるけど、立派なものだよ。ボビーよりはいい。
「日本語上手いね」
「ホントに!? ヤッタね、日本人に日本語話すの初めてだったから通じるか緊張したよ。あぁそうだ、なんで分かったかだけど、君がドーガン《童顔》だからだよ。極東の人は西洋から見たら若く見えるんだけど、日本人は特にそう見えるから。まぁ流石はイリョー《医療》大国、アンチ・エイジングってやつだろ?」
俺と一緒で言葉が上手いって言われたら嬉しいらしい。
ガッツポーズしてくれた。
……でも日本語を初めて使った相手が俺って事は、今まで日本人に会わなかった事だよね。
なんで日本語学ぼうと思ったの?
いつか旅行する為?
そんな彼が教えてくれた理由は確かになんか聞いた事がある話だ。
なんか分からないけど東アジアの人は幼く見られがち。どの辺が幼いのか分からないけど、ともかくそう見られがちなのは話で聞いた事がある。
だから二十歳越えても『ボーイ』って言われる人は言われる。
そんでもって彼も俺に向かって童顔とか悪気も無く、っていうかむしろ褒めたつもりで言ってくれるけど、俺にはその言葉、刺さるんだよね。
同じ日本人からも童顔と言われる俺。
向こうから見たらどれくらい幼いのか怖くて訊けない。
同い年と思われてるかな?
あと、いくら日本が医療に優れた国だとしても、誰もがそんな事してはいない。
スゲーと感心した感じで俺を見てるけど、何もしてないよ俺。
毎日の洗顔ぐらいだって。
「しっかし……日本人がここに来るのは珍しいな。まぁ別に全然いいけど。ところで君は何学ぶの? ケルト? ルーン? 錬金術?」
「……はい!? いや、えっと……」
顎を持って珍しいとかボソッと呟く彼。
珍しいとかそんな事言うのはやめて欲しい。
不安になるじゃん。
でもなんか一人で割り切った。
というかなんか別に気にする事でもないらしい。
という事で話題を変えて、なんか一気に顔を近付けて訊いてきた。
近い近い近い。
しかも全然知らない単語ばっかだし。
『錬金術』だけは分かるけど、錬金術ってマンガのイメージしかない。あれね、鋼の。
なんかますます頭がこんがらがってたよ。
上手く返事が出来ない。
「おっと、そう言えば名前まだだったな。俺はアレン、アレン・グレンジャー。西欧じゃ結構、名が通ってんだぜ?」
自分の胸を親指で指して気さくに自己紹介してくれた。
なんかちょっと有名人らしい。
背も高いし中々なイケメンだし、何気に着てる服とかお洒落だしモデルかな?
それともアレンって名前は如何にもな名前だから覚えやすいし、気さくだから俳優とか?
だったら嬉しいな。
……ってそんな事無いか。
だったら『錬金術』とか言わないよね。
ともかくアレンは自己紹介してくれたから、俺も返さなきゃ失礼だ。
「えっと、俺は北藤悠輝。さっきも言ったけど日本人だよ」
まぁ今も日本語で会話してるから丸分かりなんだけどね。
でも自己紹介が名前だけじゃ寂しいし、一個付け加えてみた。
よろしくって言って対外国人用のマナー、握手をしようと右手を出したけど、なんかアレンは顎に指を当てて俺の名前を必死に復唱中。
発音練習かな?
俺の名前ベタだし言いやすいと思うんだけどなぁ。
右手を出したまま固まった俺にアレンは気が付いて、悪い悪いと右手を出してくれた。
ガッチリ握手したら、なんか安心になってきた。
何するか知らないけど、少なくとも一人普通に喋れる相手が出来た。
「それでユウキ、お前はなんの魔術師? 俺はケルトな、ケルト魔術!」
「……『魔術』?」
……アレンの言っている事が理解出来ない。
『魔術』っていうのはアレだ、マンガとかゲームとか小説とかでよく出てくる超常現象的なやつだ。
箒で空飛んだり、杖から炎とかなんか色々出したり、ホイミとかね。
ともかくそんな感じのフィクションだ。
昔は確かに『魔術師』なる存在はいたそうだけど、あれはまだ科学技術が発達する前の非科学的な物。
科学技術の発展によって無くなった筈だし。
今じゃホントにオカルトな分野だよね。
「そう、魔術。それでユウキはわざわざ日本からイングランドまで来て、何学ぶつもりなんだ?」
「……」
アレンは真面目に俺に訊いてる。
別にふざけてるわけでも無い。
夢見がちな人でもなさそうだし、勿論嘘をついてはいないと思う。じゃなきゃこんなに真っ直ぐ俺の目見れないよ。
……という事は。
なんか胸のドキドキが止まらなくなってきたよ。
「……ごめんちょっと待って」
「?」
一旦落ち着こう。まずは自分の状況を再確認だ。
なんかいきなり俺はじいちゃんにここロンドンへ送り込まれて、なんか入ってた地図辿ったらこの森の前に着いて、中入って進んだら今目の前にあるお城があって、アレンに会った。
ここまではオッケー。
いや一般的に考えれば明らかにおかしいけど、でももうそんな事気にしてたら終わらない。
それで次にアレンの言葉を整理しよう。
何を学びに来たのかアレンは俺に訊いたって事は、学校的な何かかな?
『魔術』とか言ってるから、『魔術』をやるのかな?
……二つ足したら『魔術の学校』だね。
「……ごめんアレン、ここどこ?」
「何言ってんだ? 『学院』に決まってんだろ?」
「……『学院』?」
「『学院』。魔術を教える施設だ。何今さら当たり前の事訊いてんだ?」
よっしゃあ、推理が大当たり……って喜べるかぁっ!?
なんだ『学院』って!?
なんだ『魔術』を教える学校って!?
ファンタジーか!?
ヤバいよ、本格的に胸のドキドキが止まらないよ。
俺、絶対迷い込んじゃいけない場所に迷い込んじゃったよ。
あの変態は俺に何させようとしてんのさ!?
英語、武道ときて次は魔術っておい!
三段目でのオチなのこれは!?
目の前でアレンは首傾げて当たり前じゃんとか言ってるけど、当たり前じゃないから!
何者、あなたは何者ですか!?
「ちょっ、ホントに!? いやいや魔術ってなに!?」
「……はぁ、何言ってんだユウキ? ジョークにしては出来が悪いぜ?」
スッゴい呆れた表情でアレンはそう言ってくれるけども、残念ながらジョークでもなんでも無い。
正真正銘ホントの事だ。
騒いでるから周りの人もなんか訝しげに俺を見てるけど、気にする事じゃない。
どうせ日本語分かんないでしょ!?
取り敢えずアレンの両肩を掴んで、顔を真っ直ぐ見る。
俺の身に起こった事を話そう。
まだ出会ったばっかりだけどアレンはきっといい奴だ。信じて話そう。
今の俺、あたふたしてるからちゃんと通じるか分からないけど。
「……どうした?」
「じ、実は――」
アレン向かって一気に話す。テンポ早いから外国人のアレンにちゃんと伝わってるかは分からない。
分からないけど、話す。
今の俺は本当に藁にもすがる思いだ。
出来ればこの『学院』っていう特殊な場に迷い込んでしまったこの哀れな俺へ具体的なアドバイスが欲しい。
一気に話し終えるとアレンは開いた口が塞がらないって感じ。
という事は一応話は通じたって事だね。そこは一つ安心した。
でも問題はここからだ。
この後どうするかだね。
言っとくけど俺、魔術は使えないよ。
「……な、なんて言えばいいのか分からねぇが、ユウキのじいちゃんコセー的だな」
「うん……まぁね。……で、俺はこの後どうすべきかな?」
個性的なのは認めよう、認めるよ。認めなきゃおかしいしね、あのキャラで。
でも今はそんな事どうでもいい。
俺はこの後どうすべきか。
これが問題。
アレンも真面目に考えてくれてるらしく、頭に手をやってうーんと唸ってる。
……本当にいい奴だ。
友達どころか親友になれそうだね。
「……そうだな、取り敢えずユウキ、なんか紙とか封筒とか貰わなかったか? あ、地図とかじゃねぇからな?」
「ちょっと待って」
そういえばなんか封筒を貰った。
中身がなんかやたらと詰まってパンパンになってたやつ。中身は着いてから見ろとか言われたし、そのままバックに突っ込んだままだ。
キャリーバックを開けて中を探ってみる。
内側のポケットから直ぐに出てきた。
相変わらずパンパンで、しかもこれが意外と重い。
中に何入れてんだ。
バックを閉じて封筒をアレンに渡す。
アレンはちょっとその分厚さに驚いたけど、それでも受け取って中身を見る。
そして、中から一枚の紙を引き抜いた。
「ほら、これ見ろ」
「……『入校許可証』、って?」
引き抜かれた一枚の紙。
真っ白なB4の紙のど真ん中に英語のブロック体で『入校許可証』と手書きで書かれている。
その下にも英語で何か書かれてるけど、崩れに崩れた筆記体で読めない。
紙の左端の下には真っ赤な印が押されていて、英語が読めない人は卒業証書とかと間違えそうだ。
……手書きだから間違えないかな?
「森の前に門があったろ? あの門はこれがねぇと開かねぇんだよ」
「……へぇー、機械じゃなかったんだ」
「ってか何も知らなかったのに、開いたから入ったのか? 『Nature reserve《自然保護区》』って書いてたのに」
「……ホントに? 霧で気付かなかったよ」
あの門は何かのハイテク機械で開いたわけではなかったらしい。
確かにあんなでかいのに音一つ立てずに開いたりして怪しかったけど、まさかそんな仕組みだったとは。
アレンが呆れ半分驚き半分と言った感じの顔でそんな事言うけど、霧のせいで見えなかったんだから仕方ない。
まぁ仮に見てたら日本大使館に直行してただろうから……俺にとって運の尽きだったって事かな。
出来ればアレンとは別の場所で出会いたかったね。
「まぁそんなユウキの度胸のでかさはともかく、本題は次だ。この『入校許可証』はな、当たり前だけど魔術師の家しか絶対に手に入らない。という事はだ、ユウキん家は魔術師のカケーって事になる」
「……さっきの俺の話聞いてた? うちはお寺だけどそんな事はしてないって、絶対! してたら俺、絶対気付いてるし!」
「テラは魔術と関わり深いってか、ミッキョーとかは魔術だぜ? それにユウキが気付かない様に活動なんて、余裕だろ? ユウキずっとガッコー行ってたりしてたんだからな」
魔術の学校なんだから魔術師の家しか手に入らないっていうのは理にかなってるし分かる。
一般人の家にいきなりそんなもん送り付けたらただの怪しい新興宗教か何かだと思われるだからからね。
でも、だからと言って俺の家がそんなんだとは言えない。
確かにお寺だ。しかもそこそこ由緒正しい。
アレンの言う『ミッキョー』なるものはよく分からないけど、うちはそんなんじゃない。
……でも、アレンの最後の言葉は成程確かに返せない。
俺は中学では朝練、学校、部活で夜まで家に帰ってこなかったし、小学校ではずっと外とか友達の家で遊んでた。家にいない時間は確かに結構ある。
……でも、ずっと家にいた時だって勿論ある。
夏休みに何日間か家でグータラしてた時だってある。
うちがそんな家系だって決定打にはならないよ。
「それにほら、これ、お札だろ?」
「…………ホントだ……」
アレンが封筒をひっくり返す。
蛇が這った様なふにゃふにゃな文字が書かれたお札が束で出てきた。
輪ゴムで縛ってるとか物っ凄い適当な扱いだけど。
……これでやった事も無い『魔術』をやれと?
無理だ、ぶっつけ本番過ぎる。
意図が読めないよ。
……でも、この『学院』っていう施設に俺を送り込み、しかもちゃっかりお札なんかを荷物に入れてる辺り、本当に俺をここに入れる気なのかな。
無茶苦茶言い過ぎだね、訴えたらきっと勝てるよ。
「こんな感じの札を使うのはシントーかオンミョードーだと思うぜ、日本の魔術は実際見た事無ねぇけど、噂から考えたら」
「じゃあ陰陽道かな、神道は神社だし。」
「本当に何も覚えはねぇのか?」
「うん……身に覚えは無いよ」
アレンが記憶を辿りながら自分の推測を一部発音が怪しいけども言ってくれる。
アレンの言葉を信じて、そこから判断するなら俺は陰陽道かな。
……っていう事は、陰陽師。誰か映画でやってたね。
アレンは本当に俺が何も知らずにここへ来たのかまだ疑ってるらしい。
まぁ俺が逆の状態なら俺も疑うだろうから仕方ないね。怪し過ぎる。
でも本当に身に覚えが無い。
それに『魔術』ってそんなに簡単に扱えるもんじゃないと思う。
まさかFFみたいに買うわけじゃないだろうし。
だったら仮に習ってるとしたら、絶対に記憶に残ってる筈だ。そもそも忘れたら意味無いし。
だから記憶が無い、イコール何も知らないって事なんだけど、アレンに上手く説明出来ないなぁ。
「……今気付いたけどさ、『魔術』について何も知らないから『学院』で教わるんじゃないの?」
よくよく考えてみればそうだ。学校に行く理由は勉強を習う為。小学生が方程式解けるなら小学校の算数という授業に出る意味は無いだろうし、同じ様に魔術について色々知ってたり使えたりするんなら『学院』になんて行かなくてもいい筈だ。
だったら俺がお札持たされてここに送り込まれる意図は分かるよ、一応。
魔術教わってこいって事だから。
納得はしないけどね。
俺の言葉を聞いてアレンは頭に手をやりながら一つ息を吐いた。
そしてなんか妙に納得した感じの表情で俺を見る。
「……ユウキの家はともかく、ユウキが全く魔術について知らないってのは分かったよ、理解出来た」
「やっと?」
今の俺の発言のどこで判断したのかは分からないけど、漸くアレンは分かってくれたらしい。
やれやれって感じの表情がちょっとアレだけど、理解してくれたから良しとしとくよ。
アレンは許可証やお札を封筒に入れ直して俺に返し、両手が空いたところで懐から何か木の棒を取り出し、それで地面に円とかいっぱい書きながら『学院』の説明をし始める。
「『学院』ってのは確かに教育施設なんだがな、ここに入学する奴は基本的に自分の扱う魔術系統の基礎基本は出来るんだ。なんでかって言うと、まず魔術師ってのは単独で行動しない。必ず同じ魔術系統の人らが集まって『魔術組織』を作る。だからその『組織』で独自に子供は教育を受けるんだ。勿論俺も受けたし、周りにいる奴も全員受けてる」
「……だったら意味無いじゃん『学院』」
地面に小さな丸をいっぱい書いて、更にそれを大きな丸で囲む。
その囲んだ大きな丸の下に『PARTY《組織》』と書かれる。
そしてまた、今度は大きい丸をいっぱい書き始めた。
たぶん、その一つ一つが『PARTY』だと思う。
最後にそれらを線で取り敢えず繋ぎ、アレンは顔を上げて俺を見た。
「確かにただ魔術が使える様になるだけなら、『学院』に来なくていい。だけどなぁ、組織は強くならなきゃいけねぇんだ。それに組織間の関係とかも要る。それらの役割を引き受けてんのが『学院』だ」
「?」
丸と丸を繋いだ線をトントンと棒で叩きながらアレンは言う。
線は『PARTY』同士の繋がりって事だろうね。
なんとなくだけどアレンの言ってる意味は分かる。
要はオトナな関係だ。
国とか会社とかに置き換えたら分かりやすい。
強さは国力、繋がりは同盟。
いざこっちがヤバくなったらちょっと頼みますってやつだ。
……意外と魔術師の世界も親近感があるもの持ってるね。
でもそこで『学院』がその役割を引き受けている意味がピンと来ない。
教育機関でしょ?
「『学院』の教授達は世界でも上位の魔術師だ。そんな人達から学べる事はいっぱいあるし、他にも教養とか色々身に付く。一つの組織でずっと教育するよりも芸が広がる可能性が高いって事だ。これが直結して組織の力になる」
「繋がりは?」
「『学院』にはヨーロッパとかアメリカ、アフリカの一部の地域から色んな組織の奴が来る。一緒に学習してるうちにそいつらが仲良くなれば、組織同士も一度は接触出来る。ちょうど今の俺とユウキみたいに全然違う系統の組織ともな」
組織は構成している若いメンバーの力を上げつつ、他の組織との繋がりを得れるチャンスがあるって事かな。
……なんというか、オトナだ。
オトナな場だよ『学院』。
普通の学校とは毛色が違う場所だ。
政界パーティーみたいな側面持ってるよ、イメージだけど。実際はどんなもんか知らないよ。
「……なんか、ただ学びに来る場所じゃないんだね」
「まぁ、そんな難しく考えなくてもいいぜ? 気楽に友達作って自分の腕磨いてたら後は大人が勝手に動くからな」
小難しいオトナの思惑とかがありそうだけど、アレンは笑いながら否定する。
まぁ確かに教育機関だし、実際は大人達が動くんだろうけど、それでも変に使命に燃えてる人とかいると思うんだよね。
なんとなく周りを見て探してみる。
もう俺をチラチラ見てる人はいない。
元々の知り合いなのか新しく作った友達なのかは知らないけど、殆どの人が誰かと喋ってる。
……実は何かの駆け引きが、なんて事も無さそうだね。かなりリラックスした感じの表情だし。
「アジアの人が全然いないね」
見渡す限り欧米系の顔ばかり。
黒人と白人はいても黄色人種が全然いない。
不自然なくらいいない。
そういえばアレンが最初に日本人は珍しいとか言ってたっけ?
やっぱり場所が場所たがら?
ロンドンだもんね、遠いよ。
「最初に言っただろ? 東洋人は珍しいんだ。何せインドも中国も日本も独特の魔術を持ってるけど、殆ど全部が秘密主義。今でこそ西洋と触れる機会は増えたけどな、それでも中々出てこねぇし。そんなんだから世界で唯一の教育機関たる『学院』にも東洋魔術のもんは皆無。だから来ない、のループだ」
アレンも同じように周りを見ながら言う。
秘密主義とかは分からないけど、確かに昔は今みたいな交流なんてあんまりなかっただろうし、西洋は西洋で、東洋は東洋で交流してただろうし。
シルクロードってのも一応あったけどね。詳しくは知らないけど。
せいぜいインドと中国でしょ。
だからまぁ『学院』に東洋のが何もないのは頷ける。
当たり前だ。
……だからこそ疑問が一個生まれる。
「……なんで俺、ここに来たんだろ?」
アレンとの推察じゃ、仮に魔術をするとしたら俺は陰陽道だ。
ここは『学院』、西洋魔術が主体ってか全部の場所。
世界唯一の機関らしいけど、それはもう歴史上仕方ない。東洋人はほぼ来ない設定だ。
まさかそんな場所だとは知らずに俺を送り込んだのなら、凡ミスにも程がある。
知ってて送り込んだのなら、それはエグすぎる。
お札が入ってたって事はお札を使う魔術の筈だ。
でもアレンの話では西洋魔術にお札を使うものは基本的に無い。
という事はやっぱり俺は陰陽道で、西洋魔術をやれって事ではない。
……結局俺をどうさせたいの、じいちゃんは?
「ケルトの俺には分からねぇけど、きっと意図はあると思うぜ?」
「……逃げるのは無理かな?」
「無理無理、門を通ったんだからな」
肩を落とす俺をアレンは励ましてくれるけど、ちょうど180°、日常とは真反対の世界に送り込まれたんだ。しかも意図不明。
自分で言うのもアレだけど、よくこんな風にアレンと普通に喋れてるよ俺。ぶっ倒れてもおかしくないと思うんだ。
試しに逃げられるかどうか訊いてみたけど呆れた顔されて無理と言われた。
まぁ無理だろうね、なんとなくそんな気がしたよ。
そんな甘くない。
仮に逃げれたとして、後々何が起こるかも分からないし。
なんたって魔術、呪いとか掛けられそうだ。
「っていうか、このご時世に魔術をやる意味はあるの?」
今から魔術を教わる、っていうか既に基礎基本とかその他諸々バッチリらしい既に魔術師なアレンに向かって言うのはどうかと思うけど、それでも疑問だ。
そもそも『魔術』とか言ってるけど、実際はゲームとかで見る『魔術』と同じような感じなのか?
杖とか振るのか?
ビビデ・バビデ・ブーなのか?
謎過ぎる。
一応現代には科学っていうものがあるからね。
剣振り回して馬で駆け回ってた時代ではないよ。
そんな俺のある意味今ここにいる人達をバッサリ切り捨てる様な言葉を聞いてアレンは苦笑い。
怒らなかったのでホッとした。
「……まぁ確かに、普通に生活するなら要らねぇな。魔術は万能じゃねぇし」
あっさりアレンも認めたよ。
凄いあっさりだ。特に拘りが無いのかな、って思うくらい。
万能じゃないともあっさり言うし。
まぁ万能だったら今頃は科学文明じゃなくて魔術文明になってるだろうから、そこはあっさり言えるかもしれないけど。
それでも、とアレンは言ってさっき地面に丸とか書いてた木の棒をもう一回取り出した。
アレンが何かを呟くと、それがメキメキと軋む様な音を立てながら伸び、先が別れて葉っぱが数枚生えた。
……魔術だ。
「この世には魔術でしか出来ない事もある。科学では絶対に解決出来ない、魔術でしか解決出来ない現象や事件もある。それをどうこうするのが魔術師だ」
木の棒からすっかりミニチュアサイズの木になったものを軽く振りながら、アレンはニヤリと笑う。
スッゴい様になってる。
科学ではどうにもならない事。
確かに今アレンが見せたものは絶対に科学じゃ無理だ。
何がどうなってこうたのか、目の前で見てた俺は見当がつかないし。
いきなり棒が成長したとしか言えない。
これは無理でしょ科学では。
「じゃあさ――」
「続きはまた後だ。今日のメインイベントが始まるぜ」
「――?」
脳内から沸き上がる質問。
それをアレンに言う前に、シッと遮られた。
メインイベントが始まるかららしい。
よく意味が分かんないけど、取り敢えずアレンが向いてる方向を見てみる。
……いつの間にか人が空中に立って何事かを言っている。
あんまり聞こえないけど、何か始めるから着いてこいとかそんな感じの言葉。
「……うっ、浮いてる、人が……」
「こういうの見慣れてる俺からしたら、なんか新鮮な反応だな」
あんなの見たら普通は驚くに決まってる。
浮いてるどころか歩いてるし、空中を。
隣のアレンは俺の反応が新鮮らしくて笑ってるけど、普通は見慣れてないからね。
アレンが異常なだけだと思う。いや間違いない。
浮いてる人が空中を歩き始める。
どうやら丘を下って森の中へ入るらしい。
着いてこいとか言ってたから、周りの人も歩き出す。
目の前のお城はスルー。
……結局このお城はなんなんだろう。
集合場所に使っただけとか? 渋谷のハチ公か。
「どこ行くの? ってか何が始まるの?」
どこかに向かってるのは間違いない。
こことは別の場所でアレンが言うメインイベントをするんだと思うけど、その肝心のイベントが何か分からない。
魔術の披露とかだったら俺は無理だ。
……本音を言えば帰りたいんだけど。
「どこ行くかは知らねぇけど、やる事は分かるぜ。『入学儀礼』だ」
浮いてる人の後を追って、流れる人混みの中でアレンは笑う。
楽しいから笑うんじゃなくて、ニヤリと不敵な感じに。
……嫌な予感しかしない。
ここから何故か一気に長くなってる。
神威です。
長くなってるのに別作品の影響で私自身はあんまり長くなった感じはしないのですが、読む方にとってはいきなりの増量ですよね。
リメイク版だしガッツリ書いたろうと思い、タラタラと説明させてみたのですが、眠い。
ホントは人が揃う筈だったんですがね。
なんでこんなに字数が増えたのか?
あ、『学院』に対する大人の思惑は特に書きませんから、なんか身構えないでくださいね。
名刺とか渡しませんよ。
という事で、これからは字数はこれくらいを目安にして書いていきたいと思うのでよろしくお願いいたします。