閉ざされた世界
「服、脱いで」
笑みを浮かべ、優しい声で彼は言う。
「はい」
戸惑いはない。
私は従うしかない。
冷静に判断した。
命を奪われるくらいなら、知らない男に裸を見られ、犯されるくらい何てことはない。
彼は右手に鋭いナイフを握っている。
この部屋から抜け出し、元の世界へ帰りたい。
高校の制服のブレザーを脱ぎ捨て、ネクタイを取る。
シャツの第一ボタンから外す。
シャツを脱ぎ、紺色の靴下も脱ぎ、スカートのホックに手を伸ばす。
スカートが床に落ちる。
名前も年齢も知らない今日初めて会った男の前なのに、キャミソール、ブラジャー、ショーツしか体を隠すものはない。
「ごめん。寒いよね。風邪ひいちゃうよね」
彼は床に置いてある暖房器具のスイッチを押す。
季節は冬。
今日は曇っていて、天気予報では雪が降ると言っていた。
「ありがとう」
何故、礼を言ってしまったのかは分からない。
それは、学校帰りのことだった。
いつものように友達と駅の改札で別れた。
寄り道はしない。
受験生だから、そんなことをしている場合じゃない。
センター試験まであと7日。
奮わない模試の結果に焦りを感じていた時だった。
このままの成績だと志望校の合格は無理。
憧れの先輩の後輩にまたなりたい。
たとえ、先輩の彼女が私の同級生でも。
知ったのは今日だった。
何だか、自分自身が馬鹿らしく感じた。そういえば、私と気軽に話してくれたけど、あの子にも気軽に話していたね。
気が付かなかった。
恋愛に疎いって、凄く惨めに感じる。今まで誰とも付き合ったことはない。
どう接したらいいか分からないから、男友達もいない。
エッチをしたこともない。
仕方も分からない。
保健体育の授業では教えてくれない。
コンドームを使わなければ、妊娠しちゃうって聞いたくらい。
破れたり傷付いたのは使うなって聞いたけど、だいたいどうやって、使うのよ。
インターネットで調べても分からない用語ばかり。
性器にはモザイクがかけられてる。
本物は見たことがない。