「神絵師の腕」
初カキコ…ども…
「神絵師の腕」
俺は神絵師になりたかった。
だがそれなりに努力をしたし、参考書も山になる程買って一言一句そらで言えるぐらいには内容を叩き込んだがそれでもなれなかった。まるで遥か先の目標に向かい血反吐を吐きながらマラソンをしているかの様だった。
ところで、「神絵師の腕を食えば神絵師になれる」なんて噂がある。俺はそんなうまい話あるわけない、あったらとっくに神絵師を殺して骨の髄まで食っている、と笑っていた、あの時までは。
バイトの帰り道、夜中の路地裏、ぼんやり明るい怪しい露店。そこには「神絵師の腕あります」との張り紙。
半信半疑で入ってみると、ドレッドヘアのヒッピー風の男がひとり、ぽつんと佇んでいた。
「にぃちゃん、神絵師になりたいんだろ?」
入って早々、そいつは俺が来た目的をズバリ言い当ててみせた。
なぜ分かった、と聞くと「顔に書いてんぜ」とだけ、どこまでも底の見えない男だと感じた。
「神絵師の腕、1本10万だけどあんたいいお客さんになってくれそうだから1万にまけとくよ」
男はそう言って木箱を取り出した。
1万。値引きされているとはいえ、苦学生の俺には決して安い買い物ではない。だが神絵師になれるなら、という一縷の望みを託し、男に一万を差し出した。
「あいよ、また来いよ」
店を出る間際、男はこう言った。
家に戻り、木箱を開けると誰のものかはわからない、人間の右腕が1本と「必ず1日で1本を食べ尽くすこと」と書かれた紙が入っていた。
恐る恐るその腕を手に取る。間違いない、こいつは本物の人間の腕だ。食うのが恐ろしくなった。だが買ってしまった以上捨てるわけにはいかない、警察に持っていこうとも考えたが、露見すれば殺人を犯したと疑われるかもしれない。捨てれば不審に思われるだろう。それ以前にそもそも、俺はどうしても神絵師になりたい、その覚悟で買ったのだ。
不気味で仕方なく、食うと考えただけでも恐ろしいが、勇気を振り絞り、ステーキにして食べてみた。一口食べてみる。味は、拍子抜けするほど普通の肉だった。だが――。
噛み締めるほどに肉汁と共に「知識」が脳に流れ込んでくる。線の書き方、色の塗り方、その他「神絵師」になるための知識。それはもう美味だった。
翌日、また同じ時間にあの店を訪れた。男は相変わらずそこに居た。
「にぃちゃん、また来たのか、今度は左腕、5万でいいよ」と男は告げた。迷いはない。俺は男から左腕を買い、また食べた。食べ終わると無性に絵が描きたくなり、近くのチラシにボールペンで絵を描き出した。どんどん筆が進む。まるで自分のモノではないみたいだ。
すっかり虜になった僕は、男の店に足しげく通うようになった。そして今度は神絵師の足や腸、眼球に至るまで、ありとあらゆる部位を食い尽くした。その度に知識と旨味に溺れていった。最初に感じていた不気味さは消え失せ、今では目を食えば色彩が、腸や足を食えば人体の構造が知れるとさえ思えるようになってきた。
描いたイラストをSNSに上げれば毎回大バズり、様々な企業からイラストのオファーを貰えるようになった。ついに売れっ子の神絵師になったのだ。
嬉しいなぁ。嬉しいなぁ。嬉しいなぁ。
こうして「僕」は「また」神絵師としてなり上がれたのだから。
人生初なろうです




