極秘資料:梅雨が季節ではない理由
今年も無事に梅雨は明けただろうか。
もしそうであるならば、一般の人々が知らないその裏で、
気象庁と自衛隊が協力して、壮絶な戦いを繰り広げた結果なのは、
あまり知られていないことだろう。
日本には四季がある。
春、夏、秋、冬、の四つで四季だ。しかし思い返して欲しい。
春と夏の間には、梅雨が存在する。
梅雨はスッキリと晴れ渡る春とは違うし、
照りつけるような太陽が昇る夏とは違う。
梅雨は季節なのではないか?
日本は本当は、春、梅雨、夏、秋、冬の五季なのではないだろうか?
そう考えた人も少なくないはずだ。
しかし結論から言ってしまえば、それは間違いだ。
日本はれっきとした四季を持つ国である。
つまり梅雨は季節ではないのだ。
梅雨が季節でなければ何なのだろう。
その情報は国家機密として厳しく制限されている。
しかし、ここにある記録が発見された。
それは、気象庁と自衛隊による血みどろの戦いの記録。
そう。梅雨とは、魔物のことなのだ。
梅雨とは、魔物のことである。
いや、決して冗談や想像で話しているのではない。
しっかりとした根拠がある事実である。
梅雨とは実は魔物のことだ。
梅雨の魔物の巣がどこに現れるのかは、毎年違う。
梅雨入りとは、梅雨の魔物が巣から目覚めた日のことをいう。
だから梅雨入りを阻止することはできないし、
年によっては梅雨入りの日を特定するのも難しい。
梅雨の魔物は、おおよそ六月中に巣から目を覚ます。
梅雨の魔物は、巨大な蜘蛛と鯨を合わせたような外見をしていて、
腹に巨大な水袋を持って生まれてくる。
その水袋の水を、呼吸するように霧状に空高く目掛けて吹き出す。
吹き出された霧状の水が固まっていくことで、梅雨の雨雲が出来上がる。
おなじみの梅雨の雨雲は、空を薄暗くし、しとしとと雨を降らせる。
それだけならば、もしかすれば人間は、梅雨の魔物と共存できるかもしれない。
しとしと雨を降らせるだけであれば、魔物と呼ぶことも狩ることもない。
だが実際の梅雨の魔物は違う。
人間が実力で止めなければ、水袋に溜めた水を際限無く吹き出し雨雲を作る。
気象庁と自衛隊の阻止が遅れた場合、そのような状況が生まれ、
長雨による自然災害の原因になる。
梅雨の雨による自然災害は、実は梅雨の魔物が原因の災害だった。
梅雨の魔物は雑食である。人間を食べることすらある。
そして、大量の水を飲む。巨大な水袋に水を貯めるために。
梅雨の魔物の退治が遅れた場合、人間は夏に水不足に直面することになる。
夏の水不足もまた自然災害ではなく、梅雨の魔物が原因の災害なのだ。
水を飲み干した梅雨の魔物は、勢いよく水袋から水を吹き出すことがあり、
それは夕立として水不足の解消の役に立つ。
しかし梅雨の魔物は、出した水を再び自分で飲んでしまうので、
やはり水不足解消のためには、梅雨の魔物の退治は欠かせない。
それでもなお、梅雨の魔物の退治が遅れた場合。
梅雨の魔物は夏から秋にかけて雨を降らせ続ける。
それは秋雨と呼ばれる現象で、しばしば台風や竜巻と重なって災害となる。
梅雨の魔物の影響は夏だけでなく、その後の季節にも及んでいるのだ。
しかも、他の自然災害と重なれば、相乗効果で大きな災害となる。
だから気象庁と自衛隊は、梅雨の魔物を夏までに仕損ても、
引き続き退治のために追いかけなければならないのだ。
日本の冬はしばしば大雪が降ることがある。
豪雪地帯などでは、毎年何メートルもの雪が積もる。
それもまた、梅雨の魔物が生き残っていた場合の影響である。
冬まで生き残った梅雨の魔物は、水袋から水を吹き出す。
それは冬の寒さによって、霙になったり雪になったりする。
梅雨の魔物は一か所に留まらないので、
都市部に雪を降らせたり、豪雪地帯の雪を酷くしたりする原因となる。
梅雨の魔物が降らせる大量の雪は、場所の特定が難しい。
だから、雨雲の原因が移動していて、突然雨雲を発生させる。
そのため、都市部で突然の大雪になって都市機能が麻痺したりする。
それは絶対に避けねばならない。
気象庁と自衛隊は都市部を重点的に守護するため、
結果として日本では地方のほうが雪が多くなるという現象が起こる。
厳しい寒さと人間の攻撃を乗り越え、春まで生き残る梅雨の魔物もいる。
春の梅雨の魔物は、水袋が外気によって温められるため、
梅雨の魔物が吹き出す水も暖かくなり、雨も春を象徴するような暖かさになる。
しかし油断することはできない。
春の雨自体はさほど問題にならなくとも、年を越えてしまっていることが問題。
梅雨の魔物が春まで生き残っているということは、
そろそろ今年の梅雨の魔物の発生にも備えねばならないからだ。
一匹でも手強い梅雨の魔物を、二匹同時に相手にするのは至難の業。
記録に残っている限りでも、梅雨の魔物を二匹同時に発生させた年は、
大雨や大雪による甚大な被害が出たとされている。
だから、どんなに遅くとも、梅雨の魔物は、
次の年の春までに退治しなければならない。
気象庁と自衛隊の特殊チームでは、毎年そのように厳しく言われている。
決死の戦いの結果、幸いなことに、
今までに梅雨の魔物を春までに仕損じた例は少ない。
気象庁と自衛隊の被害も大きかったが、民間人への被害は防いでいる。
では、もしも梅雨の魔物が二匹同時に現れたらどうなるか?
これはその場合の最新の記録である。
最初に断っておくが、この記録は原本ではない。
記録の写真を撮ったものである。
なので、記録の欠落や、判別の難しいものがあるのは了承して欲しい。
ある年、ある地方のこと。
この年は、梅雨入りも梅雨明けも発表されなかった。
春の終わりの梅雨入りの時期には、はっきりしない雨が降ったり止んだり。
また夏の始まりもまた、はっきりせずに迎えた結果、
梅雨入りも、梅雨明けも、両方とも特定できなかった。
この頃はまだ、梅雨の魔物について未解明の部分が多く、
梅雨の魔物が発生しなかったせいではないかと言われていた。
しかしそれは間違いだった。
梅雨の魔物は確かに発生していた。
しかしこの年の梅雨の魔物は狡猾で、
目覚めて巣から出るところから、姿を隠しながら行っていた。
水袋の放水も範囲を広げることで効果を分かりにくくした。
その結果、特に気象庁はその年の梅雨の魔物の発生を見逃した。
発生したことを人間に悟られずに済んだ梅雨の魔物は、
まず水を集めることから始めた。
あちこちの河川やダムなどから、広く少しずつ水を吸い込んだ。
結果として人間の目を欺く事に成功した。
水は少しずつ梅雨の魔物の水袋に収められ、
代わりに梅雨の雨は量が少なくなっていた。
雨自体は降っている。だから人間は気が付かなかった。
気が付いた頃には、水不足が発生していた。
その年の水不足は不自然だった。
まるで兵糧攻めのように、徐々に水不足が進行していた。
雨は降っていたのに水が貯まっていない。
ダムは底の肌を露わにし、雨は海に降り注いで塩水になった。
梅雨の魔物が、人間に明確に敵意を持っていると分かった瞬間である。
気象庁はすぐに自衛隊に連絡。
自衛隊はそれまで、梅雨の魔物を異常生物程度にしか考えていなかった。
しかし気象庁からの情報に基づき、その扱いを変更。
梅雨の魔物を明確に人間の敵とした。
もしその決定がもう少し遅れていたら、多くの人が死んでいただろう。
まず自衛隊は、現在の梅雨の魔物の居場所を探した。
梅雨の魔物は光を透過する毛で身を包んでいる。
そのため、目視による発見は難しい。
これが、梅雨の魔物が一般には知られていない理由にもなっている。
しかし気象庁のデータが、梅雨の魔物の居場所を赤裸々に現している。
突然、雨雲が現れる場所。しかもそれが移動していれば、
そこに梅雨の魔物は潜んでいる。
気象庁のデータにより、その年の梅雨の魔物の位置が推測された。
そこは都市部を望む郊外。大都市でもなければ地方でもない。
そこから都市部に向かって雨雲を吹付け、
雨で視界を奪われた人間を捕ってボリボリと食べていた。
その年の梅雨の魔物は肉をよく食べる危険な個体だった。
自衛隊はすぐに攻撃準備を整え、不発弾の処理と称して人払いをした。
「撃てー!」
雨雲の元に向けて、戦車や戦闘機が攻撃を加える。
その弾薬は地面には届かず、空中で爆発した。
「いる!対象発見!攻撃続行!」
目では見難い梅雨の魔物に向けて、自衛隊の攻撃が続く。
これには梅雨の魔物も堪らず、早足で逃げていった。
雨雲を出さないので、逃げた方向は不明。
梅雨の魔物の体毛は次々生え変わるので、ペイント弾の類も効果が薄い。
結果としてその年の梅雨の魔物は取り逃してしまった。
その梅雨の魔物も懲りたのか、以降陸地に雨は降らなかったが、
人間は厳しい水不足を何とか乗り切ってみせた。
その年、人間は厳しい水不足の夏を乗り切った。
すると今度は、夏の終わりから秋にかけて、逆に大雨に襲われた。
梅雨の魔物が水袋の古くなった水を放出したかららしい。
そこに夏の残りの台風が来たものだから堪らない。
台風は大きな水害をもたらした。
多くの死者、特に行方不明者を出した。
しかし、台風で実際に死んだ人間は少なかった。
死んだ人間の多くは、梅雨の魔物に捕食されたのだ。
見つかった遺体の数が大幅に足りないのがその証拠とされた。
人間の肉で腹を満たした梅雨の魔物は、また姿をくらましてしまった。
次にその年の梅雨の魔物が確認されたのは、冬に入ってからだった。
なぜなら、その年の冬は異常な大雪に襲われたからだった。
この不自然な雨雲はやはり、梅雨の魔物の仕業と思われた。
梅雨の魔物が古くなった水袋の水をまた放出しているのだろう。
その年は都市部も地方もなく、断続的な雪に降られ続けた。
降雪に慣れていない都市部では、数センチメートルの降雪でも大事だ。
車は滑りガードレールを乗り越え人を挽き、
電車は脱線して転覆し、中の人を転げ回してぐちゃぐちゃにした。
そうして事故を起こして、梅雨の魔物は人間を食うのだ。
この大雪での死傷者数もさることながら、
行方不明者の多さがそれを物語っていた。
春になれば雪が溶けて移動がしやすくなる。
それは人間よりもむしろ梅雨の魔物に有利になる。
当時の自衛隊の分析はそのような結果となった。
よって、梅雨の魔物と対決するのは、雪深い翌年二月頃とされた。
梅雨の魔物掃討作戦の決行である。
翌年二月。
梅雨の魔物の影響もあって、都市部も山間部も大雪だった。
その大雪の中で、梅雨の魔物掃討作戦は実行された。
梅雨の魔物の体毛は光を透過するが、雪が積もるのは避けられない。
そこで、あえて梅雨の魔物に雪を好きなだけ降らせることにした。
すると、自分で降らせた雪が積もって、梅雨の魔物の姿が露わになった。
「主砲斉射!」
陸上自衛隊の戦車のみならず、
沿岸部の海上自衛隊の艦船からの砲撃も行われた。
梅雨の魔物は集中砲火を受けて、逃げ場所を求めて暴れまわった。
平野部は姿を隠す場所はない。
条件を考えると、梅雨の魔物が逃げ込むのは山間部しかない。
それも、四方を山々で取り囲んだ盆地だ。
しかしそれすらも、自衛隊の作戦の一部だった。
最初、梅雨の魔物は、溶けた雪に足を取られたと思ったらしい。
蜘蛛の毛は液体を弾くので、雪への乗り方を誤ったと思ったのだ。
梅雨の魔物はすぐに体勢を立て直して、油の上に立った。
雪や雨ではない。油である。
その盆地には、大量の油が蓄えられていた。
梅雨の魔物は自分が浮いている液体の異常に気が付いたようだが、もう遅い。
周辺に潜んでいた自衛隊が、火元となる銃撃を行った。
今度は大掛かりな砲撃はいらない。工兵が作った油の池に火を点ければ良い。
だから森に隠れた狙撃兵たちが、
梅雨の魔物が浮く油の池に着火するために発砲した。
バーン!
多量の油が一斉に発火する様子は、山が噴火したようだったと、
のちの自衛隊の記録には記されていた。
盆地の内部が炎の釜になった。
まるで地獄のような光景だった。
大量の燃える油で炙られた梅雨の魔物は転げ回り、周囲の山林を蹂躙した。
そこには自衛隊の狙撃兵や工兵が潜んでいる。
彼らも容赦なく、油の釜の中に取り込まれた。
「・・・総員、撤退!」
自衛隊の指揮官の判断は賢明だった。
もう少し遅れていれば、勝ち戦とは言えない被害になっただろう。
それにしても被害が大きすぎる。
その時になって初めて、気象庁と自衛隊は、
追いかけていた梅雨の魔物が、実は二匹だったことを確認した。
二匹の梅雨の魔物は付いて離れて活動していた。
だから、今回の梅雨の魔物はこんなに被害を大きくしていたのだ。
今、この火釜に二匹の梅雨の魔物を同時に追いやれたのは幸運だった。
結局、梅雨の魔物は焼け死ぬまでに、
山間部に展開していた自衛隊員の実に三割を道連れにした。
梅雨の魔物に接近してはならないという教訓は、これを機に生まれた。
こうしてその年の梅雨の魔物は退治された。
この年だけ梅雨の魔物が人肉を多量に摂取したところから、
梅雨の魔物の中でも変種であろうと記録されている。
多くの犠牲を出したが、詳細を明らかにすることはできなかった。
もしも梅雨の魔物の存在が公になれば、パニックはおろか、
下手をすれば軍事利用しようとする者を呼び込みかねない。
だから梅雨の魔物のことは全て極秘とされ、
梅雨自体も存在を目立たせぬよう、季節の一つとしては取り扱わず、
日本は春、夏、秋、冬の四季の国とされた。
以上が、かつての梅雨の魔物について流出した極秘資料である。
もしもあなたが自分の身を大切にするのなら、
梅雨を季節として扱ってはならない。
梅雨の魔物の存在を示唆することを口にしてはならない。
梅雨の魔物は今年もやってくる。
そのために障害となるものは、すべて排除される。すべてだ。
それに巻き込まれないために、口をつぐんで欲しい。
どうか、今年の梅雨は穏やかに終わりますように。
終わり。
もう明けてしまった梅雨が生きていたら、という話でした。
梅雨が季節に数えられないのは何故かとずっと思ってました。
もしや梅雨は自然が引き起こす現象ではないのかも。
梅雨の魔物は実在するのかも知れません。
そうでなければ、日本は四季の国だと、
こんなに頑なに言われ続けないでしょうから。
お読み頂きありがとうございました。




