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神縁  作者: 朝霧ネル
7/19

再会

神縁しんえん


大切なものを失った少年・一ノ瀬智也と、異世界から現れた神獣の少女・こはく。ひとつの出会いが、ふたりの運命を静かに動かし始める。


心を通わせながら過ごす穏やかな日常、その裏では、世界を喰らう闇が目を覚まそうとしていた――。


過去の傷、隠された力、交わる縁。青春と戦いが交錯する中で、ふたりは“生きる意味”を探していく。


人と神獣の垣根を越えて描かれる、優しくも切ない異世界ファンタジー。


柔らかな風がカーテンを揺らす中、はじめての授業に少しだけ緊張していた。


 横を見ると、村上はすでに睡魔と格闘中。教科書を枕にしそうな勢いでうつむいている。


 その前の席では、泉がまっすぐ前を向いて、真剣にノートを取っていた。


 ふと視線を窓の外へ向ける。あの日の光景が、胸によみがえった。


 

  ──こはく。


 

 もう一度、あの場所に行ったら会えるのかな…

 そんな思いがよぎった。


***


 昼休み、チャイムが鳴ると同時に、


 「よし、智也! 屋上で昼飯食おうぜ!」


 村上がどや顔で言ってきた。


 「なんなの、その顔……」泉があきれたように目を細める。

 「なんでわざわざ屋上で食べなくちゃならないのよ」


 「決まってんだろ、青春は空の下で食うもんだ!」


 「うわ、なにそれくっさ……」


 二人のやりとりに、僕は思わず笑ってしまう。


***


 屋上では、風が心地よく吹いていた。


 「今日もいい天気だなー! 俺のテンションもMAXだぜ!」


 「はいはい、勝手に昇りつめててください」


 泉の軽い一言に、村上が悶絶する。


 「お前なあ! ちょっとは俺に優しくしろよ!」


 「へー、じゃあ優しくしてってちゃんと言ってみて?」


 「……死んでも言わん!!」


 わちゃわちゃと騒ぎながら、僕たちは屋上のベンチに腰を下ろし、それぞれお弁当を広げた。


 「おっ、智也、それ手作りか?」


 村上がのぞきこむように言う。


 僕はちょっと戸惑いながら、笑顔を作って答える。


 「うん、今は……叔母さんが、色々やってくれてるんだ」


 

そのとき──泉が村上のネクタイをぐいっと引っ張った。


 

 「ちょっと、村上……!」と小声で。「もっと気を遣いなさいよ……!」


 「えっ、あ……わ、悪い」


 村上は焦ったように目を逸らし、それから急に声のトーンを変えた。


  「で、でさ!部活見学始まったみたいなんだけどさ!どこいこうかなって、ほんと迷うよな~!あははは……           


 慌てて話題をそらすように、早口でまくしたてる。


 泉は呆れたように肩をすくめた。「はぁぁ…わかりやすいんだから」



昼休みを終え、午後の授業もあっという間に過ぎていった。


 

 そして放課後──


 「じゃあ、いよいよ部活見学タイムだな!」


 村上が腕をぐいっと伸ばし、やる気満々の声を上げた。


 「そんなに張り切ってどうするのよ。」


 泉が呆れ顔で肩をすくめる。


 「こういうのは雰囲気が大事なんだよ。勢い!部活は勢いで決めるんだ!」


 「意味わかんない……」


 そんなやりとりを笑いながら、僕たちは昇降口を出て、校舎のあちこちをまわり始めた。


一つ目に入ったのは──文芸部。


 教室の扉を開けると、カーテンがほんのり閉められた室内に、静かな空気が漂っていた。


 「いらっしゃい……」


 どこからともなく現れたのは、メガネをかけた長髪の女子生徒。


 「この部屋に入ったということは、君たちも“言葉”に魅せられた者たち……ですね?」


 「え、なに、こわっ……!」


 泉が小声でつぶやく。


 「まぁまぁ、ちょっとだけ話聞いていこうぜ」


 そう言って、村上が前へ出る。


 しかし女子生徒は村上をじっと見つめ──


 「君、孤独の匂いがする。書けますね」


 「あ、なんか、すごい刺さった…つらい…」


 胸を抑えて悲しげな表情をする村上に、僕と泉は笑いをこらえるのに必死だった。


次に訪れたのは──占い研究部。


 「あなたの未来、見てあげるわ」


 待ち構えていたのは、水晶玉を前に真剣な顔をした男子生徒。


 「まって、男子なんですか!? いや、なんでもないです……」


 泉が目を丸くする。


 「まずはあなた。恋愛運を見てあげる」


 そう言って指名されたのは──僕だった。


 「え、僕……?」


 「うむ……ふむふむ……なるほど」


 水晶をじっと見つめた後、生徒は小さくうなずいた。


 「運命の人と、すでに出会っている……!」


 「えええええ!?」と泉と村上の驚きの声が重なる。


 「まさか…俺なのか…?」


 「なんであんたなのよ」


 僕は顔を真っ赤にしながら教室を出た。


 「やっぱり、俺なんだ…」


 「だから違うって」



次に立ち寄ったのは──ロボット研究部。


 「我が部の最新機体を、見よ!」


 部室の扉が開いた瞬間、謎のロボットがいきなり前転しながら登場。


 「え、なにこれ!? なにこれ!? なんなのこの動き!?」


 泉が後ずさる。


 「名前は“ゴリラMk.II”だ。感情認識機能を搭載している」


 「なんでゴリラ!?」


 「感情認識って……“うほっ”とか言うの!?」


 ロボットの奇妙な動きに、僕たちは笑いすぎてお腹が痛くなってしまった。



そして最後に訪れたのは──人生相談部。


 教室に入ると、スーツ姿の顧問らしき人物が、なぜか渋い表情でうなずいていた。


 「悩み、あるか?」


 「いや、いきなり圧が……!」


 村上がたじろぐ。


 「ないなら、つくれ。人生は悩んでこそ深くなる」


 「深くなりたくないです!!」


 教室を出る頃には、3人ともぐったりだった。



 「……なんだかんだ、面白かった」


 僕がつぶやくと、村上が笑った。


 「だろ? 変な部ばっかだったけど、こういうのも学校の醍醐味だよな」


 泉も、あきれたように、でも楽しそうにうなずく。


 「ほんと楽しかった!てか、スポーツ部一個も行ってないし」


 

 笑いながら別れ道に差しかかり、三人はそれぞれ帰路につく。


 「また明日な!智也!」


 「一ノ瀬君!また明日~!」


一人になった僕は、ふと思い立って歩き出した。


 あの桜の木を、あの花畑を目指して。


 スマホの地図を見ても、あの場所は出てこない。ただ、記憶の中の景色と感覚を頼りに、曖昧な道を進んでいく。


 途中、葬儀場の建物が目に入る。


 数日前、家族と最後の別れをした場所──


 思わず、足が止まった。


 けれど、ゆっくりと深呼吸をして、また歩き出す。


 角を曲がって、坂をのぼって、住宅街を抜けて……気づけば靴は砂埃をかぶり、息が少し上がっていた。


 そして──


 視界がふいに開けた。


 暖かな夕日が差し込む、色とりどりの花が揺れる小さな丘。


 中央には、大きな桜の木が、静かに風に枝を揺らしている。


 「……見つけた」


 ほっと息をつきながら、足を進めたけれど──


 その場所には、誰の姿もなかった。


 「……やっぱり、夢だったのかな」


 そう、ぽつりとつぶやいたそのとき。


 「智也か…」


 聞き覚えのある、静かな声。


 はっとして見上げた先には──


 風に揺れる白い髪と、金色の瞳が、こちらを見下ろしていた。

毎週水曜日/日曜日更新予定(第一章・全48話)

※諸事情により変更する可能性もございます。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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