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神縁  作者: 朝霧ネル
6/30

始まりの日

神縁しんえん


大切なものを失った少年・一ノ瀬智也と、異世界から現れた神獣の少女・こはく。ひとつの出会いが、ふたりの運命を静かに動かし始める。


心を通わせながら過ごす穏やかな日常、その裏では、世界を喰らう闇が目を覚まそうとしていた――。


過去の傷、隠された力、交わる縁。青春と戦いが交錯する中で、ふたりは“生きる意味”を探していく。


人と神獣の垣根を越えて描かれる、優しくも切ない異世界ファンタジー。

朝の光で、僕はゆっくりと目を開けた。


 天井を見つめていると、どこからか鼻歌が聞こえてきた。


 ……叔母さんだ。


 そっと布団から起き上がり、リビングへ向かう。


 「おはよーっ! 智也くん!」


 明るい声が飛んできた。キッチンに立つ叔母さんは、エプロン姿でフライパンを手にしていた。


 「おはよう」


 僕がそう返すと、にっこり笑った。


 こんなふうに朝が迎えられるなんて──叔母さんがいてくれて、本当によかった。


 「今日は……学校、行くんでしょ?」


 僕の気持ちを察したように、優しく言った。


 「うん」


 自然と、笑みがこぼれた。


 「よーし! じゃあ、おいしい朝ごはん作らなくちゃねっ!」


 張り切った様子で、再びコンロに向かってフライパンを振り始める。


 僕は洗面所へ向かい、顔を洗い、歯を磨いた。


 制服に袖を通す。久しぶりの感触に、少しだけ背筋が伸びる。


 すると、リビングから声が響いた。


 「智也くーん! ご飯できたよー!」


 「はーい!」


 鏡の前で、結んだネクタイを軽く整える。


 ──がんばれ、一ノ瀬智也。


 鏡の中の自分にそう言って、僕は深く息を吸い込んだ。


リビングに戻ると、テーブルには温かい朝食がきちんと並べられていた。


 席につき、手を合わせて「いただきます」と言うと、叔母さんは何も言わず、ただ微笑んで僕の姿を見守っていた。


 食事を終え、カバンを手に取り、玄関へ向かう。


 靴を履きながら、振り返る。


 「いってきます!」


 叔母さんはそっと僕の肩に手を置き、笑った。


 「いってらっしゃい! 智也くん!」


 扉を開け、朝の光の中へ足を踏み出す。




 ──久しぶりの登校だった。


 校舎の前で立ち止まり、深く息を吸う。


 「……よし、行こう」


 その瞬間、後ろから声がした。


 「一…ノ瀬?」


 振り返ると、村上が、驚いた表情でこちらを見ていた。


 「……あ、おはよう。久しぶり」


 少し緊張した顔で、僕は挨拶を返す。


 「お、おう……。もう、大丈夫……なのか?」


 村上が気まずそうに聞いてくる。


 「……うん。大丈夫だよ。ありがと」


 僕が照れくさそうに答えると、村上は突然焦ったように僕を指さして言った。


 「そっか! なら気なんて使うなよ! 俺も使わねーから!」


 その言葉に、自然と笑みがこぼれる。


 「ありがと、村上」


 すると村上は、少し目をそらしながらぼそっと言った。


 「……翔でいい」


 「ん? なんて言った?」


 聞き返すと、村上は顔を少し赤くして叫んだ。


 「だから! もう友達だろ! 翔でいいって言ってんの!」


 その言葉に、僕はふっと笑った。


 「わかった。ありがと、翔」


 「……おう。智也」


 その瞬間、ふたりの距離が、ぐっと近づいた気がした。


ふたりは目を合わせて、照れくさそうに笑った。


 村上は目をそらしながら言った。


 「んじゃ、教室……いくか」


 「うん」


 僕も思わず、嬉しそうに返事をした。


 ふたりで下駄箱に向かい、靴を履き替えていると──


 「おはよーっ!」


 元気な声とともに、女の子が走って登校してきた。


 「おはよ!」


 村上が先に返す。僕も少し気まずそうに、「おはよう」と返した。


 女の子は村上の隣に立つ僕を見て、目をぱちくりとさせた。


 「……一ノ瀬……くん?」


 「あ、うん」


 僕がうなずくと、心配そうに僕を見つめた。


 「もう、大丈夫なの? あ! 前の席の泉沙月です!泉でいいよ! 村上とは幼馴染で……」


 突然の自己紹介に、僕も思わず背筋を伸ばして答える。


 「一ノ瀬智也です!よろしく」


 ふたりのやりとりを見ていた村上が、ふいに腹を抱えて笑い出した。


 「なんだよお前ら、お見合いかよ!」


 「なんで笑うのよ! まったく!」


 泉がむっとして怒るが、すぐにため息をついて肩をすくめる。


 「こんなやつなの。ほんと、呆れちゃう」


 その言葉に、僕も笑いがこぼれた。


 「え、一ノ瀬くんまで!? もう……!」


 泉も笑いながら、僕らを見つめていた。




3人はそろって教室へと向かった。


 まだ授業開始までは少し時間がある。


 智也が席につくと、泉が振り返った。


 「そういえば一ノ瀬くん、休んでる間に、少し授業進んだんだよ」


 「え、ほんと?」


 「しかもね、村上、一ノ瀬のためにーって真面目にノートとってたんだよ~」


 「お、おい泉!余計なこと言うなって!」


 「えー、だってほんとのことじゃん」


 村上は照れ臭そうに頭をかきながらも、ちょっと得意げだった。


 「ありがとう、助かるよ」


 智也がふっと笑うと、泉が続ける。


 「あとね、昨日から部活見学とかも始まってね!……」


 泉が身振り手振りで話す様子に、智也は自然と笑顔を浮かべていた。


 村上も、泉の話に乗っかり笑っている。


 そんな、何気ないやりとり。


 自分がいなかった数日間も、みんなの日常は続いていて──今、自分もその中に戻ってきた。


 そのことが、なんだかたまらなく嬉しかった。


 ふと、視界がぼやける。


 涙が、にじんでいた。


 「……えっ、ちょ、智也!? 泣いてる!?」


 村上が慌てて立ち上がる。


 「泉!なんか変なこと言ったんだろ!? 」


 「は!? なんで私のせいなのよ! 村上の顔がしつこいからでしょ!」


 「おまっ……それ、ただの悪口じゃん…」


 「しかも、ちゃっかり、ともやぁ~なんて呼び合う仲になってるし」


 「べ、別にそれはいいだろ…」


 「え~照れてる、きも~い」


 「ほんとお前ってやつは……」


 わちゃわちゃと騒ぐ二人のやりとりが、可笑しくて、あたたかくて。


 涙ぐんだままの顔で、僕は思わず笑ってしまった。


 「二人とも、ありがとう」


 その笑顔に、二人もようやく落ち着いて、静かに微笑み返す。


 ──この二人は、何があっても大切にしよう。


 そう、心から思った。

毎週水曜日/日曜日更新予定(第一章・全48話)

※諸事情により日曜日のみの更新の可能性もございます。

 更新当日にはインスタで告知致します。


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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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