表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神縁  作者: 朝霧ネル
55/56

文化祭・後編

店内の騒ぎが少し落ち着いた頃。

叔母さんが手を振る。


「じゃあ私たちは、もう少し他を回ってくるわね、みんな頑張ってね~!」


澪白も軽く頷く。

凪は元気よく手を振った。


「また来るのだ!」

「お前はもう来なくていいのじゃ!」


智也、こはく、村上、泉、葉山が入口まで見送る。

そのとき。麟征が腕を組んだまま言った。


「私は残る」

「え?」


葉山が驚く。


「ここで夏海を待つ」


泉の顔がにやっと歪む。


「だってよー?」


葉山の耳が真っ赤になる。


「な、なに言ってるんですか!」


「私が夏海を守らなくては」


麟征は真顔だ。

泉は完全に楽しんでいる。


「守らなきゃ、だってさ~」

「沙月ちゃん!」


そこへ朱焔が割って入る。


「何を言うとるんや、普通に邪魔やろ」


 がしっと麟征の襟を掴む。


「邪魔ではない、離せ」

「邪魔や」


ずるずると引っ張る。


「ほな、お邪魔したな!みんな頑張りーや!」


そう言って、麟征ごと引きずるようにして去っていった。


「嵐みたいな人たちだったな」

「ほんと」


村上、泉が苦笑する。


「智也」


「ん?」


「お前とこはくちゃん、ちょっと回ってこいよ」


 泉もうんうんと頷く。


「ここは私と夏海がいるから平気!」


 そう言いながら、葉山の後ろから抱きつく。


「ちょっ、沙月ちゃん!」

「ほら、いってきなって」

「え、俺の存在忘れてない?」


泉と葉山は聞いていない。


「そうだ!こはくちゃん、ちょっと…」


泉はこはくの耳元で何かを伝え、そのまま奥へ歩いていく。


「えーフル無視…俺泣いちゃうぞ~いいのか~?」


村上がぼそりと言い、慌てて二人を追いかける。

店内は一瞬だけ静かになる。

智也とこはくが顔を見合わせた。


智也とこはくが顔を見合わせる。


「じゃあ……お言葉に甘えて、見て回ろうか」

「うむ」


二人は教室を出て、廊下へ出た。

文化祭のざわめきが四方から聞こえてくる。

屋台の匂い、笑い声、呼び込みの声。

少し歩いたところで、智也が思い出したように聞く。


「そういえばさ」

「なんじゃ?」

「さっき泉さんに、何言われたの?」


こはくは少しだけ目を逸らす。


「……別に」

「ん?」


その瞬間。

こはくが、ひょいと智也の手を掴んだ。


 ぎゅっ。


「……!」


 智也の体が一瞬固まる。


「こ、こはく!?」


 手を繋いだまま、こはくは前を向いて歩き出す。


「な、なんじゃ」

「急にどうしたの!?」


智也の声は少し裏返っている。

こはくは少し頬を赤くして、小さく言う。


「……沙月が」

「うん?」

「智也は、手をつなぐと喜ぶって」


 智也の顔が一気に赤くなる。


「な、なんだそれ!」

「わ、わからんのじゃ!」


 こはくはちらっと智也を見る。


「……嫌か?」

「い、嫌じゃない!」


慌てて言う。

そのまま二人は手を繋いだまま歩く。


廊下を歩きながら、智也は少し緊張していた。


こはくの手。

小さくて、柔らかくて、驚くほど滑らかだった。

何度も戦う姿を見てきたはずなのに――

こんな手が、あの力を持っているとは思えない。


「どうしたのじゃ?」


 こはくが振り向く。


「え、いや……なんでもない」


智也は慌てて視線を逸らす。

こはくは少し首を傾げたが、そのまま歩き出す。

まず入ったのは、お化け屋敷だった。

暗い廊下を進むと、突然お化けが飛び出してくる。


「うわっ!」


智也が驚く。

こはくは、じっと見る。


「……ただの人間じゃ」

「そりゃそうだけど!」


次に向かったのは射的。

こはくが銃を構える。


パン、パン、パン。


一瞬で景品が全部倒れた。

店員が固まる。


「……すみません」


智也が頭を下げる。

こはくは満足そうだった。


歩くうちに、二人の手は自然と揺れていた。

こはくが楽しそうにぶんぶん振る。


「文化祭とやらは面白いのじゃ!」


周囲の視線が集まる。


「メイド服かわいすぎない?」

「あの子、どこのクラス?」


こはくはまったく気にしていない。

屋台の前で智也が言う。


「ちょっと待ってて」

「うむ!」


智也はたこ焼きを買いに行く。


その間。


「おい」


声がかかる。

振り向くと、三人の男子。

こはくは首を傾げる。


「ん? お前達……どこかで見たことあるな」


男が顔を歪める。


「前はよくも恥かかせてくれたな」

「前?覚えとらんのじゃ」


男の一人が腕を掴む。


「じゃあ思い出させてやるよ」


その瞬間。

後ろから、冷たい声。


「……うちのこはくに、何か用?」


澪白だった。

その後ろには凪、朱焔。

そして麟征。


男たちの顔色が変わる。


「い、いや……」


こはくがぽんと手を叩く。


「あ!思い出したのじゃ!」

「球技祭とやらで負けて、いちゃもんつけてきたやつじゃな?」


澪白が小さくため息をつく。


「……なるほど」

「情けないわね」

「ち、違う……!」


朱焔が腕を鳴らす。


「こはくに手ぇ出したら許さんで?」


 凪も胸を張る。


「こはくをおちょくっていいのは凪だけなのだ!」

「それは違うのじゃ!」


男たちが苛立ったその時。

麟征がいつの間にか背後に立つ。

肩に手を置く。


「……まだ遅くない」

「弱き者を守れる男になれ」

 

低い声。その圧。

男たちは顔を見合わせ、慌てて逃げた。


そこへ智也が戻ってくる。


「たこ焼き買ってきた――」


皆の姿を見て止まる。


「あ、みなさんまだいらっしゃったんですね」


こはくが腕を組む。


「遅いのじゃ、智也、あーん!」


口を開け待つこはくに、智也は苦笑する。


「わかったって」


たこ焼きを口に入れる。


「あつっ……!」


こはくがほくほくしている。

その様子を見て、澪白が静かに微笑んだ。

朱焔がそれを見て言う。


「ええ顔するやん、澪」

「……」

「ほな先行くで、楽しかったで~!」


凪と麟征も後を追う。


澪白は一瞬だけ驚き、小さく呟いた。


「……いい顔、ね」

「こはく、智也、帰るね」


文化祭の灯りが揺れている。

笑い声の中で。

その日、文化祭は幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ