文化祭・後編
店内の騒ぎが少し落ち着いた頃。
叔母さんが手を振る。
「じゃあ私たちは、もう少し他を回ってくるわね、みんな頑張ってね~!」
澪白も軽く頷く。
凪は元気よく手を振った。
「また来るのだ!」
「お前はもう来なくていいのじゃ!」
智也、こはく、村上、泉、葉山が入口まで見送る。
そのとき。麟征が腕を組んだまま言った。
「私は残る」
「え?」
葉山が驚く。
「ここで夏海を待つ」
泉の顔がにやっと歪む。
「だってよー?」
葉山の耳が真っ赤になる。
「な、なに言ってるんですか!」
「私が夏海を守らなくては」
麟征は真顔だ。
泉は完全に楽しんでいる。
「守らなきゃ、だってさ~」
「沙月ちゃん!」
そこへ朱焔が割って入る。
「何を言うとるんや、普通に邪魔やろ」
がしっと麟征の襟を掴む。
「邪魔ではない、離せ」
「邪魔や」
ずるずると引っ張る。
「ほな、お邪魔したな!みんな頑張りーや!」
そう言って、麟征ごと引きずるようにして去っていった。
「嵐みたいな人たちだったな」
「ほんと」
村上、泉が苦笑する。
「智也」
「ん?」
「お前とこはくちゃん、ちょっと回ってこいよ」
泉もうんうんと頷く。
「ここは私と夏海がいるから平気!」
そう言いながら、葉山の後ろから抱きつく。
「ちょっ、沙月ちゃん!」
「ほら、いってきなって」
「え、俺の存在忘れてない?」
泉と葉山は聞いていない。
「そうだ!こはくちゃん、ちょっと…」
泉はこはくの耳元で何かを伝え、そのまま奥へ歩いていく。
「えーフル無視…俺泣いちゃうぞ~いいのか~?」
村上がぼそりと言い、慌てて二人を追いかける。
店内は一瞬だけ静かになる。
智也とこはくが顔を見合わせた。
智也とこはくが顔を見合わせる。
「じゃあ……お言葉に甘えて、見て回ろうか」
「うむ」
二人は教室を出て、廊下へ出た。
文化祭のざわめきが四方から聞こえてくる。
屋台の匂い、笑い声、呼び込みの声。
少し歩いたところで、智也が思い出したように聞く。
「そういえばさ」
「なんじゃ?」
「さっき泉さんに、何言われたの?」
こはくは少しだけ目を逸らす。
「……別に」
「ん?」
その瞬間。
こはくが、ひょいと智也の手を掴んだ。
ぎゅっ。
「……!」
智也の体が一瞬固まる。
「こ、こはく!?」
手を繋いだまま、こはくは前を向いて歩き出す。
「な、なんじゃ」
「急にどうしたの!?」
智也の声は少し裏返っている。
こはくは少し頬を赤くして、小さく言う。
「……沙月が」
「うん?」
「智也は、手をつなぐと喜ぶって」
智也の顔が一気に赤くなる。
「な、なんだそれ!」
「わ、わからんのじゃ!」
こはくはちらっと智也を見る。
「……嫌か?」
「い、嫌じゃない!」
慌てて言う。
そのまま二人は手を繋いだまま歩く。
廊下を歩きながら、智也は少し緊張していた。
こはくの手。
小さくて、柔らかくて、驚くほど滑らかだった。
何度も戦う姿を見てきたはずなのに――
こんな手が、あの力を持っているとは思えない。
「どうしたのじゃ?」
こはくが振り向く。
「え、いや……なんでもない」
智也は慌てて視線を逸らす。
こはくは少し首を傾げたが、そのまま歩き出す。
まず入ったのは、お化け屋敷だった。
暗い廊下を進むと、突然お化けが飛び出してくる。
「うわっ!」
智也が驚く。
こはくは、じっと見る。
「……ただの人間じゃ」
「そりゃそうだけど!」
次に向かったのは射的。
こはくが銃を構える。
パン、パン、パン。
一瞬で景品が全部倒れた。
店員が固まる。
「……すみません」
智也が頭を下げる。
こはくは満足そうだった。
歩くうちに、二人の手は自然と揺れていた。
こはくが楽しそうにぶんぶん振る。
「文化祭とやらは面白いのじゃ!」
周囲の視線が集まる。
「メイド服かわいすぎない?」
「あの子、どこのクラス?」
こはくはまったく気にしていない。
屋台の前で智也が言う。
「ちょっと待ってて」
「うむ!」
智也はたこ焼きを買いに行く。
その間。
「おい」
声がかかる。
振り向くと、三人の男子。
こはくは首を傾げる。
「ん? お前達……どこかで見たことあるな」
男が顔を歪める。
「前はよくも恥かかせてくれたな」
「前?覚えとらんのじゃ」
男の一人が腕を掴む。
「じゃあ思い出させてやるよ」
その瞬間。
後ろから、冷たい声。
「……うちのこはくに、何か用?」
澪白だった。
その後ろには凪、朱焔。
そして麟征。
男たちの顔色が変わる。
「い、いや……」
こはくがぽんと手を叩く。
「あ!思い出したのじゃ!」
「球技祭とやらで負けて、いちゃもんつけてきたやつじゃな?」
澪白が小さくため息をつく。
「……なるほど」
「情けないわね」
「ち、違う……!」
朱焔が腕を鳴らす。
「こはくに手ぇ出したら許さんで?」
凪も胸を張る。
「こはくをおちょくっていいのは凪だけなのだ!」
「それは違うのじゃ!」
男たちが苛立ったその時。
麟征がいつの間にか背後に立つ。
肩に手を置く。
「……まだ遅くない」
「弱き者を守れる男になれ」
低い声。その圧。
男たちは顔を見合わせ、慌てて逃げた。
そこへ智也が戻ってくる。
「たこ焼き買ってきた――」
皆の姿を見て止まる。
「あ、みなさんまだいらっしゃったんですね」
こはくが腕を組む。
「遅いのじゃ、智也、あーん!」
口を開け待つこはくに、智也は苦笑する。
「わかったって」
たこ焼きを口に入れる。
「あつっ……!」
こはくがほくほくしている。
その様子を見て、澪白が静かに微笑んだ。
朱焔がそれを見て言う。
「ええ顔するやん、澪」
「……」
「ほな先行くで、楽しかったで~!」
凪と麟征も後を追う。
澪白は一瞬だけ驚き、小さく呟いた。
「……いい顔、ね」
「こはく、智也、帰るね」
文化祭の灯りが揺れている。
笑い声の中で。
その日、文化祭は幕を閉じた。




