表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神縁  作者: 朝霧ネル
52/56

暖かい灯りの中で

クラス会議の結果――

智也達のクラスはメイド喫茶に決まった。


「よっしゃあああ!メイド喫茶は見た目と接客が命だ!全力を注げー!」


 村上が机を叩く。


「あーあ、変なスイッチ入っちゃったよ…」


泉が冷ややかに返す。

教室はざわざわと浮き立っていた。

布を買い出しに行く班、装飾を考える班、メニューを決める班。

気づけば、こはくの周りには何人もの女子が集まっていた。


「こはくちゃん、これどう思う?」

「このリボンとこのフリル、どっちがいいかな?」

「こはくちゃん絶対似合うよ!」

「ほほう、これのほうが動きやすそうじゃ」

「いやそこ!?」


 笑いが起こる。

智也はその様子を少し離れた場所から見ていた。

こはくの周りに、自然と人が集まっている。

誰かに囲まれて、誰かに笑われて。

それが、当たり前みたいになっている。


 ……よかった。


心の底から、そう思った。


 「一ノ瀬くん、ちょっといい?」


声をかけられて振り向くと、クラスの女子が数人立っていた。


「飾りつけ、ちょっと手伝ってほしいんだけど」

「あ、うん」


こはくは、じっと智也を見る。

女子たちと話している俺を見て、頬をふくらませていた。

泉がそれに気づいて、にやりと笑う。


「こはくちゃん、何見てるのかな~?顔に出すぎだよ~」

「何がじゃ、出しておらぬ」

「出てる出てる、溢れかえってるぜ」


 村上も便乗する。


「こはくちゃん、智也はあー見えて、結構モテるんだぞ?…たぶん」

「もてる?」

「そーそー。モタモタしてると、取られちゃうかもな〜」

「取られる?誰にじゃ?」


 こはくが首をかしげる。

 泉が肩を震わせる。


「ありゃりゃ……先は長そうだね…」


 こはくは真顔のまま言う。


「そういう沙月はいつまでもたついておる。隣におるじゃろ」

「――っ!」


 泉が慌ててこはくの口を塞ぐ。


「ちょっ、ちょっと! 何言ってんの!やめてよ!ごめんってこはくちゃん…!」

「むぐっ」


 村上が一瞬固まる。


「え、え? なに?」

「なにもない!バカ!」

「え、急な悪口…」


泉の耳が赤い。

村上は状況が理解できずに戸惑っている。

こはくは口を押さえられながらも、不満げに村上と泉を見比べる。


準備は、あっという間に進んだ。


放課後は教室で装飾作り。

帰宅してからは、野原で実践訓練。

そんな日々が、するすると過ぎていく。

奇妙なくらい、何も起こらないまま。


そして、文化祭前夜。

リビングは異様な熱気に包まれていた。


「なんでわらわのお金がないのじゃ!」

「計画性がないのだ、こはく!お子ちゃまなのだ」

「うるさいのじゃ白猫!」

「白虎なのだ!」


 人生ゲームの盤面を挟んで、こはくと凪が睨み合っている。

 澪白は無表情のままサイコロを振り――


「あ……破産した…」


静かに呟いた。

朱焔が腹を抱えて笑う。


「澪が借金王て! 似合わんわ〜!破産って!ぷぷぷ」


次の瞬間。

澪白の手が、朱焔の頭をがしっと掴んだ。


「朱焔…何が面白いの…」

「澪……! い、痛い痛い痛い! 冗談やんか!」

「笑える状況なの…?朱焔」

「ひぃい、骨いく骨いく!」


 凪が横で腹を抱えている。


「澪ちゃん怖いのだ!鬼なのだ!」

「凪、うるさい」

「いぃぃぃだぁぁいのだーー!!!凪は悪くないのだー!」


 リビングは大騒ぎだ。


智也はキッチンの方から、その光景を眺めていた。

叔母さんが隣で食器を洗う。


「すごい大所帯になったわね」

「ほんとだね、神の使いとは思えないよね」

「それ、ブーメランよ?智也くんも、その中の一人なんだから」

「たしかに……」


リビングでは、こはくがまた騒いでいる。


「不公平なのじゃ! わらわだけ職業が“漁師”とはなんじゃ!」

「魚でも取っておくのだ、堅実でよいのだ」

「バカにしておるな!」

「バカにしてるのではないのだ、こはくはバカなのだ」

「なにをこのどぶ猫!」

「虎なのだ!やっぱこはくは生意気なのだ!べー!」

「この~!!!」


叔母さんがふっと真剣な顔になる。


「ねえ、智也くん」

「ん?」

「私、子どもを産めない体って前に言ったじゃない?だからなのかな、ここにいる子たちが、みんな宝物みたいなの、神であろうとなんであろうと、関係ない。一緒に笑って、怒って……それだけで、私はすごく幸せ。」


叔母さんは、切なそうに微笑む。


「だから、少しでも力になりたい、守りたい、できることは何でもする、だから…無茶だけはしないでね、智也くん…」


何も言えなかった。

叔母さんの強さと決意に、ただただ、涙がこぼれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ