暖かい灯りの中で
クラス会議の結果――
智也達のクラスはメイド喫茶に決まった。
「よっしゃあああ!メイド喫茶は見た目と接客が命だ!全力を注げー!」
村上が机を叩く。
「あーあ、変なスイッチ入っちゃったよ…」
泉が冷ややかに返す。
教室はざわざわと浮き立っていた。
布を買い出しに行く班、装飾を考える班、メニューを決める班。
気づけば、こはくの周りには何人もの女子が集まっていた。
「こはくちゃん、これどう思う?」
「このリボンとこのフリル、どっちがいいかな?」
「こはくちゃん絶対似合うよ!」
「ほほう、これのほうが動きやすそうじゃ」
「いやそこ!?」
笑いが起こる。
智也はその様子を少し離れた場所から見ていた。
こはくの周りに、自然と人が集まっている。
誰かに囲まれて、誰かに笑われて。
それが、当たり前みたいになっている。
……よかった。
心の底から、そう思った。
「一ノ瀬くん、ちょっといい?」
声をかけられて振り向くと、クラスの女子が数人立っていた。
「飾りつけ、ちょっと手伝ってほしいんだけど」
「あ、うん」
こはくは、じっと智也を見る。
女子たちと話している俺を見て、頬をふくらませていた。
泉がそれに気づいて、にやりと笑う。
「こはくちゃん、何見てるのかな~?顔に出すぎだよ~」
「何がじゃ、出しておらぬ」
「出てる出てる、溢れかえってるぜ」
村上も便乗する。
「こはくちゃん、智也はあー見えて、結構モテるんだぞ?…たぶん」
「もてる?」
「そーそー。モタモタしてると、取られちゃうかもな〜」
「取られる?誰にじゃ?」
こはくが首をかしげる。
泉が肩を震わせる。
「ありゃりゃ……先は長そうだね…」
こはくは真顔のまま言う。
「そういう沙月はいつまでもたついておる。隣におるじゃろ」
「――っ!」
泉が慌ててこはくの口を塞ぐ。
「ちょっ、ちょっと! 何言ってんの!やめてよ!ごめんってこはくちゃん…!」
「むぐっ」
村上が一瞬固まる。
「え、え? なに?」
「なにもない!バカ!」
「え、急な悪口…」
泉の耳が赤い。
村上は状況が理解できずに戸惑っている。
こはくは口を押さえられながらも、不満げに村上と泉を見比べる。
準備は、あっという間に進んだ。
放課後は教室で装飾作り。
帰宅してからは、野原で実践訓練。
そんな日々が、するすると過ぎていく。
奇妙なくらい、何も起こらないまま。
そして、文化祭前夜。
リビングは異様な熱気に包まれていた。
「なんでわらわのお金がないのじゃ!」
「計画性がないのだ、こはく!お子ちゃまなのだ」
「うるさいのじゃ白猫!」
「白虎なのだ!」
人生ゲームの盤面を挟んで、こはくと凪が睨み合っている。
澪白は無表情のままサイコロを振り――
「あ……破産した…」
静かに呟いた。
朱焔が腹を抱えて笑う。
「澪が借金王て! 似合わんわ〜!破産って!ぷぷぷ」
次の瞬間。
澪白の手が、朱焔の頭をがしっと掴んだ。
「朱焔…何が面白いの…」
「澪……! い、痛い痛い痛い! 冗談やんか!」
「笑える状況なの…?朱焔」
「ひぃい、骨いく骨いく!」
凪が横で腹を抱えている。
「澪ちゃん怖いのだ!鬼なのだ!」
「凪、うるさい」
「いぃぃぃだぁぁいのだーー!!!凪は悪くないのだー!」
リビングは大騒ぎだ。
智也はキッチンの方から、その光景を眺めていた。
叔母さんが隣で食器を洗う。
「すごい大所帯になったわね」
「ほんとだね、神の使いとは思えないよね」
「それ、ブーメランよ?智也くんも、その中の一人なんだから」
「たしかに……」
リビングでは、こはくがまた騒いでいる。
「不公平なのじゃ! わらわだけ職業が“漁師”とはなんじゃ!」
「魚でも取っておくのだ、堅実でよいのだ」
「バカにしておるな!」
「バカにしてるのではないのだ、こはくはバカなのだ」
「なにをこのどぶ猫!」
「虎なのだ!やっぱこはくは生意気なのだ!べー!」
「この~!!!」
叔母さんがふっと真剣な顔になる。
「ねえ、智也くん」
「ん?」
「私、子どもを産めない体って前に言ったじゃない?だからなのかな、ここにいる子たちが、みんな宝物みたいなの、神であろうとなんであろうと、関係ない。一緒に笑って、怒って……それだけで、私はすごく幸せ。」
叔母さんは、切なそうに微笑む。
「だから、少しでも力になりたい、守りたい、できることは何でもする、だから…無茶だけはしないでね、智也くん…」
何も言えなかった。
叔母さんの強さと決意に、ただただ、涙がこぼれた。




