当たり前の日常
昼休みは、いつもより騒がしかった。
「諸君――!」
弁当箱を高々と掲げながら、村上が立ち上がる。
「世界が待ち望んだ一大イベント! 文化祭の季節がやってまいりましたー!」
「うるさい」
「世界は待ってない。あんたが騒ぎたいだけでしょ」
即座に泉が突っ込む。
周りのクラスメイトが笑う。
教室の空気が、少しだけ浮き立つ。
文化祭。その言葉に、こはくが首を傾げた。
「ぶんかさい……とは、なんじゃ?」
「ん~学校のお祭りみたいなものかな。出し物したり、屋台出したり、演劇したり」
「他クラスに冷やかし行ったりな!」
「要するに、合法的に遊べる日だ!」
「最後の一言で台無し」
泉がため息をつく。
こはくはふむ、と腕を組んだ。
「祭りか……よいではないか。殴り合い大会はあるのか?」
「ねぇよ!」
「物騒すぎんだろ!」
村上が即座に否定する。
みんなが笑う。
その笑いの中で、智也は少しだけ黙っていた。
文化祭、か。
こんなことしてていいのかな――
そんな考えが、ふとよぎる。
あんなことがあったばかりなのに。
その横で、村上が俺をちらっと見る。
「気ぃ乗らない顔してんな、智也」
「え?」
「まぁ、わかるよ。色々あったしな」
いつもの軽い声色だけど、目はちゃんとこっちを見ていた。
「でもさ」
村上は空を見上げる。
「楽しめるときは、全力で楽しもうぜ」
泉も小さく頷く。
「うん、いまは忘れて…なんてできるわけないけど、楽しめる時に楽しめないと、あとで後悔するよ!」
「うん、今の時間を大切にしよ?」
葉山も微笑み智也を見る。
「智也、祭りは嫌いか?」
その金色の瞳は、ただ純粋だった。
智也は小さく息を吐く。
「ううん……嫌いじゃないよ」
「なら決まりだな!」
村上がぱん、と手を叩く。
「こはくちゃん、何やりたい?」
こはくは真剣に考える。
「戦い――」
「それ以外!」
「むぅ……」
泉がくすっと笑う。
「メイド喫茶とかどう? こはくちゃん絶対似合うって」
「めいど……?」
「可愛い衣装着て、『おかえりなさいませ、ご主人様』って言うの」
「ごしゅじん…さま…?」
泉が智也の方ににやりと寄ってくる。
「智也くんも、こはくちゃんのメイド服、見たいでしょ?」
「えっ、いや……」
思わず視線がこはくに向く。
……似合うかもしれない。というか、絶対似合う
「智也、なんじゃ、その目は」
「いや、なんでもない」
「怪しいのじゃ」
問い詰めるように距離を詰めてくる。
村上、泉、葉山がくすくす笑う。
「でも、未だに信じらんねぇよな。こはくちゃんも、智也も、人間、じゃないんだもんな…」
村上がぽつりと小声で呟く。
泉が頷く。
「うん…頭ではわかってはいるんだけどね」
村上が肩をすくめる。
「でもさ、事情が何であれ、二人が大事な友達ってことは変わらんよな」
葉山が笑う。
「村上くんって、そんな臭いセリフ言うんだねっ」
「葉山さん、なんか言葉に棘ない…? なんか沙月みたいになってる!たのむ!沙月みたいにはならないでくれ!葉山さんは純粋でいてくれ~」
「何よその言い方!私が純粋じゃないみたいじゃない!この!面貸せ~!」
「おっかね~!にっげろ~!!」
笑い声が広がる。
こんな時間が、ずっと続けばいいと思った。




