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神縁  作者: 朝霧ネル
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神速の白虎

こはくの尾が、ふっと揺れた。


「神尾演舞――疾影尾(しつえいび)


次の瞬間、こはくの姿が分裂したかのように、凪の周囲を駆ける。

残像が幾重にも重なり、風だけが切り裂かれていく。

凪はその場で低く構え、口元をわずかに上げた。


「いい速さなのだ。……さあ、どこから来るのだ?」


背後に気配。

凪は迷いなく振り向き、裏拳を放つ。


「甘いのだ!」


だが――空を切る。


「……いない?」


凪の視線が一瞬ぶれる。


「どこを見ておる」


声は、正面。


「神尾演舞――鎖縛尾(さばくび)


無数の光を帯びた鎖が凪の手足に巻き付く。

凪の動きが止まる。


「なっ――!」


「破衝尾!」


腹部へ、直撃。

衝撃が野原を震わせる。

凪の身体が宙を舞い、数十メートル先へと吹き飛んだ。

草がなぎ倒され、土煙が上がる。

こはくは腕を組み、胸を張る。


「どうじゃ!」


やがて、土煙の中から小さな影が立ち上がる。

凪は土を払い、口元を拭った。


「……ほほー」


ゆっくりと首を回す。


「こはくのくせに、器用なことをするのだ」


その瞳の色が、わずかに深まる。


「少し――本気を出してやるのだ」


空気が変わる。草がざわめき、地面が軋む。

次の瞬間、凪の足元が弾けた。


神典白牙(しんてんびゃくが)――迅爪(じんそう)


地面が弾けた。

凪の爪撃が閃き、こはくは咄嗟に尾で受け止める。


「くっ……!」


足が土を削り、後方へと滑る。

凪の声が重なる。


「――裂風」


瞬間、爆ぜる風。

刃のような烈風がこはくを包み、腕や脚に赤い線が刻まれていく。

風圧が身体を縫い止める。

それでも、歯を食いしばる。


「まだ……!」


だが次の瞬間、凪の姿が消えた。


「どこを見ているのだ?」


見上げた瞬間――


「跳牙」


隕石のような拳が落ちる。

地面が砕け、こはくの身体が弾かれ、何度も地を跳ねる。

土煙の中、こはくは動かない。


「こはく!」


智也が駆け出そうとする。

だが、その前に澪白が一歩踏み出した。

凪は胸を張っている。


「どうなのだ。凪は強いのだ!」


澪白は静かに歩み寄り、凪の前に立つ。

凪は期待に満ちた目で見上げた。


「澪ちゃん、撫でるのだ――」


凪の頭に拳が落ちる。


「痛いのだ……! なぜなのだ……!」


涙目で抗議する凪に、澪白は低く言った。


「やりすぎよ」


その声は静かだが、重い。

一方、智也はこはくの元へ膝をつく。


「大丈夫?」


こはくはゆっくり目を開け、弱く笑った。


「……大丈夫じゃ。負けてしまったのじゃ」


智也はそっと抱き寄せる。

凪はその様子を見つめていた。

さっきまでの得意顔は、もうない。


「……あの頃は、泣いてばかりだったのに…

立派になったのだ…相まみえて…わかったのだ」


澪白が凪を見る。


「強くなったのだ、こはくは」


澪白はもう一度手を上げる。

凪は慌てて頭を押さえる。

だが――

落ちてきたのは拳ではなく、静かな掌だった。

ぽん、と優しく頭に触れる。


「凪…」


その名を呼ぶ声は、姉のように静かだった。


「あの二人を……人間界を。何があっても守ろう」


凪は真っ直ぐ前を見た。


「もちろん、なのだ」



張り詰めていた空気が、ゆっくりとほどけていく。

そのとき――


「おーい、簡易結界まで張ってなにしてるや。」


軽い声が、野原に響いた。

振り向けば、紙袋を片手にぶら下げた朱焔が立っている。

炎の羽織をひらひらさせながら、辺りを見回す。


「……なんや、これ。草ボロボロやん。地面えぐれとるやん。

 うちがお使い行っとる間に何してんねん」


そして凪に目を留める。


「おぉ、凪やん。いつ来とったん?……小さいから気づかんかったわ」


少し首を傾げ、じっと見る。

凪のこめかみに青筋が浮かぶ。

澪白は目を瞑る。


「台無しなのだ…」


「えぇ…」


朱焔はさらに近づき、まじまじと眺める。


「てか、凪もこはくもボロボロやないか。草まみれやで。

草のにおいするで凪、臭いで、はよ風呂入ってき。」


真顔のまま、にこっと笑う。

凪と澪白が同時に深く息を吐いた。


「「はぁぁ……」」


「なにため息ついとんねん、老けるで、それよりはよ帰ろうや、

今日は恵美さんのカレーうどんやで!」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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