凪vsこはく
叔母さんは、凪が来た時のことを話しだす。
昼前。
玄関のチャイムが鳴り、叔母さんが出ると、そこに立っていたのは見覚えのない小さな少女だった。
堂々と名乗るその姿に、叔母さんは一瞬固まったらしい。
「もうね、こんな小さい子がひとりで来るんだもの。何事かと思ったわよ」
リビングでその話をしながら、叔母さんは笑う。
「とりあえず中に入れてあげて、昨日のカレー温めたら――ぺろっと食べちゃってね。それからずーっとくっついて離れないのよ」
「なるほどね…」
智也は苦笑しながら、凪の前に立った。
「えっと……凪さん、智也です。よろしくお願いします」
その言葉を聞いた瞬間、凪の表情がふっと変わる。
じっと智也を見上げて、次の瞬間――
「にぃにぃ?」
智也の眉がわずかに上がる。
「にぃにぃ……?」
凪は立ち上がると、そのまま勢いよく智也に抱きついた。
「にぃにぃなのだ!」
「ちょ、ちょっと――」
智也が支えきる前に、こはくが間に割って入る。
「智也に近づくな! 離れるのじゃ!」
凪は智也の腰にしがみついたまま、こはくを睨む。
「うるさいのだ。にぃにぃは凪のものなのだ」
「智也は、わらわのじゃ!」
こはくが凪の襟元を引っ張り、凪は離れまいとさらに力を込める。
智也は両腕にそれぞれ重みを感じながら、助けを求めるように澪白を見る。
澪白は静かに歩み寄り、落ち着いた声で言った。
「この子は、昔から蒼玄に懐いてたの。きっと……智也を、蒼玄と重ねているんでしょう」
智也は、少しだけ息を飲む。
「……そう、なんですね」
凪は智也の胸元に顔を埋めたまま、小さく頷く。
「にぃにぃは、にぃにぃなのだ」
その横で、こはくは腕を組み、頬を膨らませる。
「なんなのじゃお前は!」
凪はこはくを睨み返す。
「しつこい女は嫌われるのじゃ」
「なにを~!勝負じゃ!」
いきなりこはくが指を突きつけると、凪は目を細めた。
「ほほーん?いいのだ。やってやるのだ。
負けて泣いても知らんぞ、こはく」
「泣くのはそっちじゃ!」
言い合いの末、四人は人目のない野原へと移動した。
風が通り抜けるだけの静かな場所。
智也と澪白は少し離れて立ち、向かい合う二人を見守る。
こはくが先に踏み込んだ。
一瞬で間合いを詰め、拳を振るう。
だが――凪の姿が、すっと消える。
次の瞬間には、こはくの背後。
「遅いのだ」
乾いた声と同時に、目にも留まらぬ速さの打撃。
こはくの身体が揺れる。
「ぐっ……!」
さらに連撃。速い。だが一撃一撃が重い。
観戦していた智也は息を呑む。
「……見えない……」
澪白が静かに告げる。
「神速の白虎。
あの小さな身体でも、純粋な力は麟征に次ぐ。
そして速さは……五神一」
こはくは防戦一方だった。
攻撃の軌道を読む間もなく、衝撃だけが襲う。
「なめるな!」
こはくの九尾が大きく広がる。
「神尾演舞――破衝尾!」
地面を抉るほどの重い一撃が凪へと叩き込まれる。
凪は両腕で受け止め、数歩後退し、土煙が上がる。
「……ほう」
凪は口元をわずかに上げた。
「今のは悪くないのだ」
だが次の瞬間、凪の姿がまた消える。
こはくは襟元を掴まれ――
そのまま、豪快に地面へと投げ落とされた。
「っ……!」
土を巻き上げ、こはくが転がる。
凪は上から見下ろし、腕を組む。
「終わりか? つまらんのだ」
ゆっくりと、こはくが起き上がる。
額に土をつけたまま、ぎろりと睨んだ。
「なにを……勝手に終わらせておるのじゃ」
「ここからじゃ」
その目に宿る光が変わった。
凪は一瞬黙り、やがて真剣な表情になる。
「……いい顔つきなのだ」
低く構える。
空気が張り詰める。
次の瞬間、二人の姿が同時に消えた。
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