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神縁  作者: 朝霧ネル
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麟征という男

 こはくたちもそれぞれの家へ戻り、

 騒がしかった数日は、ゆっくりと日常に溶けていった。

 夏休みは、いつの間にか中盤へ差しかかっていた。



 その日、葉山は一人で家を出た。

 図書館へ行こう――ただ、それだけのつもりだった。

 玄関を出て、数歩。

 そこで、ふと――足が止まる。

 家の前の道に、見知らぬ青年が立っていた。


 緑色の羽織を纏い、背はすらりと高い。

 風に揺れる黒髪は艶があり、涼しげな切れ長の目元が印象的で、

 整いすぎているほど整った顔立ちだった。


(……え……)


 一瞬、現実感が追いつかない。

 夏海は思わず瞬きをし、もう一度、青年を見る。


 知らない人。

 なのに、視線を向けられただけで、妙に落ち着かない。

 青年は、こちらに気づくと、静かに視線を合わせてきた。


「……君が」


「葉山夏海か」


低く、澄んだ声。


「……っ」


「は、はい……そう、ですけど……」


 青年は、わずかに目を細める。


「私は、麟征りんせい


「澪白から、言伝を預かっている」


「……あなたを、守るようにと」


 風が吹き抜け、青年――麟征の羽織が静かに揺れた。


「……どこかへ向かうのか」


「え? あ、はい……図書館に、ちょっと……」


「図書館……」


 わずかに視線を上げる。


「私も行こう」


「えっ?」


 あまりに自然に言われて、夏海は間の抜けた声を出した。


「え、あの……一緒に、ですか?」


「守るように言われている」


「ならば、同行するのは合理的だ」


(合理的って……)


 断る理由も見つからず、結局、二人は並んで歩き出した。


「……ねえ、あの人すごくない?」

「モデル?かっこいい」

「え、隣の子彼女?」


 ひそひそと、周囲の視線が集まる。

 夏海は一瞬で体温が上がった。


(うわあああ……!)


 ちら、と横を見ると、麟征はまったく気にしていない顔で歩いている。


「夏海」


「ひゃ、はいっ!?」


 急に名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。


(いきなり名前呼び!?)


 顔が熱くなるのを必死に抑える。

 麟征は、少し先を指差した。


「あれは何だ」


 視線の先には、ゲームセンター。

 ガラス越しに光るクレーンゲームが見える。


「あ、あれは……ゲームセンターです。遊ぶところで……あれは、ぬいぐるみとか取れるんです」


「ぬいぐるみ…」


「えっと……お金を入れて、アームでつかんで……」


 麟征は真顔のままうなずく。


「なるほど。行こう」


「えっ、い、行くんですか!?」


 葉山は千円札を両替し、コインを投入した。

 アームが動き出す。

 ほんの一瞬、視線が鋭くなる。


 次の瞬間。


 ぬいぐるみが、完璧な角度で持ち上がり、そのまま落ちることなく出口へ。


「……え?」


 夏海は目を丸くした。


「い、一回で……?」


 麟征は平然としている。


「角度とタイミングを計算し、落下点をイメージすれば容易だ」


「いやいやいや、そんな理屈で取れないですよ普通……!」


 麟征はぬいぐるみを手に取り、少しだけ首を傾げた。


「夏海」


「は、はい」


「これはやる」


「私には必要ないからな」


 不器用な言い方だったが、その声音はどこか柔らかい。

 夏海は、ぬいぐるみを受け取る。


「……ありがとう、ございます」


 胸の奥が、少しだけ温かくなった。

 守る、と言ったこの人は。

 少し不器用で、少し世間知らずで——

 でもどこか、優しい。


 夏海は、ぬいぐるみを抱きしめながら、

 横を歩くその横顔を、こっそり見上げた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

短くはなりますが、毎日更新していきます。

よろしくお願いします。

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