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神縁  作者: 朝霧ネル
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知らされる真実

全員が席についたのを確認してから、澪白は静かに視線を巡らせた。


 誰もが疲れた表情をしていたが、逃げるような目はしていない。 

それを見て、澪白は一つ、小さく頷いた。


「……その前に」


 低く、落ち着いた声。


「昨夜、何が起きたのか。教えてもらえますか、葉山さん」


 名を呼ばれた葉山は、一瞬だけ肩を強張らせた。 

だが、すぐに背筋を伸ばし、顔を上げる。


「……はい」


 決心したような、その表情。


 葉山は、自分に起きたことを語り始めた。 

耳元で聞こえた声のこと。胸に溜まっていた感情。 

自分では制御できなくなっていった心と身体のこと。


 途中、言葉に詰まる場面もあったが、誰も口を挟がなかった。


 続いて、こはくと智也も、昨夜の出来事を補うように話す。 

夜白と名乗る存在のこと。異様な技。そして、智也が意識を失い、戻ってきたこと。


 すべてが語られ終わった頃、部屋には重い沈黙が落ちていた。


 澪白は、ゆっくりと目を伏せる。


「……傷ついた箇所から、直接“痛み”を引き出す術。 感情を媒介にした、歪んだ力」


 視線を上げ、静かに断じる。


「――禍神の類の可能性が高いです」


「せやろなぁ」


 気の抜けた声で、朱焔が言った。

足元では、武蛇がじゃれるように尾を揺らしている。


「まぁ〜、あれは只者ちゃうわ。うちでも、正面からやり合うんはめんどいタイプや」


 冗談めかした口調とは裏腹に、朱焔の目は真剣だった。


 澪白は、今度は智也へと視線を移す。


「……智也」


 一瞬、言葉を選ぶように間を置き。


「青龍の力……継承したんだね、見ればわかる」


 智也は、少し困ったように首を傾げる。


「継承……なのかは、正直わかりません」


「ただ……死の狭間で、蒼玄さんと会いました。禍津との過去も、聞きました……蒼玄さんは、自分のしたことに、ただただ、悔やんでいました」


 その言葉に、澪白は小さく息を吸う。


「……そう」


 一瞬だけ、何かを噛み締めるような表情を見せてから、静かに言った。


「なんにしても…… 智也がいなければ、こはく、いや、皆が危うかった」


 澪白は、智也に向かって、深く頭を下げる。


「……ありがとう」


 その瞬間。


 こはくが、そっと智也に身を寄せ、耳元で小さく囁いた。


「……ありがとなのじゃ」


 吐息に混じるほどの、近さ。


 智也は、びくっと肩を揺らし、顔が一気に熱くなる。


「ちょ……」


 こはくも、気づいたように頬を赤くし、視線を逸らす。


「――なに、いちゃこいとんねん!!」


 朱焔の鋭い声が飛ぶ。


「今どんな状況や思とるんや! 目の前で耳元ささやくとか、青春か!!」


 こはくは、きょとんと首を傾げた。


「……いちゃこい、とはなんじゃ? わらわはよくわからんのじゃ」


 完全にとぼけた顔。


 朱焔は、その様子を見た瞬間、額に青筋を浮かべた。


「……あ゛〜〜〜!! とぼけとるこはくも可愛くて腹立つ!!」


 一人で腕を組み、むきむきと悔しそうに地団駄を踏む。


「くっそ……なんやねんその無自覚……!」


 智也は苦笑いし、澪白は小さく息を吐いた。


「……話を、戻します」


 その一言で、空気がすっと引き締まる。


 澪白は、静かに言葉を選びながら続けた。


「昨日――結界は、完全に破壊されました」


 一瞬、空気が張り詰める。


「それと同時に、強い負の流れは、 一点に留まることなく……四方へと分散しました」


 智也は、はっと息を呑む。


「東、西、南、北…… それぞれに、強い歪みが生まれている」


 澪白は、次に視線を落とし、静かに続けた。


「そして、その“起点”となった場所―― それが、あの桜の木」


 こはくの胸が、きゅっと締めつけられる。


 あの日、智也と出会った場所。 不思議と、心が落ち着いた大きな桜。


「智也とこはくが出会った、あの桜は―― 偶然そこにあった木、ではないの、今まで説明しなくて悪かったね」


 澪白の声が、少しだけ低くなる。


「封神蔵とは異なる性質を持つ、極めて重要な場所です」


 葉山が、戸惑いながら口を開いた。


「……封神蔵、って……?」


 その問いに答えたのは、朱焔だった。


「封神蔵ちゅーんはなぁ」


 いつもの軽い調子ではない。


「未練や怨み、怒り…… 行き場を失った負の魂を閉じ込めとく場所や」


 武蛇の頭を撫でながら、朱焔は続ける。


「暴走せんよう、 神が“蓋”をしとった檻みたいなもんやな」


 朱焔は、ふっと息を吐いた。


「……やけどな。 どうやら、その封は、もう開いてしもた」


 その言葉に、泉がはっと顔を上げる。


「……じゃあ……朽神って……」


 泉の声は、わずかに震えていた。


「……夏海に、あんなことした……あの、女……?」


 澪白は、首を横に振る。


「いいえ。 あれは神を“器”に、人間の強い感情を取り込んだ存在、禍神です」


 そして、淡々と、しかし明確に告げる。


「そして、朽神とは」


 澪白の瞳が、静かに光る。


「言葉を持たぬ魂の集合体です」


 誰かが、息を呑む。


「悲しみ、怒り、恐怖…… 行き場を失った感情だけが凝り固まり、意思のように振る舞っているに過ぎません 叔母様と私も、昨日、無数の朽神に襲われました」


「そうなのか!叔母様、大丈夫か?心配なのじゃ」


「澪ちゃんが守ってくれたから大丈夫よ」


「こはく、私は心配してくれないの?」


「姉上は最強だから、心配してないのじゃ!」


「ふーん…」


 澪白は、少しだけ視線を伏せた。


「……あの桜は」


「清らかな想いのまま消えた魂が集う場所」


「誰かを守ろうとした命。 誰かを想い、祈りながら終えた人生」


「それらが眠り、世界を支えてきた―― 極めて尊い“核”」


 澪白は、はっきりと言った。


「もし、そこに禍津が手を伸ばせば……清い魂まで汚され 朽神は、ほぼ無限に生み出されるでしょう」


 しばらく沈黙が落ちたあと、 村上が、少しだけ言いづらそうに頭を掻いた。


「……あの」


 全員の視線が集まるのを感じて、村上は苦笑する。


「失礼だったら、ほんと悪いんですけど」


 一度、こはくの方を見て、すぐに目を逸らした。


「こはくちゃんが…… 人間じゃないってことは、もう分かってるんです」


 言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。


「……ってことは。 澪白さんと、朱焔さんも…… やっぱ、俺らとは違うんですよね?」


 空気が、ぴんと張りつめた。


 だが、澪白は驚くことも、咎めることもなく、静かに頷いた。


「ええ」


 朱焔も、腕を組んだまま肩をすくめる。


「せやな」


 澪白は、落ち着いた声で説明を始める。


「私たちは――五神と呼ばれる存在です」


 泉が、思わず息を呑む。


「五神……」


「世界の均衡を保つために存在する、五つの神性」


 澪白は、ちらりと智也を見る。


「そして、先程も言ったけど、智也も―― 青龍の力を継いだ存在です」


「親友まで、人間じゃないと来たか…」


 智也は、少し気まずそうに視線を逸らした。


「なんかごめん、皆」


 村上は、一瞬目を見開いたあと、ふっと肩の力を抜いた。


「正直、理解できたかって言われると怪しいけど、智也は智也だろ!」


 にっと笑う。


「少なくとも、俺らを守ろうとしてくれたのは事実だしな」


 その言葉に、泉も葉山も、少しだけ表情を緩める。


 だが、村上はすぐに真剣な顔に戻った。


「……じゃあ、もう一つ!」


「朽神が……俺らの前に、現れない可能性って…… 正直、ないってことですよね?」


 泉の手が、無意識に膝を握りしめる。


「……また、狙われる、ってこと?」


 葉山も、不安を隠せないまま俯いた。


 澪白は、迷いなく答えた。


「はい」


 その断言に、空気が重くなる。


 だが、澪白は続けて、はっきりと言った。


「――ですが、必ず守ります」


「あなたたちが、再び傷つくことはありません、約束します」


 朱焔も、頷く。


「そのための準備は、全部こっちでやる」


 澪白は、懐から小さな鈴を三つ取り出した。


「これは、警告の鈴です」


 澪白は、泉、村上、葉山の前に、それぞれ差し出す。


「もし、異変を感じたら―― 朽神と遭遇したら、迷わず鳴らしてください」


「距離が離れていても、 私たちには必ず届きます」


 泉は、恐る恐る鈴を受け取った。


「……これを鳴らせば…… 本当に、来てくれるんですか?」


「ええ」


 澪白は、はっきりと頷く。


 そして、葉山の方をまっすぐ見た。


「葉山さんは、一度、狙われた身です」


 葉山は、息を詰める。


「だからこそ―― **麟征りんせい**に頼みます」


 智也が、思わず口を挟んだ。


「……麟征?」


 澪白は、少しだけ誇らしげに言う。


「五神の中でも、 最強と謳われる存在」


「私たちの、リーダーよ」


 朱焔が、横から口を挟む。


「……ほんまに大丈夫か?」


 澪白がちらりと睨む。


「何が言いたいの?」


「強さは申し分ないんやけど…な」


 朱焔は、頭を掻きながら苦笑した。


 こはくが、小首を傾げる。


「最強なら安心ではないのか?」


 朱焔は、深くため息をついた。


「性格がちょっと…なぁ…ははは…」



最後まで読んでいただき、ありがとうございます

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