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神縁  作者: 朝霧ネル
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28/59

きらめく日常の中で

『神縁 ー しんえん』


大切なものを失った少年・一ノ瀬智也と、異世界から現れた神獣の少女・こはく。ひとつの出会いが、ふたりの運命を静かに動かし始める。


心を通わせながら過ごす穏やかな日常、その裏では、世界を喰らう闇が目を覚まそうとしていた――。


過去の傷、隠された力、交わる縁。青春と戦いが交錯する中で、ふたりは“生きる意味”を探していく。


人と神獣の垣根を越えて描かれる、優しくも切ない異世界ファンタジー。

――夕食時。リビング。


 テーブルの上には煮込みハンバーグとサラダ、そして炊きたてのご飯。 

こはくは湯気を浴びながら、幸せそうに頬をゆるめていた。


「ねぇ、叔母さん」 


智也が箸を止め、少し気まずそうに切り出す。


「今度さ、みんなで海沿いのロッジを借りて、一泊したいって話が出てて……。だけど…未成年だから…その…」


 叔母さんはレンゲを持ったまま首をかしげた。


「保護者が必要って話?いいわよー!智也くんの友達も見てみたいしね!」


「え、いいの?」


あまりにあっさりした返事に、智也は思わず聞き返す。


「もちろん!青春は一瞬よ!満喫しなきゃ損でしょ!」 


叔母さんは楽しそうに笑って、ハンバーグを口に運んだ。


 その横で、こはくが胸を張って得意げに言う。


「だから言ったじゃろ?叔母様ならきっと大丈夫だとな!」


「よく分かってるわね~こはくちゃんは!」 


叔母さんが笑いながらお茶を飲んでいると、廊下の方から足音がした。


 ふと視線を向けると、浴衣姿の澪白が髪をタオルで拭きながらリビングに現れる。


「賑やかだね…」


「澪ちゃん!ちょうどいいところに来たわ!」


 叔母さんがパッと振り返り、満面の笑みで宣言する。


「そういうことだから、澪ちゃんも行くわよ!」


「……そういうこと?」 


澪白はタオルを持ったまま瞬きをする。


「そう、智也くんが友達と旅行いくみたいなの!私同行するから澪ちゃんも一緒に行くの、澪ちゃんも水着買わないとね~!今度一緒に行きましょ!」 


叔母さんが楽しそうに言うと、澪白は一瞬だけきょとんとしたあと、静かに首をかしげた。


「水着、私は泳がない……」


「着るわよね!大丈夫!私が選んであげる!」


「…………」


 智也は苦笑し、こはくは嬉しそうに笑った。



――数日後。



学校は夏休みに入り、空はまぶしいほどの青さを増していた。 

部活の掛け声や蝉の鳴き声が町に響き、どこか浮き立つような空気が流れている。

そんな中、智也たちは“夏の旅行”に向けた買い出しの日を迎えていた。


 朝の駅前には、照りつける日差しと、休日特有のにぎわい。 

待ち合わせ場所のロータリーには、智也・こはく・泉・村上・葉山の五人が顔をそろえていた。


「全員そろってるな!」 


村上が腕を組み、胸を張って叫ぶ。


「よし、夏の戦士たちよ――出陣だーーっ!!!」


「うるさいっ!」 


泉が反射的に頭をはたいた。パシンッと小気味いい音が響く。


「いってぇ!なんだよ沙月!こういうのは気合が大事なんだって!」


「駅前で叫ぶ気合いはいらないの!」


 そのやりとりを眺めていたこはくが、にやっとしながらぽつり


「戦か?」


「ちがうわ!!!」 


全員の声が見事に重なった。


 こはくはぽかんとしたまま、耳をぴくりと動かしている。


「ふむ、戦ではないのじゃな?」


「買い物!旅行の準備!戦じゃなくて“水着とかサンダルとか”!」

とつっこむ泉。


「水着とサンダル…?」


「……まあ、いこうか」

智也は苦笑する。


「なんか、修学旅行みたいでわくわくするね」


葉山はそんな三人のやりとりにくすくす笑いながら、とつぶやいた。


「だろ?買い物こそ祭りの前哨戦だ!」


「はいはい、また変なこと言ってる」

泉が呆れ顔で返す。


 智也はそんな二人を横目に、こはくの横顔を見つめた。 

白い髪が日差しを受けて、きらきらと輝いている。


「よし、行くか!」



「「おーっ!!!」」



 村上の大声を合図に、五人は笑いながら駅の改札をくぐり、ショッピングモールへと歩き出した。

モールに到着した瞬間、村上のテンションはMAXだった。


「うおおおっ、でっけぇ~な~!」


「翔の声がでかいわ!」

泉が即ツッコミをいれる。


「ふぅ~、じゃ、女子はこっちで買い物してくるね」

泉がバッグを肩にかけながら言うと、


「えぇ!? もう分かれるの!? せっかく来たのに!? 一緒に行こうぜ~!」

村上が即座に駄々をこねた。


「女子は女子で見る場所があるの!あとで合流するんだからいいでしょ」


「うぐっ……そ、そうか……女子の世界は深いんだな……」


「変な悟り開いてるな…」


「はいよー、智也行こうぜ! 男のロマン探しに!」


「ロマンの方向が違いそうで怖いんだけど……」


智也はこはくの方を振り向き、

「またあとで合流しよ。こはく、楽しんでね」


「うむ!」

こはくが元気よく頷く。


そのやり取りを見ていた泉が笑いながらウィンク。


「こはくちゃんは私に任せて! その代わり、智也くん、あのバカ頼むね!」


「おい、誰がバカだ!聞こえてんぞ!」


「言わなくてもわかるでしょ~、まったく耳はいいんだから」


「ほら智也~! 行くぞ~!」

村上が引っ張るように智也の腕をつかみ、二人は男子チームとして歩き出した。


「じゃ、あとで合流ね!」

泉と葉山、こはくが手を振る。



こうして、男チームと女チームに分かれて行動開始。



「まずは水着だね!」

泉が腕を組みながら、ずらりと並ぶカラフルな水着売り場を見渡した。


「すごい……いろんなのがあるね」

葉山が目を丸くする。


「ふむ……どれも布が……少なすぎるのじゃ……」

こはくが顔を赤らめ、思わず袖で口元を隠した。


「ちょ、こはくちゃん顔真っ赤! かわいい~!」

泉が笑いながら肩をぽんぽん叩く。


「べ、別に恥ずかしいわけではない……! わらわは、ただ……このような姿、人前で晒すものなのかと……」「そういうもんだよ。夏といえば水着! それに――」

泉はニヤリと笑い、こはくの耳元に顔を近づけた。


「水着姿のこはくちゃん見たら、智也くん……絶対よろこぶと思うな~?」


「なっ……!何を言っておるのじゃ!」

こはくの白い耳が一気にピンと立ち、尻尾までふわっと膨らむ。


「ははっ、反応が素直すぎてかわいい~!」



葉山はというと、少し離れた場所で真剣に悩んでいた。

「どれがいいんだろう……あんまり派手なのも勇気いるし……」


「うーん、葉山さんはスタイルいいからな~。なんでも似合うけど……私的にはこれかな!」

泉が差し出したのは、落ち着いた水色のワンピースタイプ。


「えっ……これ、私に似合うかな?」


「うん! 似合いすぎ! 清楚系最強!」


「じゃあ……これにしようかな。ありがと、泉さん」


「沙月でいいよ! 友達なんだから!」


「……うん。じゃあ、沙月ちゃん……なつみ…夏海でいいよ…」

葉山は少し照れながらも、嬉しそうに微笑む。


「わかったよ!夏海ちゃん!」


「うん!」

二人は顔を見合わせ、ふわりと笑い合った。


その横から、白い尻尾をふわふわ揺らしながらこはくがひょいと顔を出す。


「夏海というのか……夏海は…これが似合うと思うのじゃ」

こはくが手にしていたのは、ほぼ紐としか言えない極小ビキニ。


「ちょ、こはくちゃん!? これほぼ裸じゃん!」


「なっ、なにそれっ!?」

葉山の顔が一瞬で真っ赤に染まる。


三人は顔を見合わせて――同時に吹き出した。


「はははっ! こはくちゃん、それは攻めすぎ~!」


「わらわは真面目に選んだのじゃが……」


「それはさすがに着れないよ、こはくちゃん面白いね、はははっ!」


笑い声が広がり、夏の光がショーウィンドウにきらきらと反射した。




モールの一角にあるメンズ水着コーナー。

カラフルな海パンが並ぶ棚の前で、村上が腕を組んで唸っていた。


「なあ智也、海パンって何がいいんだ? てかさ、男の水着に需要ってあるのか?」


「んー……僕は派手じゃなければなんでもいいかな。あと、需要はないと思う」

智也が小さく笑うと、村上は肩をすくめてため息をついた。


「だよな〜。結局シンプルが一番か」


「これにすっか」

そう言いながら黒いサーフパンツを手に取り呟く。


「僕もこれにしようかな」

智也も隣で紺色の無地を手に取り頷いた。


少しの沈黙のあと、智也はふと口を開く。


「そういえばさ、翔って好きな人とかいるの?」


「ん? 急にどうした、智也」

村上が目を丸くし、すぐに笑って肩をすくめた。


「……まぁ、いるよ。小さい頃から、ずっと好きな人」


智也は少しだけ声を落とした。


「やっぱ……泉さん?」


「……ああ、うん」


「そっか」


村上は、視線を泳がせながらぽつりと語り始める。


「俺さ、もともとこんな性格じゃなかったんだよ。人の目ばっか気にして、自分の言いたいこと我慢して……そんなやつだったんだよ」


「そうなの? 想像つかないけど」


村上は少し笑いながら、棚に肘をついた。


「だよな〜。俺もたまに思うんだよ、“昔の俺どこ行ったんだ”ってさ。でも――こんな俺を変えてくれたのが、沙月なんだ」


「そっか……泉さんは、優しいもんね。 翔がどんなだったかは知らないけど、僕は今の翔、すごくいいと思うよ。 僕も、二人から元気もらってるし、二人がいなかったら今頃、学校なんてやめてたと思う、だから」


そう言いかけて横を見ると、村上の目から涙がぽろりと落ちた。


「智也ぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」


「えっ、ちょっ、翔!? 何!? 」


次の瞬間、村上は僕に飛びついた。


「智也ぁ〜〜! ありがとう~! お前は俺の親友だぁ〜〜!!」


「いや、待って! 離れろって! 近い! 顔近いから!!」

智也が必死に村上の頬を押すも、男泣きの勢いは止まらない。


周りの買い物客がくすくすと笑い、「あら、青春ねぇ」と誰かが呟いた。


智也は真っ赤になって村上の背中を押しながら、

「翔っ、ほんと離れろってば!!!」と叫んだ。


「はぁ……すまん、感情が溢れすぎた」


「溢れすぎ……」


智也がため息をつきながらも苦笑を浮かべる。


二人は、水着の入った袋を手に、集合場所へ向かって歩き出した。

モールの吹き抜けから、午後の陽が柔らかく差し込んでいる。


しばらく無言で歩いていた村上が、ふと口を開いた。


「なあ、智也は、こはくちゃんのこと、どう思ってんだよ」


「え?」


「ただの親戚って無理あるだろ。何も思わないのか?」


少し言葉に詰まり、視線を落とした。


「うーん……思わないわけではないけど、翔と似た感じかも。 両親が急にいなくなって……生きてく気力がなかった時に、支えてくれたのが、こはくだったんだ」


村上は歩みを緩めて、少し真顔になる。


「……そっか。それって、好きとは違うのか? 尊敬とか、感謝に近い?」


しばらく考えてから、前を向いて答えた。


「わからないけど……離れたくない。失いたくないって気持ちは、あるかな」


村上は一瞬目を細め、そしてニヤリと笑った。


「そっかそっか、熱いねぇ~!」


「な、なんだよ、その顔」


「智也が照れてら~。よし、こはくちゃんに報告っと」


「やめろ! 絶対言うなって!」


「や~だよ~ん!」


村上が笑いながら逃げ、智也が袋を持ったまま追いかける。




そんな中、足を止める。――何か、違和感。



「……?」



すれ違った男が、ふらふらと歩いている。

ボサボサの髪、焦点の合わない瞳。

小さく何かを呟きながら、肩を揺らして通り過ぎていく。


(なんだ…なんか…血の気が、ない……?)


智也が振り返ると、その背中は人混みの中に消えていった。

不思議なざわめきが、胸の奥で波紋のように広がる。


「どうした、智也?」


振り返った村上が声をかける。


「あ、うん……なんでもない。行こ、みんな待ってるし」


智也は笑ってごまかし、再び歩き出した。


ただ、その笑みの奥に、どこか拭えないざらつきが残っていた。




――この日を境に、街のあちこちで“異変”が起こり始めることになった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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