出会い
『神縁』
大切なものを失った少年・一ノ瀬智也と、異世界から現れた神獣の少女・こはく。ひとつの出会いが、ふたりの運命を静かに動かし始める。
心を通わせながら過ごす穏やかな日常、その裏では、世界を喰らう闇が目を覚まそうとしていた――。
過去の傷、隠された力、交わる縁。青春と戦いが交錯する中で、ふたりは“生きる意味”を探していく。
人と神獣の垣根を越えて描かれる、優しくも切ない異世界ファンタジー。
病院の待合室は、夜の静けさに包まれていた。
どれくらい、そこに座っていたのか分からない。
時間の感覚はとうに失っていた。
「……智也くん」
声をかけられて、顔を上げる。
母さんの妹──叔母さんだった。
「叔母さん……」
僕の声は、ひどくかすれていた。
叔母さんは何も言わず、そっと隣に腰を下ろすと、黙って背中をさすってくれた。
「後のことは、全部やっておくから…遅いし…先帰りなさい…」
そう言ってくれたけど、その目も少し赤くなっていた。
医師から事故の詳細を聞かされた。
トラックの運転手は飲酒運転をしていて、両親は即死だった──
そう言われても、実感なんて湧くはずがなかった。
叔母さんがタクシーを呼び、、智也は一人、家に戻った。
玄関のドアを開けた瞬間、あたたかいはずの家が、ひどく冷たく感じた。
リビングには誰もいなかった。
本当なら、今日は家族三人でディナーに行くはずだった。
「……ただいま」 小さな声でつぶやいた。
だけど返事はない。 その事実が、胸を深くえぐった。
「なんでだよ……」 震える声がこぼれる。
涙が止まらなかった。 声を出すのも苦しくて、胸が締めつけられる。
時計の針の音だけが、静かに、静かに鳴っていた。
* * *
翌日、葬式は昼から始まり、人がひとり、またひとりと帰っていく中、僕は、すぐに帰る気にはなれなかった。
──重たい空気が、胸にのしかかっていた。
僕は無意識のまま足を動かしていた。どこをどう歩いたのかも覚えていない。ただ、風の音と、自分の靴音だけが、静かに耳に残っていた。
気づけば、知らない場所にいた。
「……ここ、どこだ……」
見渡すかぎりの花畑。
色とりどりの花々が、まるで地面を覆う絨毯のように広がっていた。風が吹けば、夕陽に照らされた花が波のように揺れている。
「……綺麗だな……」
思わず、ぽつりとつぶやく。
ふと、その先。
ひときわ目を引く大きな一本の満開の桜の木。
そして。
その桜の木の下に、一人の少女が、静かに立っていた。
毎週水曜日&日曜日更新予定(第一章・全48話想定)
※諸事情により日曜日のみの更新の可能性もございます。
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