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神縁  作者: 朝霧ネル
2/15

出会い

神縁しんえん


大切なものを失った少年・一ノ瀬智也と、異世界から現れた神獣の少女・こはく。ひとつの出会いが、ふたりの運命を静かに動かし始める。


心を通わせながら過ごす穏やかな日常、その裏では、世界を喰らう闇が目を覚まそうとしていた――。


過去の傷、隠された力、交わる縁。青春と戦いが交錯する中で、ふたりは“生きる意味”を探していく。


人と神獣の垣根を越えて描かれる、優しくも切ない異世界ファンタジー。

病院の待合室は、夜の静けさに包まれていた。  

どれくらい、そこに座っていたのか分からない。

時間の感覚はとうに失っていた。


「……智也くん」

声をかけられて、顔を上げる。


母さんの妹──叔母さんだった。


 「叔母さん……」


 僕の声は、ひどくかすれていた。  

叔母さんは何も言わず、そっと隣に腰を下ろすと、黙って背中をさすってくれた。


 「後のことは、全部やっておくから…遅いし…先帰りなさい…」  


そう言ってくれたけど、その目も少し赤くなっていた。


医師から事故の詳細を聞かされた。

トラックの運転手は飲酒運転をしていて、両親は即死だった──

そう言われても、実感なんて湧くはずがなかった。


 叔母さんがタクシーを呼び、、智也は一人、家に戻った。


 玄関のドアを開けた瞬間、あたたかいはずの家が、ひどく冷たく感じた。


 リビングには誰もいなかった。  


本当なら、今日は家族三人でディナーに行くはずだった。  


 「……ただいま」  小さな声でつぶやいた。


 だけど返事はない。 その事実が、胸を深くえぐった。


 「なんでだよ……」  震える声がこぼれる。


 涙が止まらなかった。 声を出すのも苦しくて、胸が締めつけられる。


 時計の針の音だけが、静かに、静かに鳴っていた。


  * * *


 翌日、葬式は昼から始まり、人がひとり、またひとりと帰っていく中、僕は、すぐに帰る気にはなれなかった。


──重たい空気が、胸にのしかかっていた。


 僕は無意識のまま足を動かしていた。どこをどう歩いたのかも覚えていない。ただ、風の音と、自分の靴音だけが、静かに耳に残っていた。


 気づけば、知らない場所にいた。


 「……ここ、どこだ……」


 見渡すかぎりの花畑。

 色とりどりの花々が、まるで地面を覆う絨毯のように広がっていた。風が吹けば、夕陽に照らされた花が波のように揺れている。


 「……綺麗だな……」


 思わず、ぽつりとつぶやく。


 ふと、その先。

 ひときわ目を引く大きな一本の満開の桜の木。


 そして。


 その桜の木の下に、一人の少女が、静かに立っていた。

毎週水曜日&日曜日更新予定(第一章・全48話想定)

※諸事情により日曜日のみの更新の可能性もございます。


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