三章十五話 シグノイアのAランク2
用語説明w
セフィリア
龍神皇国騎士団の団長。金髪の龍神王と呼ばれる英雄騎士であり、序列二位の貴族。ラーズの恩人であり、雇い主でもある
ミィ
魚人女性、ラーズの騎士学園の同期であり、龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
エマ
ラーズと同じ、壊滅した元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち、回復魔法も使える。龍神皇国騎士団で医師として働いている。ロンの嫁さん
シグノイア防衛軍に所属するAランク
ゼニスは、少しだけ目を閉じる
…何かを思い出すように
俺達が本当に聞きたいこと
それはナイツオブラウンドという組織についてだ
クシュナで追っている錬金術師
奴は、ナイツオブラウンドという組織の者
残念ながら、このナイツオブラウンドという組織の情報は少ない
判明しているのは、目的が不明なこと、Bランク以上の戦闘員を複数擁すること、これくらいだ
「俺が過去に接触したのは、Bランクの戦闘員だった」
ゼニスが話始める
「接触というのは?」
ミィが尋ねる
「確か…、逃走中の戦闘員を追うという命令だった。その場で殺したが、死に際に少し話をした」
「どんな話を?」
「凡人の言いなりになっていて楽しいか? もっと自分を評価してくれる者と会いたくはないか、と」
「…」
セフィ姉が黙って聞いている
「当然断った。だが、そいつは、構わず組織に勧誘してきたんだ。その組織には、あんたより強い人間が、少なくとも三人はいる、と」
「三人…」
「俺がAランクだということは分かっていたようだ。つまり、少なくともAランクの戦闘員がその組織にはいる、ということだろう」
「…っ!?」
「奴の言葉通りなら、ナイツオブラウンドには指揮系統となる上位戦闘員がいる。指揮統率能力や戦闘に特化した者だ」
「…複数のBランク戦闘員を持ち、指揮系統が作られ、中にはAランク戦闘員がいる。しかも、神らしき教団とも関わりがあり、情報をやり取りしている」
ミィが唸る
「予想以上に大きな組織なのかもしれないわね」
「それと、確か…。その上位戦闘員の一人のことを、アークナイト・アーサーと呼んでいた」
「アークナイト? アーサー?」
「役職なのか名前なのか、コードネームなのかは分からん。もしかしたら、Aランクなのかもしれない。はっきり言って、俺は信じていはいないが」
国家が保有する戦闘員
最上位はSランクだ
これは宇宙戦艦の戦闘力に匹敵する
龍神皇国では、宇宙拠点ストラデ=イバリから輸入した宇宙戦艦ディスティニーと接続した戦闘員、コードネーム・ディスティニーがいる
彼を維持するために、国家戦略機構という組織を作った特別待遇だ
更に、クレハナでは守護神ロウと契約した大執行者が、コクル領にいる
どちらも、維持には国家規模の信仰や予算を必要とする
では、Aランクはどうか
Sランクには劣るが、彼らも稀有な存在
セフィ姉は、龍神王の血を持ち仙人として覚醒、更に龍族の強化紋章を授与されている
シグノイアのゼニスは、規格外の召喚獣の力を行使することができるのだとか
Aランク程の力があれば、どこの国でも引く手数多
Aランク戦闘員にとっても、戦力の維持には援助が不可欠
何か特別な事情がない限り、不法組織に与する理由はない
「もし、本当にAランクがナイツオブラウンドにいるとするなら…」
セフィ姉が口を開く
「するなら?」
「思想的な何か。もしくは、目的があるはずね」
「ろくでもない頭の持ち主でしょう」
ゼニスが吐き捨てるように言う
「最後に、ゼニスさん。マーリンという者の名前に心当たりはありませんか?」
「マーリン? いえ…、分かりませんね。何者ですか?」
「私達の任務で名前を耳にしました。裏社会の人間ということだけは間違いなさそうなんですが…」
「そうですか」
「今日は、本当にありがとうございました」
セフィ姉がお礼を言う
「いえ。こちらこそ、お礼を言わせてください。シグノイアとハカルを救ってくれたセフィリア団長と、誰にも知られることなく戦い続けてくれた伝説の1991小隊の二人に会うことができた」
ゼニスが、俺とエマに手を差し出す
俺が手を握ると、ゼニスは頭を下げる
その肩が、少しだけ震えていた
シグノイアの人間にとって、あの大崩壊は…
心の傷
それほどの人災だったのだ
・・・・・・
俺達は、ゼニスを見送った後、騎士団本部を出る
「それでは、セフィリア様。失礼いたします」
「ええ、ダナンジャ。ゆっくり休んでね」
チーム・バイオスフィアはしばらく休暇を言い渡された
理由は、フィーナの出産のため
俺が休み必要があったからだ
「さ、行くわよ」
セフィ姉が素早く準備をする
そして、団長室の受話器を持つ
「…セフィリアです。予定通りとしますので、よろしくお願いします。はい、では…」
セフィ姉はすぐに受話器を置くと、顔を上げる
「行きましょう」
「うん…。急いでるの?」
「休暇を取るって言ってるのに、何か入るとすぐに連絡して来るんだもの」
言いながら、足早にセフィ姉が団長室を出る
俺は、その後に続く…
プルルルル…
「…」
言った側から、電話が鳴る
俺がセフィ姉を見ると、振り返らず足も止めない
ミィも首を振った
そう言うことなので、俺はそっと団長室のドアを閉めた
「セフィ姉、いらっしゃーい」
「フィーナ。お腹が大きくなったわね」
セフィ姉が微笑む
「ただいま」
「お邪魔します…」
「フィーナ、元気?」
「いらっしゃい、ミィ姉、エマ。お帰り、ラーズ。セフィ姉、紅茶の茶葉買ってるけど、私が入れる?」
「お茶は任せて。フィーナは座っていなさい」
セフィ姉は紅茶の入れ方に拘る
拘るのが好きだ
だから、それを知っている俺達は、あえて任せているのだ
「久しぶりだね、ホワイト村」
「みんな、休みが取れなかったから…」
俺達は、フィーナとエマの出産前にプチ旅行に行く
クレハナのホワイト村という所だ
セフィ姉のプライベートジェットで飛べば、二時間もかからないで着く
金で時短とは、金持ちの特権だ
「エマ、ロン君は?」
ミィが尋ねる
「試合が近いから…集中したいって…」
「忙しいのね、もうすぐお父さんになるのに」
「プロは大変なんだよ」
このプチ旅行が終われば、フィーナとエマはそれぞれ実家に帰って出産準備だ
クレハナのホワイト村は、セフィ姉が作った村
俺がクレハナの傭兵時代に身を寄せていた
内戦で亡くなった戦友が眠っており、マキ組もよく立ち寄っている
元は、神らしき教団の被害者や逃亡者達を匿うために作られた村を、クレハナの名もなき集落と一つにした村だ
「ドミオール院に行くのも久しぶりだな」
「マリアさん、元気かな」
「タルヤやウィリンとも会ってないな」
ドミオール院は、ホワイト村にある孤児院だ
タルヤは、俺が拉致されてぶち込まれた変異体の実験施設で出会った仲間
お互いに、無事に…と言っていいかどうかは置いておいて、とりあえず生還はできた
ウィリンは、俺とタルヤが実験施設で世話になった人の息子
クレハナの内戦で俺達と出会った
育ったドミオール院を守るために奮闘した、若いがやる奴だ
「エマのおかげで、医療体制も整って来たのよ」
セフィ姉が微笑む
「いろいろな人が…、手伝ってくれました…」
エマが微笑む
元は、本当に何もない集落
しかも、領境が近く、内戦の影響で治安も悪かった
それでも、ドミオール院は孤児院の子友達がいるため疎開も出来ずに内戦中は危険にさらされ続けて来た
今は、王族であるフィーナとセフィ姉の支援が適切に行われ、村として発展
ドミオール院の子供達も、安心して過ごしている
「それじゃあ、出発しましょう」
「はーい」
「セフィ姉、魔法のじゅうたんタクシー呼んだよ」
「ありがとう、ミィ」
「下に降りよう」
俺とフィーナ、エマ、ミィ、セフィ姉
馴染みのメンバーで、俺達は空港へと向かったのだった
ディステニー 二章三十一話 Sランク戦闘員




