一章四話 隠密騎士
用語説明w
セフィリア
龍神皇国騎士団の団長。金髪の龍神王と呼ばれる英雄騎士であり、序列二位の貴族でもある。ラーズの遠い親戚で憧れ、そして、救ってくれた恩人
ミィ
魚人女性、ラーズの騎士学園の同期であり、龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
モンスターの狩猟が終わり、訓練所に戻って来た
ちなみに、狩猟と討伐は違う
討伐とは、立入り制限地区から出てきたからモンスターを、人類の支配域を守る目的で狩ること
狩猟とは、モンスターの素材など人類の利益のために、人類の支配域外である立入り制限区域に入って狩ること
狩ったモンスターは、最終的に資源として利益となるため混同しがちだが、目的が違うのだ
「ラーズ、お疲れ」
騎士団本部には魚人の女性騎士が立っていた
悪い友と書く、俺の悪友ミィだ
「クレジットクィーンのミィ…! 何でこんなところに!?」
エドガーが目を見開く
ミィもいろいろなところで活躍しており、意外と有名な騎士なのだ
「何やってんだよ、こんな所で」
「団長に呼ばれたんでしょ。一緒に行こうと思って」
「悪い話って確定じゃねーか」
「何でよ、人聞き悪い」
「ミィ、自分の胸に聞いて…」
「途中でやめんな。セクハラで訴えるわよ」
「教官、団長室に行ってきます」
俺は、振り返って一言かける
「失礼のないようにな。それと、今後は訓練よりも別命を優先していい」
「俺、訓練生ですよ?」
「ラーズに、ここの基本訓練で得るものはもうないだろう。それよりもスキルアップを考えろ」
「…行ってきます」
リュベン教官に突き放され、俺はミィと歩き出す
「な、何でラーズがミィさんと…!」
エドガーが何か言っていたが、めんどくさいので無視だ
騎士団本部 団長室
「見習い騎士ラーズ」
「はい」
セフィ姉が真面目な顔で立つ
「辞令を交付します。なお、今回は特例のため口頭のみとします」
「…」
通常、騎士団の辞令は紙
辞令を受けたという証を騎士本人に与えるためだ
だが、それがないということは…
今回の辞令は記録に残さない、という意味になる
「私の直轄部隊に入ってもらい、あるミッションに従事してもらうわ」
「…前に言ってた、ウロボロスって奴?」
セフィ姉の口調がいつものものに戻った
団長モードは終わのようだ
「ええ。もう少し情報が集まったら、ラーズはクシュナに飛んでもらうわね」
「クシュナ!?」
クシュナ
龍神皇国の南に接する隣国
四百年前に存在した龍神皇国の前身、龍神皇帝国が分裂した際に独立した国だ
「組んでもらうアテナは、もう現地入りしてもらってるの」
「…」
前に会った、糸目で薙刀の凄腕女性騎士アテナのことか
「ラーズ達は、通称、私の隠密騎士として動いてもらう。それが、正式に辞令を渡せない理由」
「隠密騎士…」
隠密騎士とは、国ではなく個人に仕えて正規の任務外の仕事を担う騎士のこと
裏の仕事、汚れ仕事、情報収集などが多く、しくじれば足切りされる立場だ
権力者は、闘氣の力を持ち、自分のためだけに動く隠密騎士を持つことで一人前と言われる
信頼を必要とし、裏切られれば雇い主が大火傷を負うからだ
「セフィ姉がラーズを隠密騎士する、その意味を考えなさいよね」
ミィが口を挟む
「…分かってるけど、俺はまだ見習い騎士だからな」
「そんなこと言ってられないよ。今日はキリエ様からの依頼があるんだから」
「は?」
・・・・・・
「キ、キリエ…カエサリル様……」
見習い騎士達が固まる
いや、教官もだ
なぜなら、やって来たのは貴族
この龍神皇国の重鎮の一人だからだ
キリエ・カエサリル
龍神皇国の貴族、カエサリル家の当主
貴族の序列は堂々の一位であり、国に対しても大きな発言力を持つ
娘のピンクは騎士団に所属する騎士であり、期待の新人だ
「キリエさん、騎士団本部へようこそ」
「セフィリアさん、ご無沙汰ね。新しい子が入って、にぎやかになったわねぇ」
「有望な子達ですよ」
「それは良かったわ。それで、私のお気に入りはどこかしら?」
「もう…」
セフィ姉が、俺を示す
「あら、そんな所に隠れてたの? ラーズ君ったら、水臭いわね」
「序列一位の貴族の当主が、気安く見習い騎士を探さないでください」
「娘を食べちゃったくせに、冷たいわ」
「言い方!」
周囲がざわつく
「き、貴族の娘を食べた…?」
「あ、あいつ、何をやったんだ!?」
「カエサリル家とラーズ、どんな関係が…」
「…セフィ姉、めちゃくちゃ言われてるから何とかしてよ」
「言ってることは間違ってないんじゃない?」
「…っ!?」
セフィ姉の…、騎士団長の言葉で、またざわつく
特に、エドガーがすげー顔で見ていた
俺達は団長室に戻る
ソファーに座ったキリエさんと俺達に、セフィ姉が紅茶を入れてくれた
「相変わらず、美味しいわ」
「よかったです」
貴族のキリエさんを唸らせる、セフィ姉の紅茶の腕
紅茶を入れる際の目は剣士の目
刹那の、一番紅茶が美味しい蒸らし時間を見極める
「それじゃあ、お仕事の話をしましょうか」
キリエさんがカップを置き、俺を見る
「はい…」
「そんなに警戒しないでよー。セフィリアさんと話して、隠密騎士のいい採用テストになると思ったの」
「テストですか」
「ええ。ちゃんと、それなりに難しいわよ」
「…」
キリエさんの面白そうな顔
貴族の悪い癖、人を簡単に試してくる
「内容は、はぐれBランクの討伐。元騎士の男よ」
話が進まないので、セフィ姉がキリエさんの代わりに説明を始める
「元…騎士?」
「しかも、うちの騎士団に所属していたの」
「えっ…」
「犯罪行為を行っていて、このままだと騎士団の悪いニュースになりかねない。だから、表に出る前に捕まえて欲しいのよ」
「…」
「ラーズ君の、隠密騎士としての初仕事。期待してるわ」
「隠密騎士の話も共有してるんですね」
「ラーズ君は、カエサリル家のお抱えでもあるもの。特別な騎士なんだからね」
・・・・・・
コツ……
コツ……
深夜、俺はミィと町を歩く
「まさか、騎士団本部の直近に元騎士の犯罪者がいるなんて…」
「中央区で暴れられると大騒ぎになるよ。その前に、なんとかしないとね」
中央区の、この騎士団本部周辺は官公庁街
元騎士が暴れたら大ニュースとなってしまう
「それで、その騎士って…」
バリバリバリーーーーーッ!
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
「…っ!?」
衝撃音と悲鳴が響く
ゴガァッ!
ドゴン!
「何の音?」
「でっかい何かに、誰かが襲われてるんだろ」
俺とミィはしゃべりながら走る
さっそく出やがったか
「おいっ、走るぞ!」
「ぐっ、くそっ…、俺の冷気の刃が…」
誰かが前方から小走りで向かって来る
二人で、一方が肩を担がれていた
負傷したのか
「ちっ…、マジかよ」
「どうしたの、ラーズ」
「あいつら、俺と同じ見習い騎士だ」
やって来たのは、なんとエドガーに肩を貸すアフリイェだった
「お前ら、何してる」
「あっ、ラーズ!」
俺が声をかけると、二人が驚く
「見習い騎士には門限があったはずよね?」
「あ、その…」
ミィの言葉に、エドガーが視線を逸らす
「すまん、ラーズ。エドガーが、ラーズが出かけたから追いかけようって言ってな。面白そうだから俺も乗っちまったんだ」
「…何にやられたんだ?」
「でっかい、甲羅を持ったドラゴンだ。変な男が呼び出しやがった。多分、召喚士だ」
「ラーズ、そいつよ」
「召喚士の闘氣使いか…」
「あ、来たよ」
ミィが言う通り、でっかい甲羅を持ち、蛇のように細い体、鬣と二本の長いひげを持つ東洋型の龍が現れた
「…懐かしいな」
「騎士学園以来だねぇ」
俺とミィは、思わず顔を見合わせる
懐かしき青春の思い出
騎士学園で挑んだダンジョン
その最深部にいたボスモンスター
霊獣ロングイだ
当時は、俺とミィ、フィーナとヤマト
四人パーティで、アイテムを湯水のように使い、奇策を用い、全ての技術を駆使してギリギリで討伐した強敵だ
「外様騎士のお前じゃ無理だ…、俺の特技を弾きやがったんだ…」
アフリイェに肩を借りながら、エドガーが言う
「…」
俺は、黙って倉デバイスから青い大剣を引き出す
無支祁を斬り飛ばした、俺の愛剣だ
「聞いてるのか、お前なんかじゃ…」
「確かに、俺は外様騎士で凡人だ。だけどな、この剣は違う」
闇夜に現れた青空のように
青い刀身、真っ青な魔玉が静かに月光を反射する
「その大剣でやるのか」
「これは、強敵をぶっ壊すために作り上げらた兵器だ」
俺はアフリイェに頷き、ロングイを見据えた
無支祁 一章三話 水辺の狩り
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