一章三話 水辺の狩り
用語説明w
闘氣
基本作用力である、肉体の氣力と精神の精力の合力、闘力を使った技能。習得が騎士の絶対条件であり、身体強化作用と物理作用により、圧倒的な身体能力と防御力を得られる
アフリイェ
ノーマンの男性、ラーズの入団同期の騎士。元軍人で、大人になってから闘氣オーラに目覚めた外様騎士。社会の狭間を歩いてきたため、達観している
データ
戦闘補助もこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。実はメイドソフトがインストールされ、主人の思考の把握が得意。
「………」
お日様が眩しい
「ラーズ、眠そうだな」
「ほぼ徹夜なんだ」
「何でだよ。意外と、夜の町が好きなのか?」
「一番嫌いな場所だ」
ミィのせいだ
わざと寝させやがらなかった
「私も徹夜だし、私も仕事だし。平等でしょ」とか言って、舌をペロッとしやがったのが腹立つ
「それじゃあ、何で徹夜なんか…」
「斥候班が対象モンスターを補足。準備しろ」
俺達の会話は、リュベン教官の言葉で中断
全員が準備を始める
俺とアフリイェ、それと、同じ見習いが四人の六人パーティだ
「今回は、Bランクの無支祁か」
「俺は、初めてのモンスターだ」
俺は、肩にかけていた陸戦銃を手に持つ
「また銃でやるのか?」
「これだけ闘氣持ちがいるなら問題はない」
「討伐の貢献者は、騎士訓練の成績に加点されるらしいぜ」
「興味ないな。データ、モンスター情報を見せてくれ」
「了解だよ!」
AIのデータが元気に答える
この男の子のような話し方は設定で色々変えられるらしいが、俺は慣れているので不満はない
無支祁
猿人のような風貌のモンスター、青っぽい毛をしているが頭の毛は白い
首を伸ばせるのが特徴で、水属性との親和性を持つ
「水属性かよ、嫌だな…」
「ふんっ、情けねー。騎士のくせにビビってんじゃねーよ!」
口を挟んで来たのはエドガー
何で、毎回こいつと一緒のパーティなんだ…
「…教官。今回はパーティではなく、個人でやりませんか? バカの面倒は見切れません」
「な、誰がテメーに面倒…!」
「今回はリーダーを決める。ラーズ、お前だ」
「は?」
「全員無事に、かつ目的を達成しろ。頼むぞ」
「…バカがいるから、俺じゃ役不足です」
「現場では、どんな騎士と組むか分からない。それも訓練だな」
「…ちっ」
「テ、テメー! あからさまに舌打ちすんな!」
「はぁ…」
仕方がないので、俺は倉デバイスに陸戦銃をしまう
そして、大きな剣型の武器を取り出した
倉デバイス
亜空間を作る空間属性魔法陣を封入し、魔力充填用の魔石の魔力が続く間、体積を無視して決まった質量を封印できる
一般兵にとっては重さ無しで持ち運べる夢のアイテムだが、取り出しには時間がかかる
中古で数百万ゴルド、かなりの高額アイテムだ
「ラーズ。お前、大剣なんて使ってたのか」
アフリイェが俺の大剣を観察する
青空のような青い刃体、先端には真っ青な魔玉が埋め込まれた、俺専用のオーダーメイド武器
ずっと一緒に戦場を歩いてきた…、相棒だ
「まぁな。いつもはアホ共が突っ込むから、フォローのために銃を使ってたんだ」
「珍しくアタッカーをするのか」
「嬉しそうにするな。全員無事っていう高難易度ミッションだ、フォロー頼むぞ」
「了解だ」
しばらく進むと、斥候が補足してくれていた無支祁を発見
「おいおい、沼の真横って最悪じゃねーか」
「モンスターに、狩りやすい場所に移動してくれってのも酷な話だろ」
アフリイェにもっともな事を言われる
「それで、リーダーさん。俺達はどう動けばいいんですかねぇ」
「しっかり指示しなきゃ、勝手に動くぜ」
エドガー達が言って来る
最初から聞く気なんかないと、顔に書いてある
「よし、指示をする。これが守れなければ、言語能力が無いか、規律を守る気が無いか、騎士としての適性がないかのどれかだ」
「…!」
「アフリイェ、俺のフォローに入れ。ここからレーザーでポイントしろ」
「了解」
「他は…、ここで待機だ。絶対に動くな」
「…な? は?」
エドガー達が呆気にとられる
「頭と耳がクソ悪そうだからもう一度言ってやる。ここから動くな、沼に一歩も近づくな。指示は以上だ」
そう言うと、俺は倉デバイスからロケットランチャーを取り出す
ちょっとお高い、特殊なミサイル弾だ
「準備はいいぜ」
「はいよ」
俺は、ロケットランチャーを発射する
ボシュ――――――ッ!
ミサイル弾が、沼地の側にいた無支祁に向っていく
アフリイェがレーザーで目標をポイントしているため、気付かせずに精密射撃が可能だ
ズドッ!
「グギャァァァァァァッ!」
ミサイル弾が、直近で形を変える
弾頭にしまわれていた刃が展開し、無支祁に直撃
左腕を斬り飛ばし、ボディに突き刺さった
防御魔法も発動していない、完全に隙をついた
運がいい
「行って来る」
俺は、風属性の特技、風の羽衣を発動
風を纏いながら、高速で接近
「グオォォッ!」
片腕になった無支祁が怒り狂い、襲い掛かって来た
ドガァッ!
「…!」
猿パンチを大剣で受ける
この大剣は芯材と刃体が別れた構造をしており、中ほどの芯材を持てば盾のように使える
だが、衝撃で身体が浮く
闘氣を纏っていようが、体重は変わらない
衝撃を受ければ、人類の体重ごとき簡単に吹き飛ばされる
「…っ!?」
ガキッ!
突然、ろくろ首のように猿の首が伸びる
大きな牙での噛みつきを、慌てて大剣で受ける
なんだ、この気持ちの悪い動きは…
俺は、腰に付けていたナイフを握る
ザクッ…
「グギョギャギャァァァァァッ!!」
伸びた首、その眼球に思いっきり突き立てる
もちろん、闘氣で包んでだ
本当は、風属性を纏った特技、風の刃を発動できれば良かったのだが、まだ咄嗟の発動が出来ない
おかげで、長さが足りずに脳まで届かなかった
縮んでいく首を追いかけるように、俺はダッシュ
それに気が付いた猿の体が向って来る
首を縮める時間を短縮、同時に俺を迎え撃つ気か
お前の闘争心、嫌いじゃないぜ
「ガァッ!」
猿が、また殴りかかる
受けたら飛ばされる
こいつのパンチは、輪力で筋力を強化した特技に分類される攻撃だ
右の大振り、体ごと突っ込んでくる全力パンチ(仮称)だ
俺は大剣を地面に刺して手放す
「あ、あいつ、武器を置いて何をする気だ!?」
エドガー達が目を見開く
パンチが来る直前に踏み込み
拳の内側を取り、通り過ぎた腕を掴んで追いかけるように体を反転
地面に向って猿を叩きつける
「グギョッ……!!」
ズドォッ!
地面に頭から打ちこまれる猿
背負い投げだ
ゴゴゴゴ……
突然、沼の水が波打つ
大きくうねって、高くそそり立ち始める
水属性と親和性のある、無支祁の水属性魔法だろうか
人間一人と侮ったな
「もう遅い、俺の勝ちだ」
俺は、地面に立たせていた大剣を引き抜く
ボゥッ!
大剣の先端、埋め込まれた魔玉から火を噴く
この大剣はロケットブースターが仕込まれており、魔玉から噴射できる
そのジェットの推進力で叩き切ることができる特別性なのだ
ジェットで真横に振り切られた大剣
当然、闘氣で包まれ、硬度を上げ物理特性で保護している
つまり、切れ味は爆上がりだ
ズパァッ!
Bランクモンスターである、無支祁
その首と体が、簡単に別れた
・・・・・・
「アフリイェ、ナイスなスポッターだった」
「爆発しない、刃が出るロケット弾って何だよ、あれ」
「暗殺用で、周囲の人間を巻き込まない安心設計なんだと。車に打ち込んで、中をミンチにするらしいぜ」
「どこでそんなものを手に入れたんだ」
「騎士団の一般兵科で研究してたから、使用感のレポート書く条件で借りた」
戻ると、エドガー達が俺を睨んでいる
「⋯自分一人で手柄を立てて満足かよ」
「はぁ⋯、やっぱり参加させないで正解だ。死ぬなら、仲間を巻き込まない場所で勝手にやれ」
「何だと!」
「やめろ、エドガー。水属性は、利用できる水分が多い水際だと危険だ。例えば、沼地とかな」
アフリイェが見かねて止めに入る
「あぁ?」
「人数が多ければ、沼地の水を使った広範囲攻撃を使われて隙を突かれていた可能性がある。だから、ラーズが一人で行ったんだ」
「…」
「お前は闘氣で無事かもしれないが、全員の安全を確保するなら水辺から離すのはセオリーだ。もっとも、一人で倒しちまったのは想定外だったがな」
「アフリイェ、解説ご苦労。素材の回収を始めろ」
「はい」
リュベン教官の言葉で、皆が動き出す
モンスターの素材は資源
Bランク以上の素材は価値も高く、無支祁の毛皮は水属性を帯びている
回収の手配も大切だ
「ラーズ、戻ったら団長がお呼びだ」
教官が俺に声をかける
「へ?」
「何でも、特例で辞令を出したいとか。団長室に行け」
「…分かりました」
週間でも三位!
マジかぁぁぁ、ありがとうございます!




