一章二話 夜のお仕事
用語説明w
流星錘
紐の先に重りである錘が付いた武器。投げつけたり振り回すことで遠距離武器が可能
ミィ
魚人女性、ラーズの騎士学園の同期であり、龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
『ミィから連絡! 捕獲対象が屋敷に入ったよ!』
俺の個人用AIが、仮想モニターにメッセージを表示する
ペアの人類はPITを持っており、俺は個人用AIをインストールしている
名前はデータという
PITとは個人用情報端末のこと
多目的多層メモリを搭載しており、指紋や虹彩、静脈、遺伝子などの生体情報が、名前などの個人情報と共に記録されており、構造上コピーすることができない
情報端末であると共に、パスポートなどの身分証明書にもなる
そして、個人用AIとは、各社がリリースしている個人に特化したAI
個人の思考パターンや性格を熟知し、個人に特化したサポートを行うように成長していくAIだ
AIを使えば使うほど、脳内の趣味嗜好思想性癖の全てを理解されるため、絶対に外部流出させないためには個人に特化したAIを使うことがお勧めだ
エロ動画や推しキャラ、全部知られてる危険なAIなんだぜ?
『サーモカメラ確認、二階の部屋に人が集まってるよ! 集音マイク解析で、推定八人前後!』
俺の肩には、腰に付けたPITから有線でつながった小さなカメラが付いている
これはデータのアバターで、複数のセンサーによって情報収集してくれるのだ
俺は、目の前の大きな二階建ての屋敷を見据える
ボシュッ…!
突然、直近の送電線が発火
直後に、屋敷の中に灯っていた電灯が消えた
『ご主人! 設置していた発火装置で電線が損傷、屋敷への電力供給が止まったよ!』
データのメッセージを読みつつ、俺は門扉を跳び越えて中に入る
屋敷内のセンサー類も停止している
俺は一階の部屋の窓にテープを貼り付けてナイフで突く
ビキッ…
ヒビが入り、テープを剥がしながら音がしないようにガラスの破片を置く
そして、鍵を開けて中へと侵入
「おい! 停電の理由は何だ!?」
「ブレーカーじゃない…、ちょっと電機会社に電話してみます!」
「隣の家は電気がついてるぞ。ここだけなのか?」
屋敷の中は騒ぎになっている
俺は廊下に出る
プシュッ!
プシュッ!
プシュッ!
男三人を発見、サイレンサー付きのハンドガンでヘッドショット
『二階に向う』
ミィにチャットを送信
『ラーズ、闘氣を使わないで本当に大丈夫なの?』
ミィの返信
『こんなところで闘氣なんて使ったら、一発でバレるだろうが。黙って待ってろ』
俺の脳内の思考を読み取り、AIのデータがチャットを送ってくれる
闘氣は検出が可能
そのための技術が発展している
闘氣を使うBランク以上の騎士と呼ばれる戦闘員は超人
銃や魔法を防ぐバリアによる防御力、身体能力を強化し、素手で壁をぶち抜き、疾風のように走る
そのため、国の重要施設に侵入された場合に、簡単に国の要人を襲うことができてしまう
また、発電所や魔導プラントなどのインフラをたった一人で破壊し、国の機能を止めることもできる
少数の勇者のパーティが魔王城に潜入し、魔王を討ち取ることと同じだ
そのため、Bランク以上の戦闘員は兵器扱いとなる
各国は、国内で発せられる闘氣を検知、更に、その残滓を追う技術を発達させた
超人であり、兵器でもある闘氣を使う人間を逃がさないだけの検知・追跡システムを地脈を使って構築しているのだ
闘氣の発動は、ミサイルを撃ち込むことと同義
申請の無い闘氣の検知は、徹底的に調査されることとなる
つまり、俺がこれからやることは、闘氣なんて便利な能力は使えない
ドタドタ…
階段を上がっていると、足音が聞こえる
「なっ…!?」
男と出くわした瞬間に、流星錘を放る
紐の先端に鉄の重りが着いた武器であり、投げることで遠距離攻撃が可能
だが、実はサイレントキリングにも向く
紐を操作して首にかける
引きながら背後に回り、首を吊るように体を背負う
音を立てれない場所で、血痕も残さずに仕留められる
ちなみに、この紐でギャングの店長も仕留めてやった
『ご主人、突き当りの部屋に熱源が集まっているよ!』
データの言葉で、俺は身を低くする
そして、腰に付けていた魔石装填型小型杖を持つ
これは、魔法の強化能力はないが、魔石に封印された魔法弾を撃つことができる
自分の魔力を使わずに魔法が発動できる便利な武器だ
『光で暗闇を作り出す。注意しろ』
俺は火属性照明の魔石を装填
カチャッ…
「戻ったか…」
ドアを開けると、声をかけられる
同時に、俺は小型杖を振る
カッ…
「ぎゃぁぁっ!?」
閃光が部屋を包みこむ
魔石の魔法は使い切り
すぐに停電中の真っ暗な部屋に戻る
だが、暗闇から閃光、そしてまた闇
人間の目は、その変化について行けない
部屋の中は、目を抑えてうずくまる男女が四人いた
「な、何が…」
プシュッ…!
プシュッ…!
プシュッ…!
三人を撃ち抜く
「なっ、何の音……コヒュッ…!!」
残ったおっさんの鳩尾に拳
横隔膜が緊張、白目をむいて倒れる
素早く部屋を探すと、俺は情報端末を鞄に入れて男を担ぎ上げる
そのまま屋敷を後にした
・・・・・・
男を用意されていた車に乗せる
これで仕事は終わりだ
俺は、ミィの車に戻る
「…お疲れ」
「後は頼むぞ」
「分かってる。でも、よくあんな真っ暗で動けるね。暗視カメラも付けずに」
「俺の目は特別だからな。知ってるだろ」
「夜目が効くなんて知らないわよ」
ミィが缶コーヒーを渡してくる
「ショボい」
「文句あるなら飲むな」
俺は、言いながらもコーヒーを飲み干す
糖分がうまい
「チャンさんって人の情報、大したもんだな。家の間取りも人数もほぼ正確だ」
「ラーズと同じ、大崩壊で家族を失った人なの」
「そうだったのか。だから、こんなに…」
「うん、協力してくれてる。ただ、無理はしないで欲しいけど」
「…」
ブロロロ…
話ながら、ミィが車を発進
朝までには中央区に戻らなければいけない
そういや、教官が明日はモンスター狩りって言ってたな
少し寝とかないときつい
「ミィ、着くまで寝てていいか?」
「いいよ」
「悪いな」
俺はシートを倒して目を閉じる
「ラーズ、騎士の訓練はどう?」
「まぁ、ぼちぼちやってる。闘氣も使えてるよ」
「魔法と特技は?」
「風属性の投射魔法は使えるようになった」
「騎士学園の頃は、防御魔法の風流の魔法も使えてたよね?」
「まだ全然ダメだ。特技は風の羽衣を練習してる」
「それじゃあ、ラーズの代名詞だったドラゴンエッグや重属剣は?」
「過去の自分を誉めたいよ。よく、あんな複雑な技を使ってたなって」
俺はため息をつく
外様騎士とは、大人になってから闘氣に目覚めた者
俺は、ガキの頃に騎士学園で闘氣を身に付けたが、卒業後にその力を失った
そして最近になり、また取り戻したという、ちょっと変わった経歴を持つ
十年以上、騎士の技能を失っていたため、当時使っていた技能はほぼ使えなくなっている
最優先は闘氣の習得のため後回しになっているが、このままではまずい状態だ
「全然ダメってことじゃん。セフィ姉が密命を出すって言ってたけど、そんなんで大丈夫なの?」
「ウロボロスとかってやつか? そもそも、それって何なんだよ」
「知らないけど、あのセフィ姉が本気で焦ってたからヤバいんじゃない? しかも、ラーズにやらせるってことは、表に出せないってことだろうし」
「…」
「そう言えばさ、ラーズ」
「ミィ、お前、俺を寝かす気ないだろ」
「もう一時間もかからないで着くからいいじゃない」
「この野郎…」
「女に野郎って言うな。そう言えば、体調は大丈夫なの? …心も含めてって意味で」
「…」
ミィが一瞬、心配そうな顔をした
「……問題ない。やらなきゃいけないことをやるだけだ」
俺は、ミィから顔を背けて目を閉じた
ギャング プロローグ参照
[日間] アクション〔文芸〕ランキングで一位になってました、焦った…汗
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