二章二十一話 クシュナ三回目1
用語説明w
セフィリア
龍神皇国騎士団の団長。金髪の龍神王と呼ばれる英雄騎士であり、序列二位の貴族。ラーズの恩人であり、雇い主でもある
チャンさん
情報屋の獣人のおっさん。大崩壊で家族を亡くし、教団への復讐のために動いている。情報収集、戦闘員のフォローと、縁の下の力持ち
龍神皇国中央区
騎士団本部
「集まったわね」
俺とアテナ、ダナンジャのチーム・バイオスフィア
そして、ミィが団長室に集合
「今日は、クシュナの例の件についての情報共有と方針決めよ」
セフィ姉が紅茶を振舞ってくれる
「状況を説明するね」
ミィが立ち上がる
クシュナで逃走中の、錬金術師
仙人化の人体強化を終えたB+ランク
金属性魔法の使い手であり、腕に魔法使いの杖を仕込んでいるため、一見、素手でも油断はできない
更に、ウロボロスの欠片の力をある程度引き出せる
身体を液状化して実態を隠し、霧散した細胞から生命体のエネルギーを吸い取る
これは、闘氣の闘力も含まれ、騎士であっても無力化される危険な特性だ
「クシュナからの脱出は確認できていない。まだ国内で潜伏中と思われるよ」
「奴の目的は何だ?」
ダナンジャが問う
「エマの見立てだと、時間を稼いでウロボロスの欠片との融合を図っているのではないかって」
「融合?」
「ウロボロスの欠片は、人体に新たな力を与える。いきなり使いこなせるわけじゃないから、身体に馴染む時間を稼いでいる。同時に、クシュナからの脱出を狙っているって感じかな」
「ふーん…。クシュナの脱出は間違いなく防いでるん?」
アテナがミィ尋ねる
「間違いない。闘氣の感知に重点を置いた配置をクシュナ軍が行っている。町にもクシュナ軍が常駐して探してるから、さすがに、この状況で脱出は無理ね」
「…それで、肝心の潜伏場所の目星はついてるのか?」
「まだよ。チャンさんや情報屋のみんな。それと、私の私設会社のトライデントでも情報を集めてるんだけど…」
トライデントは、ミィが代表を務める会社
クサナギ霊障警備というゴーストハンターの会社、マキ組というバウンティハンターを請け負う忍者衆、モンスターを請け負う騎士と提携しており、主にセフィ姉の緊急依頼を受ける会社だ
共同代表にエマとスサノヲがおり、それぞれ武器防具職人ギルド、医療業界から情報も取れる
お互いに有益な情報を共有し、業務を協力し合うための法人だ
「トライデントは、クシュナで具体的には何をしてるんだ?」
「スサノヲとエマが、現地に行って武器防具の職人ギルドと医療関係者から情報を取ってる。スサノヲは軍関係者からこぼれてくる情報で、怪しい所をいくつかピックアップしたわ」
スサノヲ、意外といい仕事するんだな
金槌を振るうしかできない怪力ヤンキーロリ女だと思ってたのに
「…時間が経つと、その錬金術師がウロボロスの欠片との適応度を上げてしまう。可能なら、早めに確保をしてしまいたのが本音よ」
セフィ姉が口を開く
「それでは、我らが現地入りして、しらみつぶしに回りましょう」
ダナンジャが言う
「それが早いんやない?」
「クシュナ軍の騎士が多数出てきているし、正体不明の双剣野郎やデスペア、教団の戦闘員も交えた争奪戦だ。余計な戦闘は避けるべきだし…」
「分かってるって。ラーズ、うるさすぎひん?」
「大事なことだから言ってるの。小学校の先生だって繰り返し言うだろ。それと、錬金術師を見つけたら、態勢を整えて一気に叩く。逃がさず、かつ、短時間にだ」
「我は、お前と違って逃がすようなヘマはせん」
「…アテナも逃がしたんだ。しかも、クシュナ軍の騎士まで巻き込んで」
「あ、いけないんやで。人の失敗をつつくのは」
「あんたら、緊張感をもっと持ってくれない? ミスったら国際問題だし、最悪、セフィ姉の首が飛ぶんだよ」
ミィが睨む
隠密騎士とは、違法な行為を行う騎士
当然ながら、発覚した場合はとんでもないことになる
特に、他国では国際問題というおまけつきだ
「それじゃあ、四人でお願いね。無理はしないように」
「はっ…!」
ダナンジャが敬礼し、俺達はクシュナへと向かった
・・・・・・
クシュナ イスルタブ市
また、チャンさんがアパートを一室借りてくれていた
今回の拠点であり、折り畳みベッドなどを持ち込んでくれている
近くの公園のベンチでチャンさんと合流
ミィと打ち合わせだ
「ラーズ、ダナンジャってのは強いのか?」
チャンさんが缶コーヒーを飲みながら尋ねる
「強いよ。俺よりは確実に」
「そりゃ、凄いな」
チャンさんは、神らしきものの教団が引き起こした大崩壊によって家族を失った
その復讐のためにスパイとなり、情報収集や俺たちのフォローをしてくれている
「へっへっへ…」
俺は、やって来た野良犬にサンドイッチのハムをお裾分け
茶色と黒の毛の雑種
耳が黒い犬
こいつ、前に会った奴だ
騎士学園にいた、ラングという犬を思い出す
うむ、かわいい
この公園をねぐらにしてるんだろうか
「いくつか、場所をピックアップしている。可能性の高そうな場所を狙おう」
「…ちょっと不安はあるんだけどな」
アテナもダナンジャも、簡単にぶっ殺す
情報を取るのが下手くそすぎるのだ
さっき、チャンさんが俺たちに示してくれた地図
確証まではないが、錬金術師が潜伏してそうな場所だ
ミィを含めた四人で同時強襲
当たりを引いたら、集まって短期決戦を狙う
「念の為、エマがクシュナに残ってくれてるわ。怪我しても大丈夫だよ」
ミィが言う
今回の情報は、チャンさん達スパイと、スサノヲとエマが集めたものだ
「エマ、新婚なのに何やってんだ」
「新婚旅行前に来てくれたの。今回の遠征が終わったら旅行だって」
「そっか。早く終わらせてーな…」
「今回は、スパイの新人が来てる。神族の女でオーサってんだ」
チャンさんが新聞を広げる
クシュナの情報収集か
「女スパイか」
「後で紹介する。俺が仕込んだんだ」
「チャンさんが育てたんなら期待だね」
「オーサは若いがセンスがいい。今回もいい情報を持ってきた」
そんな話をしながら、ふと俺達は会話を止める
クシュナ軍が歩いてきたからだ
「やっぱり、警戒レベルは落としてないな。街も高速道路も軍人ばっかりだ」
「チャンさん、あっちにいるのは騎士だぜ」
向こうを歩いてるのは、俺が足止めしたカットラスを使う騎士
軍属の騎士は厄介だ
仲間を呼ばれるし、組織で追ってくる
下手に補足されたらかなり面倒くさい
「レーニエ様。少し休んでください」
「私は失態を犯した。他国の闘氣使いとターゲット…。どちらも取り逃がしたのだ」
「あれはレーニエ様だけのせいでは…」
「クシュナの国益は最優先。ターゲットだけではない、他国のハイエナ共もまとめて潰してやる…」
そんな話が聞こえる
俺は、ドラゴンタイプの変異体
五感が他の変異体より優れており、聴覚に集中すれば、常人よりもはるかに遠くから会話を聞き取ることができる
「クゥーン…」
「もうないよ。今度、また買ってきてやるよ」
「へっへっへ…」
「お前名前は? ラングって呼んでいいか?」
「わふっ」
俺は、野良犬に頷いて立ち上がる
「ラーズ、犬が好きなんだな」
「俺がガキの時に通ってた学校の犬を思い出したんだよ」
俺は、チャンさんと拠点へと向かった
「それじゃあ、四箇所を同時に。それぞれで」
ミィが作戦を確認
錬金術師が潜んでいそうな箇所を強襲、ビンゴを引いたら速報
他の三人が駆けつけて、一気に勝負を付ける
「…一人で襲いかかるなよ、あくまで探りだ。理想は、四人が揃ってからの襲撃なんだからな」
「分かっている」
「簡単や」
ダナンジャとアテナ
頼もしいが、信用が全然出来ない
俺はチャンさんと組んで目的地へと向かう
「さてと、まもなくだぜ」
チャンさんが運転しながら言う
「ここで待っていてくれ。行ってくる」
「気を付けてな」
夜は更けた
ここは、神らしきものの教団の布教所イスルタブ支部
前回、風の道化師やデスペア串打ちが潜んでいた場所だ
あの時、風の道化師が風属性範囲魔法(大)と爆弾で吹き飛ばして火事になり、崩壊して廃墟となっている
ズドォッ!
ガッ!
「…っ!?」
何かの戦闘音が響いた
俺は、すぐさま走り始めた
犬 一章十五話 クシュナ8
布教所イスルタブ支部 一章十話 クシュナ3




