一章一話 ヒノキの棒
用語説明w
エドガー
竜人男性で、ラーズの入団同期の騎士。騎士団でも期待されている、幼少期から闘氣を身に着けた期待の新人
アフリイェ
ノーマンの男性、ラーズの入団同期の騎士。元軍人で、大人になってから闘氣に目覚めた外様騎士。社会の狭間を歩いてきたため、達観している
龍神皇国 中央区
龍神皇国騎士団 訓練所
ここは、入団したばかりの見習い騎士達の訓練所
騎士とは、闘氣を使う戦闘員の事
戦闘ランクはB、闘氣が使えることが絶対条件のランクだ
同じBランクのモンスターとは、この騎士が対応するレベルの難易度
一つ下のCランクは戦車と同等、Bランクは戦車では討伐が不可能な強さを持つということだ
ちなみに、戦闘ランクの強さは、
F 成人男性以上
E 銃や杖で武装した戦闘員以上
D 武装部隊以上
C 戦車以上
B 闘氣を使う戦闘員以上
A 老竜以上
S 宇宙戦艦以上
となっており、更に、この上にはSSランクがある
これは四千年前に暴れ回った、あの伝説の神らしきもののランクだ
そして、その上には…
SSSランクがあり、これは惑星を破壊するほどの存在のランクだとか
一生の内に見ることはない、見る=人類滅亡の、あまり意味のないランクだ
「ぐはっ…!」
「それまで!」
教官が試合を止める
闘氣を使った模擬戦闘
単純な戦闘術だけでなく、闘氣の身体強化作用と物理作用を駆使する
「おいおい、また外様の負けだぜ」
ノーマンの見習い騎士、アフリイェが首を竦める
「闘氣の出力は、やっぱり俺達のが不利だよなぁ」
お互いに元軍人同士
同じ前職持ちであり、新卒の騎士達よりも年上
外様と馬鹿にしてくるあいつらをめんどくさいと思う者同士、気が合う
「次、ラーズ」
「はい」
「エドガーのご指名だ」
リュベン教官に言われて顔を向けると、エドガーがやる気満々マンで待っていた
「教官、モンスターの前でちびってたガキの我儘を聞いていいんですか?」
「だ、誰がちびっただぁ!」
「一度も攻撃せずに震えてたな、そういや」
「訓練でだけイキッて、うるせーんだよ」
アフリイェがノッてきたので、グゥの根も出ねーように言い負かしてやる
プルプルと震えて、ガキ丸出しだ
「ラーズ、それでやるのか?」
「もちろん」
俺が持っているのは、ヒノキの棒
素振りに使う、どこにでもある棒だ
「何でヒノキの棒なんて使ってるんだよ」
アフリイェが変な顔をする
「使いやすいからな。それに、これって凄い特殊効果があるんだ」
「なんだよ、棒っきれに効果って」
「これにやられたらショックだろ?」
なぜだか、ヒノキの棒には一番弱い武器というイメージがある
木の棒は、普通に強い武器なんだけどな
「け、剣さえも使わなねーって…、こ、後悔させてやる……」
エドガーが、分かり安くキレている
「お前のプライドなんざ、戦場で何の価値もねーんだよ。さっさと来な」
「…うおぉぉぉぉぉっ!!」
煽ってやると、エドガーが突っ込んでくる
身体が仄かな光に包まれる
強い闘氣の特徴である発光現象だ
身体の中に闘力が満たされ、溢れた闘力で身体を包む
跳ね上がった身体能力、バリアによる防御力
あっという間に超人の完成だ
ズドォッ!
地面に叩きつけられるバスタードソード
その斬撃が、数メートル先にまで届く
「…」
だが、俺は剣の真横スレスレで避け、エドガーを眺める
残念だが、そんな大振りの攻撃に当たってやるか
「おらぁっ…」
バキッ!
「このっ…」
ゴッ!
「ぐっ…」
ドスッ!
「…がはっ」
ゴガッ!
「…」
ヒノキの棒を前後左右、先端と末端を入れ替えながらぶん殴る
エドガーに一歩も動くことを許さず十回ほど繰り返すと、堪らずに仰向けに倒れた
闘氣で包んだヒノキの棒で殴れば、相手の闘氣を削る
闘力を失えば、それは体力を削るということ
更に、強固なバリアを持つ闘氣だとしても、同じ闘氣をぶつけられればダメージを負う
後は、闘氣の練度と闘力の量によって実力が変わって来るのだ
「エドガー、最初の振り下ろししか剣を使えなかったな」
「一度もバスタードソードを上げさせないって…」
「ラーズの方が闘氣が弱いはずなのに…」
周囲の見習いたちがどよめいている
「その木の棒で、上手く殴ってたな」
アフリイェがタオルを投げて来る
「サンキュ。ドルグネル流の普通の剣術と槍術を使っただけだ」
「剣術と槍術? 棒でかよ」
「突かば槍 払えば薙刀 持たば太刀 杖はかくにも はずれざりけり…」
「何だよ、それ」
「杖道っつってな、ただの棒を使った武術だ。ドルグネル流の剣術と槍術を練習するのに、剣と槍を用意するのめんどくせーって言ったら勧められたんだ」
「ふーん…、棒で突いて、払って、打って…、更に、先端と尻をどちらも使って攻撃か」
「ただの棒で、剣や槍に対抗するための武術だからな。千変万化の対応力が持ち味だ」
その後も、交代で見習い騎士同士の試合
基本、外様騎士がやられる試合を眺める
やはり、騎士にとっては闘氣の練度が大きな意味を持つ
「よし、今日はこれで解散だ。次はモンスター狩りに行くから心しておけ」
リュベン教官が言う
俺達はプロの騎士
闘氣という選ばれし力を持つ者
好待遇であり、訓練生だが訓練時間はそこまで長くない
だが、この訓練時間だけしか訓練しない者などいない
自主練が当たり前の世界だからだ
闘氣は、瞑想や反復、身体との対話が必要な技術
これに加えて、魔法や特技などの属性攻撃、武器術などの戦闘技能を身に付ける必要がある
騎士が相手をするBランク以上のモンスターは、パワーだけでなく様々ないやらしい能力を使って来る
闘氣があるからと言って、搦め取られれば何もできずにガス欠
闘力が切れて喰われることになる
多かれ少なかれ、俺達はそれを知っているからだ
「ラーズ、この後はどうする?」
「ドルグネル流の道場に行ってくる」
俺は、ヒノキの棒を肩に担ぐ
セフィ姉はドグルネル流の宗家、ドルグネル家の当主
しかも、十代の頃に免許皆伝となった天才だ
俺も騎士団に入り、ドルグネル流の武器術を仕込まれているが、全く歯が立たない
そこらの騎士じゃ比べ物にならない闘氣を持っているくせに、元一般兵の俺を圧倒する武器術を持っている
あの人、いったいどうなってやがるんだ…
「好きだな、ドルグネル流。ただの剣術なのに」
「ん?」
「騎士は闘氣の向上が最優先。次に、特技や魔法だろ」
「…」
騎士の技能は強い
ゲームで言うチートだ
自分が傷つかない圧倒的防御力の闘氣
特技や魔法の威力
ただの銃や剣術なんかでは手も足も出ない
元一般兵のアフリイェでさえ、こんな認識だ
そして、それは間違ってはいない
・・・・・・
龍神皇国 南区
「遅いわよ、ラーズ」
「道場行ってたんだ。仕方ないだろ」
「わざわざ疲れてから来るって、バカなの?」
「通常訓練で動けない時点で、プロ失格だっての」
この魚人の女は、昔馴染みの悪友、ミィ
龍神皇国騎士団に所属する騎士ではあるが、現在は現場には出ない経済対策団に所属している
俺とは気が合う
目的のためには、ある程度のルール違反を許容するという点で
「しくじらないでよ、やっと見つけた教団の関係者なんだから」
「分かってる。それよりも、フィーナに連絡しといてくれ」
ここは、中央区の南
更に南方にはクシュナという国がある
時間はすでに20時過ぎ
帰りは朝方になるだろう
「今晩、ラーズを借りるって言っておいたから大丈夫」
「はいよ」
俺は、胸のホルスターにオートマチックの拳銃
更に、ナイフ、流星錘という紐の先に重りの付いた武器を持つ
「チェンさんから連絡が入ったよ。以後は、ラーズのAI経由で連絡するから」
「了解」
俺は、夜の町へと足を進めた
一章開始です
よろしくお願いします