二章十八話 ヤマトの授業
用語説明w
スサノヲ
見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人で、ラーズの装備の作成者
「疲れた…」
「何かあったのか?」
俺は、騎士団本部の喫茶店でソファーの背もたれに身体を預ける
一緒にお茶をしてるのは、スサノヲとクシナダ
依頼のあった武器や防具、アクセサリーを騎士団本部に納品に来ていて、ばったり会ったのだ
「俺のチームの二人が、素人すぎるんだ」
「お前ら、幻竜騎士団っつー秘密の部隊なんだろ? そんな所に選ばれた騎士が…」
「俺達は、眩しい英雄じゃない。光の当たらない場所で汚いものを処理するのが仕事だ。それなのに、騎士様の英雄根性が抜けてねーんだよ」
「ふーん…」
「なぁ、ラーズ」
クシナダが俺を見る
「どうした?」
「…そろそろ、ハカルに来てみないか?」
「…」
ハカルは、俺がいたシグノイアと戦争になった国
シグノイアとは、龍神皇国の前身、龍神皇帝国から独立した国同士だ
この戦争は、神らしきものの教団と龍神皇国の貴族…、黒幕達が誘導したもの
図られた戦争だった
俺は戦地にてハカル兵と交戦した
…光刃のリサ
クシナダの幼馴染でCランク戦闘員の凄腕
戦地で相対し、死闘の末、ギリギリで勝利した
つまり、俺はリサを…、クシナダの幼馴染を殺して生き残ったのだ
「…まだだ。俺は、あの戦争と大崩壊を起こした奴らに何もできていない」
「…」
「今の俺が、どの面下げて会いに行けるんだ」
「何も求めていない。ただ、会いに行くだけだろ。リサ姉ちゃんやルークさんの故郷を見てもらいたいだけだ」
「…」
俺達は必死に戦った
殺し合っていたハカル兵と協力してまで、奴らを阻止しようとした
それでも、止められなかった
「ラーズ、あまり深く考え…」
「…っ!!」
俺は、慌てて振り返る
獣のような、獰猛な殺気を感じた
「おーい」
「…久しぶりだな、ヤマト」
大柄な獣人男性が手を振っている
「おう、騎士になったラーズじゃねーか」
「騎士ヤマト先輩。よろしくお願いしますよ」
こいつはヤマト
龍神皇国騎士団のエースの一人で、虎王の異名を持つ
フィーナの故国クレハナの内戦で大きな戦果を上げた
獣化能力の中でもレアな、神獣化によって虎のような見た目の獣化を行う
凄まじい身体能力を豊富な闘氣で補強、ボクシングを中心とした戦闘術で無双するナチュラルボーンファイターだ
俺とは、騎士学園の頃にミィ、フィーナと四人パーティを組んでいた仲だ
「せっかく会ったんだ、やろうぜ」
ヤマトが両拳をゴツゴツと当てる
「やらねーよ。今日のヤマトは先生役だ」
「あ?」
「トランスを教えてくれ」
「トランス? ラーズが覚えるのかよ」
「そうだよ。クシュナでトランス使いにやられた。相打ちだったが、こっちも備えておきたい」
「まぁ、いいけどよ。トランスなんて、そんな簡単にできねーぞ?」
「そりゃ分かってる。自分で学ぶことで、弱点とか隙が見えるかもしれないからさ」
俺はスサノヲとクシナダを振り返る
「じゃあな。デートの邪魔して悪かった」
「ばっ、デートじゃねーよ!」
スサノヲが、真っ赤になった
うむ、ギャップ萌えロリヤンキーめ
・・・・・・
ボボボッ!
「…!」
訓練所でヤマトがトランスを発動
嵐のような連続のパンチ
凄まじいパンチの密度だ
黄色い光を発する
氣力を満たした、正確にはトランス1という技術だ
「氣力や、それを使った輪力は肉体の影響を受ける。つまり、チャクラに依存する」
輪力は、氣力と精神の力である精力の合力だ
氣力の流れを経絡と言い、その経絡が寄り集まった場所は、脊椎の神経節部分である七つの点と重なる
その七つを繋いだ直線は輪力の通り道でもあり、チャクラと呼ぶ
このチャクラの流れは、脊髄上の七つの点を通っている
この点のことを、一番下から第一チャクラ、第二チャクラ…、と頭頂部の第七チャクラまで続く
第一チャクラ
ムーラダーラ、尾てい骨
第二チャクラ
スヴァディシュタナ、仙骨・丹田
第三チャクラ
マニープラ、横隔膜
第四チャクラ
アナーハタ、胸椎
第五チャクラ
ヴィシュダ、喉・頸椎
第六チャクラ
アージニャ、眉間
第七チャクラ
サハスラーラ、頭頂
「騎士学園でもやったが、輪力が使えるなら第一チャクラは覚醒している。トランスには、第三チャクラの解放が必要らしいぜ」
「そうなのか…。らしいぜってのは?」
「俺は意識してねー。力を入れるとトランスが発動する。つまり、勝手に第三チャクラが発動してるってことだと…、んー、よく分からん」
「…」
ヤマトは、いわゆる天才だ
感覚的に、いろいろなことを簡単にやってのける
だが、その分、説明が感覚的な話になり、具体的にはドガーンとはバーンとか擬音語をぶっこんでくる
結局、凡人である俺には伝わらねーっとことがよくあった
「ヤマトは、いくつまでチャクラを開けるんだ?」
「分からねーが、見て貰ったら四つ? 開いてる時があったってよ」
「マジか…」
チャクラの複数解放は、人体のリミッターを解除するということ
更に、リミッター解除に耐えられるように鍛え上げたということだ
チャクラを一つ解放するのには、肉体を鍛える事、体内との対話、輪力や氣力の覚知などが必要になる
一つずつチャクラを解放して行けば、それだけ身体能力が上がっていく
もちろん、相応のエネルギーが必要になるため、チャクラに輪力と氣力を貯めることも必要だ
そして、最後の第七チャクラの解放に至ったならば…
このサハスラーラという頭頂部にある最後のチャクラは、世界と一体となるためのもの
大気や地脈…、この惑星に自然に存在する輪力や氣力と繋がることができる
これによって、天啓を得る偉大なる予言者になったり、ドラゴンのブレスのような凄まじい破壊力を持つ特技を放つことが可能となる
歴史上、この七つ目のチャクラを開き人体の完全覚醒に至った者は、数人しかいないと言われている
「それで、どうやったらトランスを使えるようになるんだよ」
俺は、ヤマトに一番聞きたかったことを尋ねる
「うーん…、俺の場合は、興奮がスイッチって感じか。こいつとやりたい、楽しいって気持ちが昂ると、ボワッと体が覚醒するんだ」
「その感覚がトランスってことか」
「そうだろ、多分」
うーむ、困った
ヤマトの説明が下手過ぎて、そして、自分では感覚でやりすぎていて、ほとんど情報が増えない
「ヤマト。もう一回、トランスを発動してくれ」
「おう」
ボワァァ…
黄色い光を発するヤマト
雰囲気が変わる
一気に生物としての性能が引き上がったことが分かる
これがトランス1
俺が持つ竜族の呪印を使ったトランス2とは違う、純粋な技術だ
トランス1とトランス2は別物
どっちが上とかではない
俺のトランス2は、発動時間が極めて短い
簡単に暴走して理性が吹き飛ばされてしまうからだ
だったら、トランス1を身に付ける
そうすれば、トランス2とは別の強化能力として使えるはずだ
ワクワクする
俺はまだまだ弱い
だが、強くなる材料はどこにでも転がっている
「ラーズ、飽きたぜ。スパーしようぜ」
「するか。まだ話は終わってねーだろ」
「何だよ、まだ何かあんのかよ?」
「トランスを発動できる鍛錬方法を考えろって。何やってたんだよ」
「…瞑想と筋トレか? トランスは氣力を身体に満たす技だから、氣力を意識してたとは思うぜ」
「ふーん」
人体には、感覚として五感がある
これは、味覚、嗅覚、聴覚、視覚、触覚のこと
これに、虫の知らせとも言う第六感、正確には脳で感じる電磁波の乱れを感じる感覚がある
そして、第七感
氣力、霊力、精力の三つの基本作用力を感じる感覚
更に、第八感
これは魔力、輪力、闘力の三大元応力を感じる感覚
第七感と第八感は、騎士や魔法使いなどの特殊技能を使う者にとって必須
これからは、瞑想を取り入れて第七感…、氣力の訓練をやってみるか…
「すげー…、あれが虎王のトランスか」
「速さと威力、別格だな」
訓練に来ていた騎士達が言う
ヤマトのトランスはめちゃめちゃ目立っていた
クシナダ 一章三十二話 クロスポイント




