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閑話1 バーンフェイスと物理学者

用語説明w


大崩壊

神らしきものの教団、龍神皇国の貴族、デスペアという謎の組織が引き起こした人為的な大災害。シグノイアとハカルの二国が崩壊し、百万人以上の犠牲者が出た


騎士

闘氣(オーラ)を使うBランク以上の戦闘員。国家が保有するモンスター対策と国防の最終兵器であり、英雄


セフィリア

龍神皇国騎士団の団長。金髪の龍神王と呼ばれる英雄騎士であり、序列二位の貴族。ラーズの恩人であり、雇い主でもある


龍神皇国 西区



辺り一面の大地が赤熱している

黒い煙が立ち込め、空気濃度が一定とならずに周囲が揺らめいて見える


ここが、一時間前は草原だったと誰が気が付くだろうか



「…」


一人の女が、そんな地獄のような世界に佇んでいる



フンババという強力なモンスターが現れた

強敵だったはずだが、跡形もなく消し飛んでいる


モンスターは脅威であり資源でもある

だが、素材は諦めるしかなさそうだ



「バーンフェイス…」


遠くで見守っていた軍人がつぶやく



顔は真っ青

歴戦の兵士のはずだが、彼はこんな光景を見たことがない


一般兵として、多くのモンスターと戦ってきた

現場で、数々の騎士を見て来た


だが、それでも…


辺り一面を焼け野原にする、こんな魔法は初めてだった



「ベル、お疲れ様」


「…」



現れたのは、金髪の龍神王セフィリア


バーンフェイスと呼ばれた女騎士

その顔の半分は、呼び名の通り醜い火傷(バーン)となっている


「充分な実力を示してくれたわ。ようこそ、クロノスへ」


「…大崩壊の仇、取れる?」


「もちろんよ。そのための組織だもの」


セフィリアは微笑む




クロノス


二つの国を崩壊させた、あの大崩壊を引き起こした神らしきものの教団

彼らを消滅させるために作られた組織、それがケイオーン

その中心となる意思決定機関がクロノスだ

少数精鋭、異能と実力を持つ者達で組織されている



「…あんた。どうして、その顔を治さないの?」


セフィリアの後ろに立つメガネの女魔法使いが尋ねる

誰もが触れなかったことを平然と聞いてのけた


「あの戦地の……、仲間を焼いた炎を忘れないためよ」


「変わってるね」


「変わってるんじゃない。私は狂ったのよ、キミコ」



バーンフェイス…、ベルという女騎士は、女魔法使いをキミコと呼んだ


ベルは、服の首元を少しだけ引っ張る

チラッと見えた胸元には金属が光っていた


彼女はサイボーグ

身体の中に亜空間維持装置が埋め込まれ、小型原子炉を封印している


彼女は、原子力の力であるノクリア属性との親和性を得たミュータント

火属性の力を使い、核分裂反応から膨大な熱量を発動し、周囲を焼き尽くす



「グルルルル…」


「お帰り、ライカツー」



ベルの元に戻ってきたのは、巨大なモンスター

三つ首の黒犬、ケルベロス

魔属性と炎を操る地獄の番犬だ



「ベル、キミコ、帰りましょう」


セフィリアが声をかける


「…」

キミコの頭の上に、目と口が現れる


「キミコ。何、それ?」


ベルが尋ねる


「チェシャ…」


徐々に体が現れ、白と黒の模様の猫となった

ニヤニヤはしていないが、立派なチェシャの猫


プラズマ生命体と呼ばれる、超常的な存在だ



「懐いたわね、キミコ」


「マリアさんが、飼い方を教えてくれたから」


キミコが、チャシャという名の猫を撫でる



彼女は、ベルと同じクロノスの一人

そして、特級の罪人、大量殺人犯だ


彼女は、物理学者と呼ばれる魔法使い

国土級魔法陣を利用して極大力学属性魔法を発動、宇宙空間の小惑星を引き付けた

小惑星をメテオに変えて地表に叩きつけたのだ


甚大な被害を与えた

メテオによって死んだ人数は、数えるのが馬鹿らしいほどだ



「ベル…、今度、お茶をしない? フィーナも誘って」


「…」


ベルは、キミコを何の感情も持たない目で見つめる



「キミコ、楽しそうね。何万人も殺したくせに」


「…っ!?」


キミコがビクッと体を震わせる



「私は、核の炎を身に付けるために歩いてきた。あなたが極大力学属性魔法を発動したことと同じ。より上の存在になりたい。知識に、技術に触れたい」


「わ、私は…」


「私は望んだ。あなたと同じよ」


「…」



大崩壊

百万人以上の被害が出た大災害


引き起こした当の本人が、まるで子供のように震えている

その眼には涙まで溜まっている


それを見て、ベルはため息をつく

「…キミコ、あなたって際どいわ。()()()()()()()()()()()()()()()()


「わ、私、やっと普通に…、みんなと……」


「ホワイト村とドミオール院だっけ? おままごとが好きね」


「そ、そんなんじゃ…」


「あなたは知らなかった。いえ、知ろうとしなかった。人付き合いが苦手で、物理学と魔術にのめり込んだ。他を顧みない、立派な狂人だった。それなのに、ね」


「…」


「大崩壊の罪は絶対に消えない。私の顔の火傷と同じよ」


そう言って、ベルは去って行った




肩を落とすキミコ


自分が引き起こした大崩壊によって、ベルは大火傷を負った

それだけじゃない、ベルの仲間は炎に包まれた


ベルは死にかけた

しかし、生き残った仲間たちの力を継ぎ接ぎして生かされた


仲間のサイボーグの生命維持装置…、死にかけた仲間の命を奪うことで、ベルは生き延びたのだ


その元凶であるキミコと距離は縮まることはない



「…」

キミコが泣き始める


セフィリアが、そんなキミコの肩を抱く


「キミコ、私を信じなさい。あなたは成長した。子供のようにはしゃいで、ただ楽しいからと隕石を落とした。その後、どうなるかを何も考えずにやった、無邪気なあなたとは違うわ」



セフィリアは、キミコを支配下に置いた

一人の死刑では、とても償えない

百万人の死者を出した史上最悪の罪人だからだ


そして、やったこと


それは幼く、思慮の浅すぎる天才

自律できず、順応できず、結果として迫害されてしまう性格

救いの手を差し伸べなければ、孤立してすり減って死んでしまう存在


キミコに手を差し伸べた



「私、どうしたら…」


「あなたには私がいるわ」



セフィリアは思う


キミコは天才

フィーナも天才

ミィのセンスもずば抜けている


ベルの適応力も、ミュータントと呼ばれるほどの人外レベル


クロノスは、才能に溢れていることが最低条件だ



でも、セフィリアが考えているのはラーズの事


ラーズは天才ではなかった

生まれながらの才能は持ってはいなかった


でも、挑戦し続けた末に、ついに手に入れた

生き抜くことに特化した能力を


地獄の中を歩いた先に、ラーズは心を槍や刀に変えた


人を傷つける武器となったのだ


料理にも使えない

文房具にも使えない


武器にしかなれない

戦うこと以外に、何も使えない無骨な刃物


でも、そこに武の美しさが宿りつつある


機能美を芸術に昇華させる

それは、彼の中に武の才能が宿ったということ


…まだまだ未熟


でも、期待せざるを得ない



セフィリアは、微笑みながら二人のクロノスを連れて帰る


不安定で壊れやすい、それでいて爆弾のように危険

そんなクロノス達のケアも、セフィリアの仕事なのだ



明日から二章開始となります!


この二人は、過去作からの登場となります

過去作から続いている本作ですが、単独で読める作品として書いています

もし、意味がわからない部分があればご指摘くださると嬉しいです

よろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
キミコが思ったより真人間になってるがやった事がひどすぎて和解は無理なのはまあそうだよね。ベルはラーズより精神的に重症だろうからメンタルケアは大事でしょうね
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