一章三十三話 ピンク
用語説明w
アフリイェ
ノーマンの男性、ラーズの入団同期の騎士。元軍人で、大人になってから闘氣に目覚めた外様騎士。社会の狭間を歩いてきたため、達観している
エドガー
竜人男性で、ラーズの入団同期の騎士。騎士団でも期待されている、幼少期から闘氣を身に着けた本流騎士の新人
騎士団本部 訓練所
見習い騎士達がざわついている
なぜなら、今日は正騎士となる日
見習い卒業と、所属騎士団が決まる日だからだ
龍神皇国騎士団は六つの騎士団で構成され、その頂点に騎士団本部が存在する
この本部には直轄騎士団が編成されており、これを皇竜騎士団という
全ての騎士の憧れ、超精鋭部隊だ
そして、この本部の下に六つの騎士団がある
・赤竜騎士団
・青竜騎士団
・緑竜騎士団
・黄竜騎士団
・白竜騎士団
・黒竜騎士団
それぞれに受け持ち地域を持つ
そして、特色として、階級が上の騎士ほど得意属性が被っていることが挙げられる
例えば、赤竜騎士団は火属性を得意とする者が多い
これは、火属性が弱点となる高レベルモンスターは、赤竜騎士団に任せればいいということだ
よって、得意属性によって騎士団が決められることが多くなる
だが…
当然ながら、単一属性だけで勝負はできないし、回復魔法や補助魔法なども必要になって来る
そのため、火属性が得意でも青竜騎士団に行くことはあるし、騎士団内での人事交流も起こり得る
「ラー兄ぃ!」
「…ピンク」
向こうから、巨乳の赤髪竜人の女騎士がやって来た
かわいいし表情豊か、そのボディも相まって男どもの視線を集めている
だが、誰も声をかけたりはしない
なぜなら、ピンクは序列一位の貴族、カエサリル家の令嬢、あのキリエさんの娘
セフィ姉よりも貴族の序列が上という、とんでもない家柄だから
騎士団の中でも抜きんでた実力で功績を上げている注目騎士の一人だ
「久しぶり!」
「くっつくなって、もう学生じゃないんだぞ」
「久しぶりだからいいじゃーん。ね、見習い騎士が終わるんでしょ? どこの騎士団になったの」
ちなみに、このピンクは素質も別格だ
龍神皇国には、様々な龍の血が受け継がれているが、その最上級が二つある
それが、セフィ姉の龍神王の血と、ピンクのカイザードラゴンの血だ
セフィ姉とピンクは、このドラゴンの血を持っており、常人とはかけ離れた力を持っている
Aランクへと至るのは確実な逸材だ
そして、セフィ姉は仙人として完成、ピンクは変異体として覚醒しつつあるとか
つまり、強化兵としての力も持つことになるのだ
持ってる奴ってのは、いるってことだ
「これから発表だ」
「楽しみ。赤竜騎士団だったらいいなぁ」
もうしばらくしたら、教官が発表をするらしい
どうやら、ピンクも待つつもりのようだ
ピンクとは、セフィ姉の関係で小さい頃から仲が良かった
セフィ姉とピンク
そして、皇太子の一人であるソロン
この三人は、強いドラゴンの血を引いている注目の新世代であり、義兄弟の契りと呼ばれている
三人で組んで、今後は龍神皇国で活躍することだろう
ちなみに、ソロンも龍神王の血を引いている
「ぴ、ピンク様…」
「ラーズ、貴族との知り合いが多いな」
「ゴマすり野郎め…」
ピンクが動くたびに、重そうな胸が揺れている
目の保養をしつつ、俺は周囲の視線に気が付かない振りをする
また目立ってやがる…
だが、勘違いするな
俺とピンクは、ただの知り合いじゃない
なんと、契りを交わした仲なんだ
別に、アレをしたわけじゃない
でも、キリエさんの好きなこの言い方って、絶対に誤解されると思う
「おい、ラーズ。教官が来たぞ」
「おう」
アフリイェに言われて、俺は顔を上げる
お前、ピンクの胸をチラ見したこと、分かってるからな
掲示板に張り紙
そこに、六つの枠が書かれ、俺達の名前の札が貼られている
「…俺は、黒竜騎士団だ」
アフリイェが言う
「黄竜騎士団!」
エドガーのうるせー声が聞こえる
他の見習いも一喜一憂している
それだけ、進路ってのは気になるものなのだ
「…ラー兄の名前、なくない?」
「…俺もそう思う」
いくら探しても、俺の札が無い
なんなの、いじめなの?
「ラーズ」
「はい」
俺は、リュベン教官に呼ばれる
「ラーズの札はない」
「…クビってことですか?」
「ぎゃはははっ!」
「外様なんていらねーからな!」
「俺達と同じ給料もらうって、不公平なんだよ!」
「…」
「…っ!!」
悪ふざけするガキどもを一睨みしてやる
テメーら、すぐ黙るくらいなら最初から煽って来るんじゃねーよ
「ラーズは、七番目の騎士団に行って貰う」
「な、七番目の騎士団?! そんなの聞いたことがない!」
エドガーが声を上げる
だから、うっせーんだけど
「ラーズが行くのは、幻竜騎士団だ」
「どこですか、それは」
俺はピンクを見る
だが、首を捻ってるので知らないのだろう
見習いの俺達じゃ尚更だ
「幻竜騎士団っていうのは、実体のない騎士団。便宜上の呼称であり、騎士団の組織編成には入っていない」
「リュベン教官。ちょっと言っている意味が分からないのですが、クビって言われてませんか?」
だんだん、自信が無くなって来たんだけど
「要は無所属。存在の無い存在ということだ。具体的に言えば、団長の直轄部隊ってことだと…思う」
「思う?」
「正直、一教官である私では判断がつかないんだ。幻竜騎士団に入る新人なんて、今までいなかったしな」
「…」
「セフィ姉に直接聞かないとダメってことなんだね」
ピンクが小声で言う
その通りだろうな
「残念だな…、ラー兄と一緒の騎士団で仕事したかったのに」
「またいつか組めるだろ。お願いしますよ、ピンク先輩」
「任せてよ。それとね…」
「うん?」
ピンクが耳に顔を近づける
「私、変異体因子の兆候が出たよ。思ったよりも早かった」
「な、何だと…!? タイプは分かったのか?」
「ギガントだろうって」
「んー、ぴったりだ」
変異体の三タイプ
肉体強化のギガント、身体拡張のドラゴン、脳力強化のエスパー
ピンクは火属性との親和性を持つドラゴンエリート
元から身体能力が高く、近接職の適性が高い
しかも、皇竜化というドラゴンの力を顕現させる能力も持つ
それが、変異体のギガント…、更に肉体を強化させるだと?
ピンク、ヤベーレベルの騎士になっちまうんじゃ…
「ラー兄と契ってさ、どっちが先に覚醒するかの競争。私の勝ちかもね。約束、楽しみー!」
「お高いシャンパンか…、貴族のくせに、サラリーマンにたかるなよ」
ピンクが笑顔で去っていく
明るく楽しく、人を和ませる性格のくせに、とんでもない火力を持つ火竜だ
「それでは、指示をする!」
リュベン教官の声で、俺達は集まる
「お前たちは、本日の辞令をもって正規の騎士となる。階級も正騎士となり、権限と責任が明確化される。騎士の自覚をもって私生活を過ごすように! 特に、エドガー!」
「は、はい!」
「ギャングの店に行き、しかも、恩を売られるなど言語道断だ!」
「…」
中央区のギャングが一つ壊滅した
記憶に新しい出来事だ
「そして、勘違いはしないように。お前たちの訓練自体は終わっていない。各騎士団に所属しながらも、この訓練所での訓練は続く。そして、自主練も当然ながら必要だ」
リュベン教官が言葉を切る
「一番、騎士達の事故が多いのは、正騎士になってしばらく経ってからだ。モンスター討伐の現場に慣れ、一人で仕事を任されるようになった頃。忙しくなり、訓練所から足が遠ざかり、更に、現場で慢心する」
「…」
「私は引き続き、お前たちの訓練を担当する。いつでも訓練に来い、相談に来い。そのために私はいるのだからな」
「はい、よろしくお願いします!」
俺達は、辞令式に向う
正騎士になる、そのために
次のステップに進む
それは、やはり心が躍ることだ
「ラーズ、また訓練でな」
「アフリイェ、グラップリングもやろうぜ」
「…隠密騎士の仕事でも頼むぜ」
「言葉に出すなって」
俺が睨むと、アフリイェはニヤリとして行ってしまった
ギャング プロローグ
次回、一章完結!




