一章三十一話 闘氣の倍率
用語説明w
セフィリア
龍神皇国騎士団の団長。金髪の龍神王と呼ばれる英雄騎士であり、序列二位の貴族。ラーズの恩人であり、雇い主でもある
アテナ
黒髪ノーマンの女性。薙刀を使う騎士であり、閉じているような糸目が特徴。セフィリア個人に忠誠を誓った隠密騎士。Bランクだが、格上のB+ランクを倒し切る腕を持つ薙刀使い。そして、シリアルキラー気質
ミィ
魚人女性、ラーズの騎士学園の同期であり、龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
龍神皇国騎士団 団長室
俺とミィ、アテナは、二回目のクシュナ遠征の結果を報告する
「…なかなかうまくいかないわね」
セフィ姉は、怒りもせずに言う
「ごめん、また失敗した」
「…最初から、そんなに簡単に行くとは思っていないわ」
「…」
「クシュナ軍に包囲された中での、クシュナ国内でのミッション。そこに現れた、双剣の騎士。錬金術師はB+ランク。よく全員が生きて帰って来てくれたわ」
セフィ姉が微笑む
黄金の笑顔
きらめく金髪がキラキラと…
「セフィ姉、それでね…」
ミィが話始め、俺はハッと我に返る
「ナイツオブラウンド、錬金術師の反応的に間違いないよ」
「そう…。久しぶりの手がかりね」
セフィリアは、騎士団に入り、行政保安官という特別職に就いた
この特別職は、テロや反社会組織の調査を行う義務と権限を持つ
セフィリアが家族を失った過去の事件の元凶、神らしきものの教団の調査をするために希望したのだ
そして、ラーズやミィが騎士学園に通っていた頃
セフィリアは騎士学園へと派遣された
それは、騎士学園を襲ったナイツオブラウンドと呼ばれる謎の組織の構成員を引き受けるためだった
だが、まともな話は聞けずに終わった
その構成員が、仕込んでいた毒で自決したからだ
簡単に命を捨てて証拠を隠滅する、狂気を感じるほどに淡々と実行した
複数のBランク戦闘員を抱える組織、ナイツオブラウンドは、神らしきものの教団よりも危険な一面を持っている
「…ナイツオブラウンドの情報は欲しい。でも、最優先はウロボロスの欠片の確保よ」
「生け捕りは狙わなくていいんですか?」
アテナが尋ねる
「それができるなら、やってもらいたい。ただ、Bランクの仙人相手で、ウロボロスの欠片持ち、欲を出すと返り討ちにされるわ」
「…」
セフィ姉は、静かに言う
それが、誇張ではないことが分かり安く伝わる
セフィ姉は強い
そして、組織の長だ
いろいろな者を見て来た
その上で、俺達は負けると言っているのだ
「そう言えば、ラーズがダメージを受けたって言ってたわね」
セフィ姉が、俺の頭を見る
「大したことないよ」
錬金術師が発動した金属性投射魔法
立方体に作った金属の塊が頭に直撃した
脳震盪を起こしかけたが、ダメージは抜けた
特に問題はない
「…問題はありね」
「え?」
セフィ姉が、俺の頭を見て言う
目の前にセフィ姉の…貴族で騎士団長の胸がある
ありがとうございます
「ラーズは変異体。そんな簡単にダメージを受けるはずがない。しかも、闘氣を使っているのに」
「双剣野郎が現れて気を取られていただけだよ」
「違うのよ、ラーズ。あの錬金術師、金属性魔法と、もう一つ魔法を乗せていたの」
ミィが言う
「もう一つ? ダブルマジックってことか」
「その通り」
ダブルマジックとは、二つの魔法を同時に発動する
二つ同時に投射魔法を発動する
魔法を強化するブースト魔法を、もう一つの魔法に発動する
二つの属性魔法を融合させる
いろいろな手法がある、魔法の高等技術の一つだ
「あの錬金術師は、竜殺魔法を使ったんよ」
「竜殺魔法?」
竜殺魔法
ドラゴンキラーの特性を作り出す魔法で、ドラゴンという存在に干渉する魔法だ
ドラゴンキラーには種類があり、他にも、神鉄、竜喰らいの植物、竜を殺すための霊的構造、そして、ドラゴン自体の牙や爪…
強大なドラゴンを屠るためには、これだけあっても、まだまだ足りないのだ
「何で、そんな魔法を?」
「分からんけど、一直線にラーズを狙ったように見えたんよ。あの錬金術師」
思い出すと腹が立つ
不意打ちで、いいのを貰っちまった
「報告は分かったわ。それじゃあ、今後の方針を決めましょう」
セフィ姉がまとめる
俺達と話しながらも、しっかりと結論を出している
管理職の凄い所だ
俺とミィ、アテナが答えを待つ
「…しばらくは情報収集に集中。戦闘員の三人はクシュナから離れる」
「…」
「その理由は、あなた達も分かっている通り。クシュナ軍に顔を見られたから、ほとぼりが冷めるまで待つ」
「はい」
「ミィは、情報屋…スパイの采配をお願いね」
「了解」
「その錬金術師も、しばらくは身を顰めるはず。こちらから探すのではなく、動くのを待つ。ラーズは、その間は訓練に集中しなさい」
「分かった」
「でも、ラーズ。あんたのレベルなら、見習い騎士の訓練なんて物足りないんと違う?」
アテナが言う
「…いや、そんなことはない。ちょっと鍛え直さなきゃダメだ」
「双剣遣いに負けたん、気にしてるんやね」
「負けてねーから。寝てねーで、ちゃんと聞け」
「失礼過ぎる! 起きとるわ! 目が細いだけや!」
ギャーギャー言ってるアテナは無視
…双剣使いは強かった
闘氣の腕で、完全に競り負けた
闘氣の未熟さを痛感させられた
少し、慢心していたかもしれない
俺には、武の呼吸がある
鍛えてきた戦闘術、格闘術、ドルグネル流がある
だから、最低限の闘氣があれば負けるはずがない
そう思っていた
だが、結果はエドガーのクソ野郎が言った通り
騎士に一番必要なものは闘氣
闘力の熟練度が必要
単純に、俺の鍛錬が…、努力が足りなかった
…鍛え直しだ
「ラーズ、具体的に何かやるの?」
ミィが尋ねる
「担当のリュベン教官に、しばらく訓練をお願いするつもりだ」
「見習い騎士が終わるのに?」
「基本は奥義だ。いつ学んだっていいだろ」
俺の見習い騎士の訓練期間は間もなく終わる
その後は、同期と共に卒業試験を受けて、合格すれば正規の騎士となる
階級は、正式に騎士となる
騎士の階級が騎士、これでは分かりにくいので、最初の騎士の階級は正騎士と呼ばれている
俺と、アフリイェやエドガー達同期は、間もなく正騎士となって新たなステップに進むのだ
「ラーズ。正騎士になった後は、アテナとダナンジャの三人でチームを組んでもらうわ。この二人からは学ぶことも多いから」
「…悔しいけど、そうかも」
「何で悔しいん?」
「アテナがアホだから」
「は? 腹が立ちます」
俺とアテナが睨み合う
「ラーズ。アテナの凄い所はね、ただの騎士。Bランクということよ」
「…」
セフィ姉が、ため息をつきながら喧嘩を止める
分かっている
アテナは強い
アテナは、俺や双剣野郎、錬金術師のような強化兵ではない
変異体や仙人のような、人体を超越した力を持っていないのだ
ちなみに、セフィ姉とフィーナも仙人として霊体の神格化に完成している
B+ランクであり、どちらも凄まじい霊体の力を持っている
…だが、アテナはただの騎士
騎士というだけで、常人とは比べ物にならないような力を持っている
闘氣とは、ゲームの中でバランスをぶっ壊すチート能力
闘氣が無ければ、対抗は不可能だ
だが、闘氣があっても、BランクとB+ランクの力の差は大きい
その理由は、身体能力の強化作用が倍率である点だ
…例えば、闘氣の強化倍率を10倍とする
一般人の身体能力を1
そして、変異体や仙人などの強化兵の身体能力を5とする
「一般人 VS 強化兵 」= 1 VS 5
これは強化兵の圧勝だ
「騎士 VS 強化兵 」= 1の10倍 VS 5
この場合は騎士が圧勝
そして、「騎士 VS 強化兵の騎士」 の場合
= 1の10倍 VS 5の10倍
= 10 VS 50
強化兵の騎士の方が強くなる
つまり、素体となる身体能力の差で、闘氣を使った戦闘力が変わる
分かり安く十倍としたが、実際はそこまで倍率は高くない
闘氣の熟練度とは、この強化率を引き上げることだが、当然ながら限界がある
「何で見てくんの? 好きなん?」
「…」
アテナは、こんなアホでも、薙刀の腕だけで仙人である錬金術師を追い詰めた
通常のBランクのくせにだ
闘氣の腕と武術…
つまり、騎士としての実力が飛びぬけているということ
俺はまだまだ弱い
未熟だ
鍛え直さないといけない
挑発してくる糸目を見て、俺はそう思ったのだった
騎士の階級 一章七話 密命
ラーズ君は、ここより修行モードに入りますw
第一章は残り三話です




