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一章十話 クシュナ3

用語説明w


終末戦争アポカリプス

ペアが構成された約四千年前、二つの惑星の人類と神らしきものとの生き残りをかけた戦い


アテナ

黒髪ノーマンの女性。薙刀を使う騎士であり、閉じているような糸目が特徴。セフィリア個人に忠誠を誓った隠密騎士。Bランクだが、格上のB+ランクを倒し切る腕を持つ薙刀使い。そして、シリアルキラー気質


チャンさん

情報屋の獣人のおっさん。大崩壊で家族を亡くし、教団への復讐のために動いている。情報収集、戦闘員のフォローと、縁の下の力持ち


大崩壊


龍神皇国の東に位置するシグノイアとハカル

この二つの国で起こった史上最悪の人災だ


第二次シグノイア・ハカル戦争において、戦地で起こった核爆発、それをきっかけとして秘密裏に形成された国土級魔法陣が暴走

五ケ所の大災害と、極大力学魔法によって引き寄せられた小惑星によって壊滅津的な打撃を受けた


災害後関連死を含めると、死者は百万人を超える

その中には、チャンさんの家族も含まれるのだろう



「俺の家族は、聖地バルフスで起こった熱病のパンデミックにやられた。医療品が不足していて、二人の子供は一週間も保たなかったよ」


「…」


「妻はまいっちまってな。飯が食えずに抵抗力が落ち、同じ熱病にかかって逝っちまった」


チャンさんが淡々と言う



「…ハカルも、被害は大きかったんだな」


俺は、シグノイア防衛軍に所属していた

ハカルの都市部の様子は見ていないため、実情をあまり知らない


…仲間を皆殺しにされ部隊が壊滅、それどころじゃなかったというのも本音だ


大崩壊を引き起こしたのは、龍神皇国の貴族

そして、神らしきものの教団とデスペアという三つの組織だった


セフィ姉によって、貴族は粛清されている

デスペアは正体不明の謎の生命体であり、複数いることくらいしか分かっていない


…そして、神らしきものの教団は、まだのうのうと存続している



「…見ろ」


チャンさんが写真を見せてくる

可愛い二人の女の子が笑顔で振り向いている


「かわいい」


「そうだろう」


「…」


「俺は許せねぇ…。俺の全てをぶっ壊したやがったんだ、あの大崩壊は!」


「…俺も同じだ」



神らしきものの教団


現在の世界は間違っている

四千年前の終末戦争アポカリプスにて現れた、神らしきものに今すぐ滅ぼされるべき、との教義を持つカルト教団


実態は、テロ活動や人体実験などを繰り返し世界各地で暗躍、各国がマークしている超危険な組織



神らしきものの教団が大崩壊を起こした目的

それは、巨大魔晶石を国土級魔法陣を使って暴走させることで大量の魔力を発生させること


そんなことのために、百万人以上が殺されたのだ


それを、何らかの方法で持ち去った

二国を崩壊させた、あの大崩壊は、実は想定される発生エネルギーの半分以下で起こった

膨大な魔力が、目的を持って奪われたのだ



「…奴らを潰す。まずは、布教所イスルタブ支部からだ」


「分かった」


俺は、チャンさんに頷く



「話、終わった? そろそろ行かなあかんよ」


空気を全く読まない声

アテナだ


「分かってる。連絡が行く前に強襲する」


「俺は、拉致ってきた野郎の尋問と処理をしておく」


「チャンさん、よろしくね」


アテナが言い、入口へと向かう


拉致って来た野郎とは、俺が倉庫で流星錘をぶち込んだ男

チャンさんを拉致り、アテナに拉致り返された



「ヒャーン!」


リィが闇夜でくるくるしている


「その式神、優秀やなぁ。ラーズが拉致られた車を、ずっと上空から追いかけてくれたんよ」


「そうか。ありがとな、リィ」


「ヒャン!」


頭を撫でてやると、リィが嬉しそうにすり寄ってくる



コインパーキングに車を停め、俺とアテナは車を降りる


目の前には、神らしきものの教団の布教所

その周囲には高い壁がそびえている



「…アテナ、二手に別れよう。侵入できそうな場所があるか確認だ」


「ずるいなぁ、一人でやろうとしてるやろ」


「…さっさと行けって」



言いながら、俺はヒノキの棒を取り出す

今日のは、杖よりも少し長いものだ


一人の男が歩いてくる

見回りだろうが、殺気が漏れている



「こんなところで何をしている」


「…物騒なものを持ってるな」


俺は、男が手に持つ獲物に目をやる

細身の剣、サーベルだ


馬上で使いやすいように改良された剣

ナックルガードが付いており、白兵戦にも向く



「答えろ」


「…人殺しが好きそうな目だ。気持ちが悪い」


「…」


男がサーベルを抜く


スイッチが入った

俺を殺すと決めたようだ



「武芸者か」


「ほぉ、知ってるのか」


「何度かやり合ったからな」


「俺を、そこらの武芸者と一緒にするなよ」

男が嬉しそうな目になる



武芸者


自分の武芸を極める事のみに執着する者

人を殺傷することに躊躇が無い、試し切り程度にしか思わない、頭のネジを数本外した者

その分、腕は良く、単純な武器術なら騎士の上を行く


俺は変異体の強化兵

その変異体を作り出す施設で何度もやり合った


同じ強化兵候補が何人も殺された

技の性質上、こういう殺し屋まがいの仕事に就くことが多い



「…今なら、お前らの気持ちが少しわかる」


「何?」


「自分の腕を試したい、その機会を狙い続ける気持ちだ」


「そんな棒っきれで何を言ってやがる」



サーベルを構える

細身の剣先が、先端から三分の一だけ両刃になっている


切ることも突くこともできるタイプ

実戦的な、白兵戦用の構造だ



ガッ!



ヒノキの棒の突きを細いサーベルでガード

いなされる



ヒュン!



半歩下がって斬撃を躱す

上段からのヒノキの棒を振り下ろし



ガッ!


「…!」



だが、その直前にサーベル野郎が踏み込み

俺は、ヒノキの棒でガードさせられる


武芸者の武器術、やっぱり完成度が高い

騎士…、特に、エドガーみたいな闘氣(オーラ)のパワーと防御力に頼り切った脳筋タイプとは全然違う


駆け引きがあり、速さがあり、鋭さがある



つばぜり合いの状態


力を拮抗させる


これは、押したり押されたりを探り、どちらが先に攻撃に出られるかを探っているのだ



ガッ!


ギンッ!


「ちっ…!」

「…!」



お互いに武器を振るおうとするが、動けない

結局、攻撃には移れずにつばぜり合いのに戻される



スッパン!


「なっ…!」



サーベル野郎が体勢を崩す

俺が前足を払ってやったのだ



ドッ…!


「がはっ…!!」



その瞬間に、前足を踏み込む

肘をつき込む胸への打撃



俺は、騎士団に入って本格的に武器術を始めた

ドルグネル流の剣術と槍術、そして、その二つの技術を応用できる杖術だ


そして、分かったこと


お互いに武器を持った状態では、いつか必ず、お互いに武器が振れないほど接近する状態になる

武器を当てられないために、つかみ合いの状態になるのだ


その時に生きる技術

それは、古流と言われる拳法などの技術だ


ボクシングと拳法で、パンチの勝負をする

当然、ボクシングが勝つ

なぜなら、ボクシングはパンチに特化しているから


拳法の手技には、掴んだり、肘を入れたり、肩や体当たりなどがある

これらの技術は、ボクシングでは使えないし生きない

フックやストレート、アッパーなどを使ったコンビネーションの方が早くて威力があり当てやすいから


では、古流のボクシングに行かせない技は何のためにあるのか

それは、武器を持った状態のつかみ合いだ


相手の一撃必殺を封じながら、自分の必殺を実現する

武器術での掴み合いを制する技術が拳法の術理だ



ゴギャッッ!


「………」



サーベル野郎の動きが止まった瞬間、ヒノキの棒を横薙ぎ

側頭部へのフルスイングで、激しく倒れた



「終わった?」


「…」


戻って来たアテナに、俺は頷く


「あっち、入れそうな所あったで」


「分かった」



ドスッ


「…おい」



アテナが、持っていた薙刀の石突でサーベル野郎の鳩尾を突く

尖った石突が腹に突き刺さる


「まさか、生かしとくつもりやった?」


「…」


「しっかり処理しとかんと、後で足を救われるで」


「情報が取れるかもしれな…」


「雇われの武芸者が知ってることなんてあるわけ無いやろ。何を言ってるん?」


「…隠すぞ」


リィに周囲の見張りを頼み、サーベル野郎の死体を雑居ビルの隙間に移動させる

そして、落ちていた新聞紙やブルーシートを被せて発見を遅らせる


血の跡はアテナの水属性魔法で処理

便利だ



「さ、こっちや」


アテナが見つけたという、侵入できそうな場所へと向かう


「排気口か」


「そや。このダクトを進んで行けば、どこかの空調エリアに入れると思うんよ」


「…結構長いな」


狭いダクトが、三階まで続いていた



武芸者とは、頭のネジが外れた者たちの総称です

武芸に執着し、平和な世において腕を磨く機会を狙い続け、闇社会で腕を振るい、果たし合いを繰り返します

そういう殺し合いが好きな人種は、常に一定数存在します

闘氣(オーラ)は使えないため、騎士の身分は持っていません

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