一章八話 クシュナ1
用語説明w
流星錘
紐の先に重りである錘が付いた武器。投げつけたり振り回すことで遠距離武器が可能
アテナ
黒髪ノーマンの女性。薙刀を使う騎士であり、閉じているような糸目が特徴。セフィリア個人に忠誠を誓った隠密騎士。Bランクだが、格上のB+ランクを倒し切る腕を持つ薙刀使い。そして、シリアルキラー気質
クシュナ イスルタブ市
「ラーズ、ようこそー」
「アテナ、よろしく」
クシュナは龍神皇国の南方
海に面し、油田やガスなどの産出国でありながら、龍神皇国へと続く広大な立ち入り制限地区を持つ
龍神皇国の前身、龍神皇帝国という大国から約百年前に独立した国
龍神皇国との繋がりは深く、直行便が出ているため観光客も多い
アテナは黒髪のノーマン、糸目の女性騎士
セフィ姉と共にドラゴンを倒していた、薙刀使いの凄腕だ
「それじゃあ、さっそく案内するなぁ」
空港を出ると、魔法のじゅうたんタクシーを拾う
空を一っ飛び、郊外の町で降りる
そして、古いビルのアパートに入って行く
「ここは?」
「うちとラーズ、それと情報屋のチャンさんの三人が使う拠点や。好きに使って」
中には情報端末と折り畳みベッド、キッチンには冷蔵庫やレンジなどが置かれている
アテナに促されて、俺は椅子に座る
「はい、紅茶」
「ありがとう」
アテナも席につく
「それじゃあ、隠密騎士としてのミッションを紹介するんよ。ちゃんと覚えてな」
そう言って、アテナが情報端末のモニターを見せる
「うちらのミッションは、ウロボロスの欠片を発見、手に入れること」
「…」
俺は頷く
そこまでは理解している
「そして、うちらが急にクシュナに飛んだ理由、なんやと思う?」
アテナが糸目で見てくる
寝てんじゃないかと思うくらい、目が細い
「いや、分からないって。そもそも、ウロボロスが何か分からないんだから」
「全然ダメやん、不安やわぁ…」
「さっさと教えろ。早く終わらせて帰りたいんだから」
こっちは、まだ見習いの騎士
変なミッションやってる場合じゃねーんだよ
「せっかちやな」
アテナがウロボロスについての報告書を表示する
ウロボロス
己の尾を噛んで環となった蛇、若しくは東洋龍を図案化した古代の象徴図
錬金術や宗教などにも登場する図であり、循環性、永続性、無限性、完全性など意味する
「…象徴?」
セフィ姉は、過去にウロボロスによって町が消えたとか言っていた
ただのシンボルに、どうして隠密騎士を使う必要があるんだ?
「これはウロボロスの一般的な意味。本命はこっちなんよ」
アテナが別の資料を見せる
いや、いっぺんに見せろや
ウロボロス
何らかの原因により、超再生能力を持ったモンスターの総称
過去に幾度となく出現し、場合によっては魔大戦並みの被害が出ている
「…」
ちなみに、魔大戦とは魔王を代表する人類の敵対勢力との戦争
一番大きなものは、四千年前の終末戦争アポカリプスであり、一番新しいものは四百年前に現代の龍神皇国で勃発した始源戦争
始源戦争では、あるダンジョンから発生した異世界の魔王と戦争になり、その後、荒廃した地域で国々が資源を巡って争う戦乱の時代へと突入
最終的には、魔王を倒した勇者を擁立した国が覇者となり、龍神皇国やクシュナの前身である龍神皇帝国を打ち立てた
「このウロボロスっていう化け物が出たってことか? そんな魔王クラスの相手を、俺達だけで相手になんて…」
「もー、ちゃんとセフィリア様の話を聞かんと。私らが探すのはウロボロスの欠片やで」
アテナが、次の資料を表示する
「アテナ、一気に読みたいから資料を全部表示してくれないか?」
「もー、せっかちやわぁ」
「え、めんどくさいんだけど 」
「ちっ…」
「舌打ち!? 感じ悪っ!」
ウロボロスの欠片
何らかの原因により、ウロボロスと呼称されるほどの再生能力を持った存在の欠片
ただの体組織ではなく、所有者に絶大な力を与えると言われている
過去の、ウロボロスに関する事件のほとんどは、この欠片を不用意に使った所持者が変質、暴走して大惨事になっている
「…ドーピングみたいなものってことか?」
「そんな感じ。このウロボロス本体は、クシュナの北部、龍神皇国に跨る立入り制限地区、ナバテア密林に潜んでたんやって。だから、そっちは触らなくてオッケー」
「出てこなければ問題なしってことか」
「ウロボロスとなった元のモンスターが何かは分からんけど、基本的に人里に近づくことはないと思うから」
モンスターは、大気中から魔素を取り入れて代謝に使っている
よって、魔素濃度の高い立ち入り制限地区から出て来るメリットはないのだ
魔素濃度の高い場所はモンスター
それ以外は人類や動物
ペアの二つの惑星上では、住み分けができているのだ
「それで、そのウロボロスの欠片ってのはどこに?」
「発見したクシュナ軍が、調査を行うために秘密裏に軍の施設に搬入したところ…」
「したところ?」
「正体不明の一人に襲撃されて強奪された。その後は、行方不明なんやって」
「軍施設を襲撃って、マジかよ」
「それで、行方を捜してたんやけど、情報が集まり始めたから調査しようってことになったんよ」
「ふーん…。それじゃあ、クシュナ国内で、その欠片を奪った野郎を探せばいいってことだ」
「正解。ただ…」
アテナが俺を見る
「何か問題が?」
「そうなんよ。まず一つ目が…」
「問題が一つじゃないのかよ」
「うん。その強奪者は、たった一人で軍の施設を襲った。闘氣も確認されたからBランク以上は確定やって。しかも、腕は立つ。そんなのが欠片を使ったら…」
「めちゃくちゃ強くなる、と」
「正解。そして、もう一つが、ウロボロスの欠片を狙ってるのはうちらだけじゃないってこと」
「…他に誰が狙ってるんだ?」
「まずは、当然クシュナ軍。クシュナの騎士も出て来てる」
「なるほど」
「そして、次はウロボロスの欠片を狙っている組織。実際、いくつかは動き出してる」
「ふーん…、そんな危険なもの、そこらの組織じゃ扱えなくないか?」
「錬金術の裏ギルドとか、そっち系の知識がある企業や商人。…そして、神らしきものの教団」
「…」
神らしきものの教団…
まさか、クシュナで名前を聞くとはな
「暴走はダメやからね? 目的は、欠片の入手」
「分かってる」
「それと、隣国のカルノデアもちょっかいをかけて来るかも」
「カルノデア…」
ブブブブ…
話の途中で、アテナのPITが震える
「…話は終わりやな」
アテナが立ち上がる
「どうした?」
「情報屋のチャンさんからメッセージ。突然、集団に襲われて拉致られちゃったって」
「え?」
俺とアテナは、すぐに外へ出た
・・・・・・
「…ここか」
「相手は素人さんやな。PITも取り上げんと、GPS情報でばっちりやわ」
海岸沿いの倉庫
車が三台停まっている
忍び寄ると、倉庫の中では談笑中だ
「楽な仕事だぜ」
「おっさん一人を拉致るだけだからな」
「しばらく遊べるぜ。約束の時間まで、あと一時間ってとこか」
おしゃべりな野郎共だ
「…どうする?」
俺はアテナを見る
「ラーズ、制圧してみて。検知が怖いから闘氣は禁止、それと銃もや」
「銃もかよ」
「迎えが来そうやろ? 一緒に捕まえよ。窓ガラスとか割れてたら警戒されてまう」
「…」
それって、あいつらにも発砲させないってことじゃねーか…
俺は、腰に取り付けた機器に巻物と呼ばれる呪文紙を取り付ける
そして、機器を起動
これはモバイル型魔法発動装置
通称モ魔という
範囲魔法(小)が封印された使い切りの呪文紙を、バッテリーの電力を使って発動する便利マシンだ
ブオォォォー――――ッ!
「うおぉぉっ!?」
「なっ…、竜巻…!」
範囲魔法の利点は、座標を設定すれば障害物の向こう側にも発動できる
こうやって、外から室内に攻撃ができるのだ
中から焦った声
俺は、ドアを開けて中へ
「…っ!!」
一人と目が合った
ドシュッ…
突っ込んでタックル
倒して、ナイフで胸を刺す
中には五人、一人は仕留めた
他に、縛られた男一人
全員が、部屋の中で暴れる竜巻に気を取られている
ゴッ…!
振り向いた男に、流星錘を投げつける
鉄の塊が顔面にめり込む
その前の、何も気が付かずに立っている男の手には酒瓶
のんきな野郎だ
ゴキッ…!
背後から、顎を掴んで首を捻じり折る
持っていた酒瓶を、別の男の頭に叩きつける
ゴッ…!
「ぎゃっ…」
堪らずに、男がうずくまるが仕留め切れていない
ゴッ
ガッ
ガシャッ…
三回、酒瓶を叩きつけると瓶が割れた
「なっ…、何だテメーは!?」
侵入から三十秒ほどだろうか
四人を仕留め、あと一人
ようやく俺の存在に気が付き、殴りかかって来る最後の男
ドシュッ…
「…っ!!」
拳を躱しながら、目の前の男の首を斬り裂く
武器は割れた瓶だ
パチパチ…
「鮮やか、なかなかやん」
振り向くと、アテナがドアの所に立っていた
チャンさん 一章二話 夜のお仕事
チャンさんは優秀な情報屋ですw
クシュナは地球でいう中東的なイメージの国です




