一章七話 密命
用語説明w
キリエ
真紅の髪と豊満な肉体を持つ竜人女性、龍神皇国の序列一位の貴族の当主。ピンクという娘を持ち、ラーズに目をかけている。
エマ
ラーズと同じ、壊滅した元1991小隊の医療担当隊員。医師免許を持ち、回復魔法も使える。龍神皇国騎士団で医師として働いている
龍神皇国 中央区
騎士団本部
「さすがねー、ラーズ君」
「何とかなりましたよ」
俺は、キリエさんに結果を報告する
「元騎士の確保という高難易度ミッション。しっかりと結果を出してくれたわ、合格よ」
セフィ姉が微笑む
「その元騎士も強化兵だったんですって?」
キリエさんが尋ねる
「はい、薬物と手術で肉体を強化したタイプでした。召喚獣を使役する強化兵の闘氣使い、強かったですよ」
「見習いとはいえ、あの召喚士は騎士二人を簡単にやっつけちゃったもんね」
ミィが、後ろに立っていたアフリイェに言う
「面目ねーっす…。まさか、ラーズがあそこまで強いとは…」
「ラーズ君は、強化兵の最高峰だもの。ここに至るまでに、どれだけ多くの犠牲が出たことか」
「キリエさん」
セフィ姉がキリエさんを諫める
俺の経歴は秘匿事項だっていってんのに…
「エマ、ラーズの状態はどう?」
セフィ姉がエマを見る
「健康状態と…、ナノマシンシステムは問題ありません…」
エマが答える
エマは、俺が強化兵となる前から俺の変異体因子に関わって来た
強化兵には多くの種類がある
薬物によるドーピング、憑依、細胞移植や心霊手術、体の一部を機械と置き換えるサイバネ手術など
それらの中で、遺伝子工学によって完成された人体強化が変異体であり、強化兵の中でも最高峰と言われるものの一つだ
他にも、霊体を神格化する仙人という強化術があり、これが変異体と双璧を成す
しかし、その他の強化術も通常の人体とは比較にならない強さを持つ
こういう強化兵が闘氣を持てば、結果はあの召喚士の通り
通常の騎士を凌駕する性能を持つ
「ラーズに、一つ…。進化した点が…」
「あら、何かできるようになったの?」
キリエさんが喰いつく
「はい…、それは力の消失です…」
「消失?」
キリエさんが怪訝な顔をする
「はい…。ラーズは通常時…、変異体、ナノマシン群の特徴を全て隠すことができ…、筋力も通常の人体と同等にすることが…」
「それが何なの? 強くなるならともかく、弱くなることに意味なんてないじゃない」
「最高の強化兵とは…、必要な時だけ…力を出すこと…。余計なエネルギーを使わない…出力を切り替えることでの省エネ能力…」
「なるほど。ドーピングの元騎士は、あっという間にエネルギーを使い果たす。その反対がラーズ君ってことね」
「はい…。ラーズは、より安定した体調で生活でき…、戦闘の時だけ変身に近い能力で戦闘力を上げることが…」
「さすがラーズ君。後は、ピンクを食べた成果を出してくれるだけね」
キリエさんが俺の腕を取る
大きな胸で挟んでくるのやめて…目が離せなくなっちゃう…
「そういや、何でアフリイェがここにいるんだ?」
今回の元騎士の討伐は、隠密騎士の採用試験
完全秘匿のはずなのに
「全部見られちゃったし、ラーズが強化兵であることもバレちゃったからね」
ミィが言う
「無断外出の罰則も兼ねて、ちょっとお願いしようと思ったの」
「セフィ姉、何をさせるの? まだ見習い騎士なんだから…」
「簡単なことだから大丈夫よ。ラーズが、私の密命に従事するためのフォローを、ね」
「密命って…」
「ラーズ、明日からクシュナに飛んで。ウロボロスを探しなさい」
「明日!?」
「アフリイェは、他の見習い騎士にラーズの密命と、隠密騎士である事実を隠すのが任務。分かってるよね?」
ミィが目を細める
「もちろんですよ。だから穏便に…」
「バレたら、いろいろと大変なのよ。なんたって、団長の命令を邪魔することになっちゃうんだから」
「…ちょっと門限外に外出しただけで、とんでもないことに巻き込まれたな」
アフリイェが俺を横目で見る
「俺のせいみたいな目をするな」
「まったく、何で、こんなすげー奴が今まで無名だったんだ。強化兵で、やべー武器使ってて…」
「ラーズは有名だったよ。なんたって…」
「やめろって、ミィ」
俺は、余計なことを口走るミィを止める
「それじゃあ、俺は帰ります。キリエさん、セフィリア団長、朝一で経ちます」
「頑張ってね。移動手段や情報は送っておくわ」
「ラーズ君。期待してるわー」
龍神皇国の貴族の、ナンバーワンとツーからの命令
ウロボロス…、いったい、どんなものなんだろうか
「そう言えば、ラーズ。ヤマトが殴り合いをしたいって言ってたよ」
ミィが声をかける
「罰ゲームじゃねーか」
「ヤマトって、まさか虎王ヤマトか? クレハナの英雄!?」
アフリイェが驚く
「昔の馴染みなんだ」
「あ、ラーズ君」
「はい?」
キリエさんに呼び止められる
「このミッションが成功したら、すぐに昇進できるからね」
「約束するわ」
セフィ姉も頷いた
龍神皇国騎士団の騎士には階級がある
合計五つだ
一番下が騎士
正騎士とも呼ばれる
俺達は見習い騎士であり、正確にはまだ騎士ではない
一位 大十字騎士
二位 正義の騎士
三位 忠義の騎士
四位 慈愛の騎士
五位 正騎士
(見習い騎士)
昇進には、試験の突破と共に実績が必要だ
難しいミッションを成功させ、活躍するなどして組織から認められる必要がある
「ラーズには、正騎士になったらすぐに昇進してもらうつもりよ」
「いや、何で?」
「いろいろあるのよ」
「そうそう」
セフィ姉とキリエさんが頷く
「…」
いや、なんなの?
怖いんだけど!
「あ、クシュナでは紋章の使用を許可するわ。でも、気を付けて使いなさい」
「…分かったよ」
ウロボロスってのは、それだけ危険だってことか
俺は、ようやく団長室から脱出した
・・・・・・
マンションに帰ってくる
改めて、いいところに住んでるよなぁ、俺達夫婦って
「あ、おかえりー」
「ただいま」
フィーナがキッチンで料理をしていた
「腹減ったー」
「もうできるよ。ミィ姉、元気だった?」
昨日の夜は、ミィと元騎士の召喚士狩り
そのまま見習い騎士の訓練に参加し、最後に団長室での報告という名のいじめ
長い一日だった…
「元気だった。あいつも変わらないよな」
「昨日は何の集まりだったの?」
「見習い騎士の夜間訓練。ミィは冷やかしだ」
俺の隠密騎士ミッションは秘匿
フィーナに心配もかけたくないため、何も言わない
ミィとも話して、そう決めている
「はい、お待たせ」
「お、うまそう。餃子羽根つき!」
「上手にできたよ。はい、ビール」
「こんな幸せがあっていいのだろうか」
「大げさだよ」
フィーナと乾杯
「う、うめー!」
「いい喜び方。合格」
「上からすぎる。でも、現場に出てると温かい料理ってのは最高だ」
「…」
フィーナが、なぜか満足そうに見てくる
「何だよ、食べ辛いって」
「あ、ごめん」
フィーナは、自分も餃子を口に運ぶ
幸せそう食べるラーズ
あの、大崩壊直後の様子は鳴りを潜めている
ラーズは多くのものを失った
その影響は、心の中に未だに色濃く残る
だから、こういうラーズを見られるのが嬉しい
「フィーナの修行はどうなんだよ」
「え? …まだまだかな」
フィーナが頬杖をつく
「秘伝の忍術とか、神降し? って、凄いんじゃないのか?」
「全然だよ。私の忍術の雲遁は、吹き散らされると死んじゃう可能性があるし、神降しは契約対象がまだ見つからないし…」
フィーナは、クレハナという国の王族
内戦が終わり、対立していた三つの領のそれぞれの技能を習得中
クレハナの象徴となるべく修行中なのだ
そのうちの二つ、遁術と神降しの術を修行中らしいが、天才肌のフィーナをもってしても上手くいっていないのだとか
「明日から、またクレハナだったよな」
「うん。いちいち向こう行くのめんどくさいよ、ラーズにも会えないし」
「俺も明日から遠征だよ。頑張ろうぜ」
「うん…」
フィーナが、俺の横に寄り添って来る
そして、俺の手を太ももで挟む
「…」
「…」
俺とフィーナは、餃子の油がテカる唇を重ねる
そして、そのまま風呂場へと向かったのだった
ラーズは変異体と呼ばれる強化兵です
更に、ナノマシン集積統合システムを導入しています
隠していますが、実は常人を超えた能力や体力を持っているのです(それでも闘氣持ちの方が強いw)
フィーナに関しても、ただの嫁さんではなく高位の騎士
修行に苦戦していますが、なかなかの高スペック戦闘員だったりします
そこら辺の設定は、徐々に出していきますのでもう少しお待ちくださいw
 




