四章六話 操縦訓練
用語説明w
MEB
多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
プリヤ
クサナギ流レイコ霊障警備の社員、魔族の女性で営業、経理、交渉(恫喝)担当。スーツが似合うキャリアウーマンで実質の経営者(黒幕)
ピッキ
クサナギ流レイコ霊障警備の社員、ノーマンの男性でシステム管理と運転、操縦担当。ゲーム感覚で情報端末や車、MEBを動かす。風貌は古のオタク、運転中以外はござる口調の人見知り
マーリンに影響され、エマを襲った騎士バダック
あいつに斬られ、入院していたアフリイェが無事に退院した
「エマさん…。俺はやるぜ、ラーズ」
戻ってくるなり、アフリイェが宣言
「まずは体力を戻せよ」
「そうだなぁ。それよりも、ラーズ」
「ん?」
「エドガーはどうしたんだ」
アフリイェが周囲を見渡す
「知らないな。連絡してみろよ」
「病院からメッセージ送っても返ってこないんだ。エマさんのこと,ショックだろうから心配でよ」
「…」
「結局、入院中、誰も見舞いに来てくれないし…、俺なんかよ…」
「騎士がメソってんじゃねーよ。生命があっただけいいじゃねーか」
「そりゃそうだな。ラーズ、エドガーの所に行こうぜ」
アフリイェはケロッと話を戻す
一般兵にとって、怪我は自分のせい
一人で医療カプセルに入って、さっさと復帰するのが当たり前なのだ
「おう、エドガー」
エドガーは、騎士専用のロッカーにいた
騎士の待遇はいい
装備品も多数あるので、大きな棚やロッカーが与えられている
そこに置かれたソファーに座っていた
広いため、仕事終わりや訓練の合間にくつろぐ
騎士のロッカーでよく見る光景だ
「エドガー。…大丈夫か?」
アフリイェが声を掛ける
エドガーの目の下には、濃い隈が残っている
「アフリイェ、退院したのか」
「なんとかな」
「…」
エドガーが俯く
「おい…」
「放っておいてくれ」
「…」
エドガーが背中を向ける
「ふぅ…、行こうぜ、ラーズ。一人にした方がよさそうだ」
アフリイェがやれやれと首を振る
「俺は、元から用なんか無い」
「お前ってやつは…」
「別に顔も見たくないから、必要な事だけ言っとくか」
「…?」
エドガーが振り向く
「お前には貧欲さが足りない」
「な、何だと!?」
「ぐちゃぐちゃ考えてないで、頭と身体を動かせ。実力をつけろ」
「おい、ラーズ!」
アフリイェが止めに入る
「…!」
エドガーが、殺すような目付きで睨んでくる
「外様の技能を知ってるか? なぜそれを学ばない。目先の戦闘技術だけでエマの仇は取れねーぞ」
「…!」
「せっかくアフリイェと組んでるんだ。出会いを無駄にするな」
言いながら、俺は思い出す
俺は、出会った人に救われた
たくさんのことを学んだ
エマ…、俺は何度、救われたんだろう
俺は、エドガーとアフリイェを一瞥して踵を返した
・・・・・・
クサナギ流レイコ霊障警備
俺が大学時代にバイトをしていた、ゴーストハンターを請け負う会社
俺がホバーブーツを学んだ会社でもある
その縁で、クサナギはミィと知り合い、ミィの会社であるトライデントと専属契約を結んだ
緊急の霊障案件を受けてもらっている
「そう言えば、龍神皇国に移転してから初めてです。事務所に来るの」
俺は、クサナギを訪問
何年ぶりだろうか
大学卒業間際
クサナギはやばい仕事を受けて夜逃げした
当時、シグノイアに事務所を構えていたのだが、龍神皇国へと逃げ出したのだ
そのためか、社名が当時はクサナギ霊障警備だったのに少し変わっている
「もっと来て、仕事手伝いなさい。バイト代も出すから」
「そ、そうですねぇ」
俺は、経理のプリヤさんの視線から目をそらす
今日の目的はゴーストハンターではない
社員さんの一人、ピッキさんだ
SEであり、ドライバー
マシンからコンピューターまで、無機物をとことん使いこなす
その分、コミュ力を一切持っていない
そういや、大学時代から社員さんのメンバーが変わってない
あんな危険な仕事をしてるのに、誰も死んでないって凄いよなぁ…
そんな不謹慎な考えを隠しながら、俺はピッキさんのMEBに近づく
「このペースマンでいいでござる?」
ピッキさんが、立たせたMEBのコックピットから降りてくる
普通車で牽引できる座面をオプションで持つ、ペースマン
小型で、普通車を使ってどこにでも持っていける利便性が売りだ
しかし、大型のエースマンなど、他のタイプに出力では敵わない
「はい。練習には小型の方がいいので」
俺は、MEBに乗り込む
今日は、MEBの練習のためにやって来た
ピッキさんに教わるのだ
ピンクに貸している、俺のMEBはエースマンのカスタム
大型の軍用でありサイズや出力が違う
そして、何より思念操縦に対応している
それなのに、通常の操縦方法を練習する理由は二つある
一つは、操縦免許の試験はレバーや物理ハンドルなどのマニュアル操作だから
免許を持ったら、どんなMEBも操縦できる
だからこそ、何の補助もない、一番めんどくさい操縦をさせるのだ
そして、二つ目はMEBの理解
こうすると、こう動く
それを頭に叩き込むことで、思念操縦のような補助機能増々の機体を動かす際も、知識として動作メカニズムをシミュレーションできる
ウィィィ…
ガシャン…
ウィィィ…
ガシャン…
ペースマンが、一歩ずつ進んでいく
ここらへんは、問題ない
進む時は、下半身のオートバランサーで勝手にバランスを取ってくれる
「このドラム缶を持ってみるでござるよー!」
「分かりましたー!」
俺は、大声で答える
ショベルカーを動かすよりもレバーが多い
なぜなら、MEBは人型マシン
腕が二本あるからだ
ゆっくりと腕を動かして、ドラム缶を触る
そこから掴む動作
腕を胴体に引きつけてから身体を上げる
この順番を間違えると、掴むものが重かった場合に前のめりに倒れることになる
「スムーズでござるな」
「軍で、少しだけ練習したんです」
シグノイア防衛軍時代、俺はMEBのパイロット志望だった
一般兵だった俺が、騎士のように凶暴なモンスターと戦う方法
それが、MEBという、パワーと装甲、それにサイズを手に入れることだった
そして、そんな人類の叡智であるMEBのメリットを知ったのは、クサナギにあった、このペースマンだ
MEBに乗れれば、騎士のように戦える
悪霊や化け物と殴り合うピッキさんのMEBを見て、俺はMEBパイロットを目指したのだ
「うむうむ。これなら、操縦免許の試験くらい一発でござる」
「それならいいんですけどね」
ピッキさんのように、自由自在にMEBを操るのにはまだまだ時間がかかるな…
「でも、急に何でMEBの操縦免許なんて取るでござる?」
「厄介なモンスターを仕留めなきゃいけないんですよ。ビアンカさんやホフマンさんが行ってくれたクシュナの案件です」
「あー…、そういや、しばらくいなかったでござる」
「同僚がいないのに、そんな感じですか?」
「拙者、メカニカルくないものはシャットアウトする主義でござる」
「ピッキさん、変わってませんね」
俺は、大学時代のバイトを懐かしく思い出す
あの頃は良かった
絶対に取り戻せないもの…、命を失っていなかったから
その危険は、どこにでもある
安全安心の社会など幻想、人は常に備えて覚悟を持つべきなのだ
後悔したって、遅いんだから
「でもでもでも、モンスターなら騎士のラーズが生身で行ったほうがいい気がするでござる」
「鋭いですね。相手が、厄介な黒い波みたいに広がるんです。その黒い靄が、生命エネルギーを吸い取りながら毒と呪いを付加してくるっていう…」
「なるほどなるほど。その靄に触れないために、密閉式のコックピットを使うMEBを使うでござるな」
「さすが、理解が早い。その通りなんです」
「それじゃあ、さっさと試験科目をやるでござる。次は、バック走と、クランクの通過と…」
俺は、クサナギに仕事が入らないうちに、ピッキさんにMEBの操縦を見てもらうのだった
騎士バダック 四章一話 大事件
ピンクのMEB 二章三十四話 MEB




