一章六話 強化兵
用語説明w
ミィ
魚人女性、ラーズの騎士学園の同期であり、龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
アフリイェ
ノーマンの男性、ラーズの入団同期の騎士。元軍人で、大人になってから闘氣オーラに目覚めた外様騎士。社会の狭間を歩いてきたため、達観している
エドガー
竜人男性で、ラーズの入団同期の騎士。騎士団でも期待されている、幼少期から闘氣を身に着けた本流騎士の新人
「グオォォッ!」
あからさまにパンプアップした召喚士の肉体
それが、闘氣を纏って殴りかかって来る
「うおっ…!?」
拳を受け止めながら後ろに跳ぶ
飛ばされた距離は、なんと二十メートル以上
とんでもないパワーだ
騎士の強さとは、闘氣の強化値
闘力の量を上げ、密度を上げる
闘氣の技量を上げることで、身体能力や防御力を引き上げるのだ
だが、実は他にも方法がある
それが、ベースの肉体の能力を上げる事
闘氣とは強化値
肉体の強さを、例えば三倍にする能力だ
この倍率は、闘氣の技量によって増えていく
だが、元の肉体の強度が、例えば二倍に上がったら
二かける三で六倍の能力となる
一番は筋肉トレーニングだが、それよりも爆発的に肉体の能力を引き上げる方法がある
それが、様々な人体強化術だ
「この野郎!」
突然、俺と召喚士の間に割り込んだ者
「ばっ、エドガー!」
アフリイェが焦って呼び止めるが、遅い
「召喚獣がいなければ、お前なんか!」
休んで回復したのか
エドガーが闘氣を全力で纏う
その体の周囲が強く光る
エドガーの闘氣は強い、それを証明する光だ
バッシャー!
突然、エドガーの前にそそり立つ水の壁
しかし、召喚士の拳が突き破る
ゴシャッ…
その速度に反応できず、エドガーは顔面に被弾
派手に吹き飛ばされた
「アフリイェ! 回復を!」
俺はエドガーを受け取め、回復薬をぶっかける
闘氣で防御していようと、闘氣での攻撃をまともに受ければダメージを受ける
強化兵の闘氣の攻撃をまともに受ければ、命に係わる
「いつも飛び出しやがって、このファック野郎!」
アフリイェがエドガーに回復薬をかける
俺は、治療を任せて召喚士へと突進
「ラーズ、武器は!?」
「素手で俺が負けるわけねーだろ!」
ミィに答え、召喚士の真ん前へ
奴が反応、拳を超速フルスイング
ボッ…
その拳を潜るダッキング
「おらぁっ!」
ゴシャッ!
突き上げるストレート
召喚士の頭が弾かれるように仰け反る
バチィッ!
足を弾く
内側腿への下段蹴り、インローだ
ぐらりと倒れ、地面に手を突く召喚士
俺は、すかさずナイフを首筋へ
ザシュッ……
ブシューーーーーーーー!
「…!」
首の横に刃が入り、血がとんでもない勢いで噴出
闘氣を使っていようが、闘氣の攻撃なら貫くことが可能だ
「…すげーな。簡単に闘氣持ちの強化兵を倒しちまうなんて」
アフリイェが声をかけて来る
「そのバカは?」
「無事だよ。波浪魔法の水壁で軽減したし、回復薬と回復の魔石も使った。この子、闘氣が強いね」
ミィが顔を上げる
さっきの水壁はミィの魔法だったのか
「…っ!?」
その時、違和感
後ろで気配がした
ブォォッ!
剛腕が唸る
召喚士が起き上がりやがった
首からの血が止まっている
「…なまってるな。止めを刺す前に気を抜くなんて」
「がぁぁっ!」
「そいつ、再生能力持ち! 傷が埋められてる!」
「薬物によるドーピングと、脳か内臓の強化手術による治癒力の向上ってとこか。長くは持たなそうだな」
体内の貯蔵カロリーを急速に消費するタイプ
更に、ドーピングでリミッターまで解除
爆発力はあるが、一時的な強化能力にしかならないだろう
「どうするの? しばらく暴れさせて、ガス欠を待つ?」
「バカ言うな、ミィ。暴れて俺たち以外を襲ったらどうする」
「け、けど、どうするんだよ。闘氣を使う化け物なんだぞ…!」
「アフリイェ、力任せを制するのが武術だぜ」
拳を振り上げて殴りかかる召喚士
更にパンプアップが進み、体格が膨れ上がって見える
ゴガッ!
躱しながら、カウンターで顔面を打ち抜く
一瞬、動きを止めたが、すぐに召喚士が俺を睨みつける
タフな野郎だな
「ラーズ、向こうから車!」
ミィが言う通り、遠くにヘッドライトが見える
それに、暴走気味の召喚士が反応した
「…」
一般人が襲われる可能性がある
それに、見られるのもまずい
仕方がない…
本気を出す
ゴギャッ!
「グォッ!?」
ストレートを叩き込み奴の真横へ
腰を落として正拳突きの三連発
側面から肋骨を砕く
ザシュッ!
召喚士が腕を振るい、鋭い爪に肌を切られる
ドッ…!
ジャンピングハイで、顎を撃ち抜く
着地に合わせ、勢いを乗せながら回転
後ろ回し蹴りで鳩尾を突く
「ゲハッ………!!」
よし、上体が落ちた
俺は召喚士の腕を掴む
パシッ…
ドゴォッッ!
手首を極め、右側頭部側に落とす小手返し
闘氣の防御力で関節は壊せないが、身体が浮いて地面にダイブ
そのまま、またがり、腕を取りながら拳を振り下ろす
パウンドだ
ゴッ…
ガッ…
バキッ…
ゴシャッ…
グチャッ…
ドッ…
「ラーズ、終わりよ!」
「…」
ミィの声で、召喚士を見下ろす
いつの間にか、白目をむいている
身体がしぼんでいき、闘氣が消失
召喚士の意識が飛んだようだ
俺は、すぐに歩道の端に召喚士を引きずり、向かって来た車から姿を隠す
「ラーズ、その体…」
「…」
アフリイェに言われ、俺は自分の身体のスイッチを切ることを忘れていたことに気が付く
召喚士ほどではないが、筋肉が隆起
更に、肌が灰色っぽく染まっている
「アフリイェだっけ? 内緒にしておいてね」
ミィが言う
「どうなってんだよ。傷まで治ってるし…」
召喚士に爪で抉られた傷は、すでに血が止まっている
闘氣で、怪我の治りは多少早くなる
だが、すぐに傷が塞がるほどではない
この治癒力は、俺の特性だ
「…強化兵は、その召喚士だけじゃないってことだ」
「…」
「ラーズは騎士団長のお気に入り。秘匿事項ってことを理解してよね?」
ミィが念押し
少しだけ脅しをかけながら
「分かってますよ。助けられましたしね」
「それじゃあ、後処理をしましょ。アフリイェは騎士団に通報してロングイの回収。私はラーズの泥仕合の結果を報告しに行くわ」
「…それじゃあ、俺は帰って寝る」
「アホか。その見習いの子を医務室に連れて行きなさいよ。エマに連絡しといたから」
「…」
再生能力持ちとの殴り合いの後に、どうして休めないんだ
このアホのせいだ…
俺はため息を突きながら、エドガーを抱えて騎士団本部へと向かった
・・・・・・
騎士団本部 医務室
「もう大丈夫…、しばらく入院…」
白衣を着た、ノーマンの黒髪の女性医師が呟くように言う
「ありがとう、エマ。ドーピング強化した元騎士の闘氣持ちにぶん殴られたんだ、そいつ。大丈夫か?」
「頭蓋骨にヒビが入ってた…、危険…」
「闘氣の防御力を過信する、騎士の良くない癖だよな」
エマは医師
俺が一般兵の頃からの古い付き合いで、今はなくなってしまった部隊に所属していた
「ラーズ、ナノマシンシステムと変異体の状態を見せて…」
「分かった」
体内のスイッチを入れると、俺の身体が明らかに変わる
その状態を、エマが診てくれる
「何か違和感は…」
「特に無いよ、大丈夫」
「分かった…。それじゃあ、スイッチを切ってみて…」
「…」
俺の身体が萎む
一見、普通の人体と見分けが付かなくなった
「異常なさそう…、よかった…」
「ありがとう、エマ」
俺は、新しいシャツを着る
強化兵のスイッチを入れると、破れてしまうのがめんどくさい
「ラーズ、大崩壊は…」
「俺のせいじゃない、分かってる」
「無理しないで…、一人でやろうとしないで…」
「分かってるよ。俺は、セフィ姉を一人で戦わせないために騎士団に入っただけだ。カウンセリングは、もう大丈夫だ」
「…」
「エマ、俺達は戦友だ。エマと…、メイルがいる限り、1991小隊はなくなっていない。…もう大丈夫だよ」
「うん…」
大丈夫と念を押し、俺は医務室を出る
…俺達は、まだ過去の戦場にいる
ふとしたことで戻ってしまう
それでも、前に進むしかない
何度戻ったとしてもだ
月間でもベスト10位に作品が乗りましたー!
ブクマ、評価、ありがとうございます!
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実はラーズも強化兵…、その詳細は後ほど出てきます
設定に凝ると、アクション作品なのに、一話中に設定説明9割とかやべーことになりかねませんでしたw




