プロローグ
カ゚キキィィン…!
金属音が響く
ブォン!
ブン!
身の丈ほどもありそうな大剣を男が振り回す
しかも、時折片手で、だ
「うおぉぉぉ!」
「…」
相手は、暴風のごとき大剣をギリギリで避けている
「エドガー、凄いな。連撃が止まらないぜ」
「闘氣の強化値が高いのよね。スタミナもあるし」
ガッ…
連撃から体当たり、エドガーが相手の体勢を崩した
「あっ…!」
決まる
見守っていた者達が一様にそう思った
エドガーが大剣を振りかぶる
その体が纏う仄かな光、その輝きが増した
これは、身体を強化する闘氣の出力が上がったからだ
ドッ…!
「ぐぁっ…」
だが、しかし
大剣がエドガーの後方に落ちる
相手の持つロングソードが、エドガーの振り上げた持ち手を突いていたのだ
「…それまで!」
二人の戦いを見守っていた教官が試合を止める
「マジか…」
「あそこで小手とはな」
「外様のくせに…」
見守っていた者たちから、様々なつぶやきが漏れる
「ラーズ、見事だった。エドガー、手は大丈夫か?」
「…はい」
エドガーが悔しそうに顔を歪め、落とした大剣を拾う
その手に傷はない
闘氣による圧倒的な防御力を持つからだ
ここは、龍神皇国騎士団
惑星ウルにある大国、龍神皇国が誇る名門騎士団だ
騎士とは、闘氣という特殊技能を持つ戦闘員のこと
闘氣を使うことで物理作用を纏い、身体を守る事ができる
更に、闘氣を身体に満たすことで身体能力を強化する
そう、片手で大剣を振り回すことができるほどにだ
騎士の任務は、Bランク以上のモンスターの駆除
騎士の活躍によって、本来は一個大隊百人規模、戦車やヘリコプター、魔法の箒や魔法の絨毯、乗り込み型ロボットであるMEBを用いて大規模な討伐を行うモンスターを、数人で排除することができるようになったのだ
「今日の訓練を終わる! 後は自主練としろ」
教官は、そう言って去っていく
彼らは新人騎士
まだ、正式配属されていない見習いだ
「ラーズさん、相変わらず凄いですね」
「あのエドガーに勝っちゃうなんて」
「訓練で勝っだだけだ」
「俺達、外様騎士の希望ですよ」
「あいつら、いつも偉そうにしてくるし」
訓練生には様々な年齢の者がいる
ラーズは、その中間くらいの年齢だろうか
さっきのエドガーは、かなり若い
「おい、外様野郎。勝ったと思うんじゃねーぞ」
「あっ、エドガー!」
先ほどの大剣の騎士がやって来る
「訓練は終わりだ。用もないのに話しかけるな」
「あぁっ!? クソムカつく野郎だ! なんだったら、もう一回…」
「手じゃなく、喉を突いてたら終わってたぞ」
「な、何だと?」
「お前と何回やったって、こっちには得るものがない。失せな」
「こっ、この………!」
平然と言ってのけ、素振り用のヒノキの棒を担いで去っていくラーズ
それを、同じ外様騎士達が怖々と見ていた
彼らは本流の騎士ではないため、外様騎士と揶揄され見下されている
本流の騎士の方が実力が高いため、言い返せもしない
騎士とは実力主義だからだ
・・・・・・
「あー、クソ! クソ! 外様野郎が…!」
「おい、エドガー。飲み過ぎだ」
「…ちっ、お前らはムカつかねーのかよ!」
「そうは言っても、ラーズって強いからなぁ」
「確かに。闘氣はそこまでなのに、なぜかやられちゃうんだ」
「そうそう。魔法や特技に凄い技があるわけでもないのに」
「不思議だよなぁ…」
エドガーは、飲み仲間の見習い騎士達を睨みつける
のんきな態度に、また腹が立ってきた
「よし、そろそろ帰るか」
仲間達が腰を上げたため、エドガーも渋々立ち上がる
「おーい、勘定!」
呼びかけると、店長がやってきた
「エドガー様、ご来店ありがとうございます。いつもお世話になっていますので、本日のお代は結構ですよ」
「そうかぁ? いつも悪いな」
「我々国民のために戦ってもらうのですから、当然ですよ」
そう言って、店長は深く頭を下げてエドガー達を見送った
「…店長、いいんすか? 毎回タダで飲み食いさせて」
「こういうコネが大事なんだ。あいつらは騎士として偉くなる。その名前を使えば、でっかい仕事ができるってもんだぜ」
閉店後、店長がタバコに火をつけながら店員に答える
「そう言って、前にパクられたんじゃないんすか?」
「次は上手くやる。そのために、新人の騎士と関係を作ってんだ」
片付けを店員に任せ、店長は店を出る
彼らはギャングの構成員
薬をばら撒き、強盗、恐喝を繰り返している
そして、今度は新人騎士を丸め込んで甘い汁を吸おうとしているのだ
「…おい、邪魔だ」
ギャングの店長が歩く先に、フードを被り、一本の木の棒を杖のように持った男が佇んでいる
「最近、人身売買にまで手を出したらしいな」
「あ?」
「コカインの高騰で利益率が下がり、売人の手下はどんどんパクられる。ギャングも大変だ」
「何だ、テメー…」
ギャングが拳銃を抜くのと同時に、男は身を屈めながら棒を下手で振る
脛にめり込み、痛みで動きが止まった
直後に、拳銃の持ち手を蹴る
ジャストヒットし、拳銃が飛んだ
「ぐ…」
痛みで呻くギャング
だが、ギャングは歴戦の猛者
修羅場を潜り抜けた経験が、男の接近に反撃させた
「おらぁっ!」
拳を握り込んでのパンチ
グチョ…
「…!」
男がもう一度、杖を振り上げる
ヒノキの杖がギャングの股間にめり込んだ
何かが潰れ、ジョロロ…と漏れる音
蹲るギャングに、男が音もなく近づく
「…!」
その首に、ロープのようなものがかけられた
後頭部を踏みつけながら、締め上げる
完全に遮断された血流により、ギャングの意識は一瞬でブラックアウト
男は無言で、しばらく締め続ける
弛緩したギャングからは排泄物が漏れ、異臭が漂い始めた
「…」
フードを取った男はラーズ
何の感情も持たない目で、動かなくなったギャングを見下ろす
そして、担ぎ上げた
翌日
「おい、エドガー! 大変だ!」
「なんだ?」
朝、訓練棟では小さな騒ぎがあった
「あの店の店長が殺されたらしいぞ! 川に浮いてたって」
「な、何だって?」
エドガーは、呆気にとられる
「しかも、あの店がギャングの資金洗浄に使われていたとかで…、教官が呼んでる!」
「はぁっ!? 俺たちは飯食っただけだろ!」
そんなトラブルはありつつ…
訓練生達は、今日も正規の騎士を目指して訓練に励むのだった
物語を始めるドキドキ感…w
興味を持って頂きありがとうございます
どうぞ、よろしくお願いします