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第8話 勇者、姫を思い出す 後編

「た、ただいま」


 夜遅く、俺は帰宅した。


「お兄ちゃんどこ行ってたの? 買い物は?」


「あ、あぁ、すまん、忘れた」


「なんか顔真っ青だけど」


「実は……」


 セシリーに語る。

 姫マーリンが俺を捜していることを。

 ポコニャン(俺)の正体に迫っていることを。


「へ〜、いいじゃない。軍……騎士団? よくわかんないけどそこの教官になって、どんどん成り上がっちゃおう!!」


「ふざけるな!! 俺は働きたくない、絶対に働きたくないんだよ!! たまにクエストに行くくらいなら良いさ、楽だし何の責任も追わないから。でも教官だと? 絶対に嫌だ!!」


 てか教官って決まったわけじゃない。

 しかし何かしら指導する立場になりそうではある。


「働きたくない、社会の歯車になりたくない。期待されるのしんどい。一日中釣りをしたり本読んだりエッチなこと考えたりしてダラダラ生きたい!! 好きなときに起きて好きなときに寝たいんだぁぁ!!」


「……じゃあ、気にせず無視するの?」


「それもダメだ。躍起になって手段を選ばず見つけだそうとする恐れがある。実際にあの姫と再会するかもしれないんだ」


「だから、会っても頑なに断れば良いじゃん」


「いや……俺は、目の前で助けを求められたら断れない。そういう性格だから」


「おぉ〜、勇者の鑑。至高の精神」


「なにか、何か考えないと……」


「そういえば、お客さん来てるよ」


「客?」


 家の奥から誰かが出てきた。

 身長の高い、青い髪の男。


「よっ、ルース」


「コロン……」


 勇者パーティーの魔法使い、コロンだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はは〜ん、だいぶ面白いことになってんじゃん」


「なんにも面白くないよ」


「そういや、前に執事が来てお前のこと聞かれたな。もちろん、なんも話しちゃいないが」


「マジかよ。どうしてそこまで俺に会いたがってんだか」


 友人に遅めの晩ごはんを振る舞いつつ、今の俺が陥っている局面を語った。

 コロンは現在とある国で魔法使いを育てている。たまたまこっちに用事があり、会いに来たのだとか。


「あのときの姫様がねぇ。いっそ口説いて王族入りしちゃえば?」


「結婚しろってこと? 最悪。結婚は人生の墓場だ。絶対めんどくさい」


「おいおい、俺が結婚したときはあんなに祝ってくれたのに」


 ちなみに、こいつは同じパーティーメンバーのモンクだった女性と結婚した。

 冒険の後半、俺の目の前でもイチャイチャしていたなぁ。ウザかった。

 ちゃんと幸せを祈ってはいるけどね。


「死んだことにしちゃえば? 伝説の勇者ルース、若くして死す」


「お前が姫の立場だったら、信じるか? それ」


「……確かに。いくら4人で協力したとはいえ、あの魔王を倒してんだもんなぁ。ルースを殺せる魔物なんかもはや存在しないだろうし、崖から落ちようが腹に穴が開こうが生きてたやつだったからな、お前は」


 病死でも同じだ。

 俺には最高峰の魔法使い(コロン)と僧侶の仲間がいる。

 どんな病気だって治しちまえるんだ。頼らないのは不自然に思われる。


「てか、タイミングが悪すぎ。姫がポコニャンを捜し始めた直後にルース死亡って、あからさまに逃げようとしてるのバレバレだって」


「じゃあよ、ワープの魔法使うか? 俺なら世界各地にワープできる。いろんなとこの集会所でクエスト受けまくればさ、この街に住んでいる確証がなくなるんじゃないか?」


 最上級魔法、ワープ。

 マーキングした場所まで数秒で移動できる便利な魔法だ。

 コロンほどの魔法使いなら、世界中に複数のマーキングを付けるくらい、容易い。


 とはいえ、もちろんマーキングを外したりワープを妨げる魔法も存在するから、万能でもない。


「それだと逆に疑われる。短い感覚で世界各地の集会所に出現、十中八九ワープを使ったと推察される。そしてそのレベルのワープを使える魔法使いは極少数だ。その中でまず真っ先に名前が上がるのは……」


「俺か」


「そう、かつての勇者パーティーのコロン。つまり、ポコニャンがコロンと知り合いではないかと疑われてしまうんだ。ポコニャン=ルース説がより濃厚になる」


「なるほどねぇ。ごめんな、世界一の魔法使いで」


 しかし、ワープか。

 悪くない案だな。


「じゃあどうすんの?」


「そうだな……ワープを使い、ルースとしてクエストに参加する」


「は? え?」


「だが一回でいい。大々的に、お前と共に高難易度クエストを受けて、それを世界中に流布する」


「な、なんで? いや、あぁそうか」


「そういうこと」


 姫はポコニャンがルースの偽名だと思っている。

 そこを逆手に取る。

 あえてルースとして活動するのだ。


 ルースがキタノ街から遥かに遠い地に、名前を明かして出現した。

 もしルースがポコニャンとして生きているなら、ありえないことだ。

 仮にポコニャンだったとしたら、ポコニャンとしてクエスト受注をするはず。


 これによりポコニャン=ルース説の線が薄くなる。


 ポコニャンはただの腕の良い剣士。

 本物のルースはもっと遠くにいる。そう勘違いさせるのだ。


「とはいえ、隠居しているはずの勇者が表にでる理由が欲しいな」


「おぉ、そういえばムチャトオイ大陸のケワシ山脈にサイクロプスの群れが出没したらしいんだ。野良の冒険者には荷が重いクエストだし、勇者が出る理由になるんじゃないか?」


「うん、いいね」


「せっかくだ、あの頃のメンバーみんな揃えて、同窓会って意味合いも持たせよう。俺から声をかけておくよ」


「ダメだ。同窓会だからルースとして活動したんじゃないかって疑われる。あくまで、たまたまケワシ地方で俺と再会して、クエストを受けたってことにしてくれ」


「ふっ、相変わらず悪知恵の働くやつ」


「うるせ」


 念には念を入れてるだけだ。


「ま、準備ができたら言ってくれ。いつでもワープで飛んでやる」


「悪いな」


「いいよ。俺も、お前には平和にのんびり暮らしていてほしいんだ。いろんなことがあったからな」


 そんな言い方されると、否が応でも思い出してしまう。

 冒険の日々。旅の最中にあった、様々なできごと。


 だからこそ、俺は余生を穏やかに過ごしたいんだ。

 姫なんかに邪魔されてたまるかよ。


「ククク、そう簡単に俺を見つけられると思ったら大間違いだぜ、マーリン姫さんよ。勇者の俺を出し抜こうなんて100万年早いってことを身を持って教えてやるぜ」


 不安要素はあるし、完璧な作戦ではないが、ここまでやったら普通はポコニャンは無関係だって信じるだろう。

 でなきゃ、頭のおかしい妄執女だぜ。


 じーっと話を聞いていたセシリーが、ふふふと笑った。


「なんだ? セシリー」


「理由はどうあれ、久しぶりに真剣なお兄ちゃんが見れて嬉しいよ」


「そ、そう?」


「うん。とってもカッコいい!!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

勇者と姫、どっちも善人なんですけどね、どっちも悪人に見えてきた。

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