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第7話 勇者、姫を思い出す 前編

「お兄ちゃ〜ん、ちょっと買い物行ってきてくれる〜?」


「無理、眠い」


「ず〜っと家にいるのに?」


「この前のドラゴン退治の疲れがまだ残ってるの」


「三日前の疲れが?」


「俺も歳だな〜」


「……私も友達と約束があるから、お願いね」


 最初から拒否権なんかないんかい。

 セシリーが銅貨10枚を渡してきた。


「いつものトマトと小麦粉と卵ね」


「カブは?」


「最近また税金が高くなったからねぇ、節約しないと」


「へ〜」


 なにやってんだか王都にいる王族は。

 ソウジン王め、7年前に魔物の群れから助けたとき善良な王になるとか誓ったくせに。

 とはいえ、やむを得ない事情があるかもしれないから、これ以上責める気はないが。


「しゃあない、行ってくるか。魔王よりもセシリーの方が怖いからな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 街を歩く。

 なんだ? 妙に騒がしいな。

 みんな道端で話し合って、姫がどうだのと……。


 適当に近くにいた人間に聞いてみる。


「なんの騒ぎ?」


「あぁ、昨日王都からマーリン姫が来たんだ」


 マーリン姫。

 覚えのある名前だな。

 そうだ、魔王に捕まっていた姫だ。

 人質として幽閉されていて、俺が助けた。

 金髪の、綺麗な子だったな。


「その姫様がポコニャンを知ってるか? どこにいるか? って聞き込みまくったんだよ」


「…………は?」


「まぁ結局手がかりはなかったみたいで、昨日のうちに帰ったけどさ。今もみんなで話し合ってたんだ、そんなやつこの街にいたっけ? って」


「そ、そうなんだ」


 ポコニャンを、捜している?

 なんで? どうして?

 まさか勇者ルースがポコニャンだとバレた?


 待て、落ち着け、そう結論付けるのはまだ早い。


「理由は?」


「さぁ?」


 肝心なところを……。

 他の連中にも聞いたが、みんな理由は知らないそうだ。

 だが、いったい何故ポコニャン(俺)を捜す?


 ドラゴン退治が関係しているのだろうが。

 いや、十中八九そうに違いない。

 ちっ、派手に動きすぎたか。

 ドラゴン討伐の噂を聞き、現地に到着。そこでフォウから俺のことを教えてもらった?


 いや、あの子は約束は守るタイプのはずだが。


「集会所に行こう」


 あのドラゴン退治はギルトを通してクエスト化されている。

 ポコニャンを見つけ出したいなら、確実に集会所で情報を得ようとしたはずだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やっ、シャインちゃん」


「あら、ポコニャンさん」


 巨乳の受付嬢にササッと詰め寄る。


「いろいろ教えてもらいたい」


「ですよね」


「シャインちゃんが知ってること、姫が知ってること」


「こちらからは何も。クエスト履歴を調べられただけです」


「だよな、住所とか教えてたら、聞き込みなんてしないもんな」


 個人情報保護法を破ってはいないようだ。

 なら、一先ず安心だ。

 俺は今も、外出するときは不自然じゃない程度に顔を隠している。


 それに、俺は滅多に家からでないから、俺がポコニャンという名前であると知っているのはシャインちゃんや一部のギルド職員くらいだ。


「逆に、姫様がポコニャンさんを捜している理由も、伺っておりません」


「えー」


 別に犯罪を犯したわけじゃない。

 なら何故俺に会いたい。


 ドラゴンが倒された。凄腕の剣士が仲間にいた可能性が高い。

 調べてみたらポコニャンという名前だった。履歴を遡るに、この街が活動拠点の可能性が高い。


 そう思考したのだろうが。


「あぁそういえば、張り紙を渡されましたよ」


「張り紙?」


「あそこ」


 シャインちゃんが指差す方に、紙が貼られていた。



【ポコニャン氏へ

 貴殿の腕前を我がカカドワ国のために振るってほしい

 報酬の件も含めて、ぜひ一度お会いしたい

 姿を隠す事情も考慮し、他の者に君の正体を明かさないよう配慮する


 手紙にて返答を待つ


 カカドワ国第3王女 王国騎士団第一部隊隊長 マーリン・キルハ・カカドワ】



 腕を買いたい、か。

 やはりドラゴン退治からポコニャンに繋がったな。

 軍の教官にでもなってほしい、といったところか。


 ならポコニャンがルースだと気づいたわけではない?

 いやいや、そんな理由のために街中で聞き込みなんてするか?


 もっと別の理由があるんじゃないか?

 ならば、やはり……。


「くそっ、面倒な」





 大急ぎで馬車を借り、ニシノ村へ急ぐ。

 そして、


「フォウ!!」


「その声、ポコニャンさん」


 たまたま外に出ていたフォウを発見した。


「姫が会いに来ただろ。何を教えた?」


「え? い、いえ、なにも、ポコニャンさんにお願いされた通り……。あ、でも……」


「でも?」


「ポコニャンさんにドラゴンの倒し方を教わったこと、気づかれちゃって、坊主頭だったかどうか、尋ねられました」


「なっ……」


 決定的だ。

 坊主頭、俺の勇者時代の髪型。

 しかしなんで、ポコニャン=ルースだと……。


 なんとなくわかったぞ、フォウに倒し方を教えたからだ。

 俺は魔王討伐の冒険の途中、同じように魔物の倒し方を各地で教えてきた。

 仲間が出版した冒険の記録にも書かれている。


 そこから、推理しやがったのか。


 クソがっ!!


「あ、あの、ごめんなさい」


 フォウが申し訳無さそうに俯く。


「いや、フォウは何も悪くないよ。魔法の勉強、頑張って」


 いっそ無視するか。

 ダメだ、おそらく姫は俺を捜し続けるし、俺が妹のご機嫌取りでクエストを受けにくくなる。

 それに、わかる。俺の性格は俺が一番よく知っている。

 もし目の前で『助けてください』なんて頼まれたら、俺は断れない。


 ダラダラニート生活が、終わってしまうッッ!!





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

ようやくバトル開始ですね。

20話、いや30話くらいに収まるかなぁ。

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