第6話 姫騎士、手がかりを掴む 後編
駆ける。
誰よりも速く馬で駆ける。
キタノ街に到着し、やや小走りで集会所へ向かった。
も、もしかすると、この街に勇者様が住んでいるのかもしれない。
もしかすると、現在進行形で私の周囲にいるのかもしれない。
「ひ、ひひ」
堪えろ、笑いを堪えろ。
私は姫なのだ。
大衆の前で無様は晒せない。
「ヒヒヒヒヒヒヒ匕ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヤヒャハアアアアアアアア!!!!」
勇者様♡♡
ゆうしゃさま♡♡
わたしの愛しのゆうしゃさま♡♡
勇者様に抱かれたい♡♡
めちゃくちゃにしてほしい♡♡
逆にめちゃくちゃにするのも……ありッッ!!
「おい見ろ、マーリン様だ」
「マーリン様よ!!」
「何故ここに?」
すれ違う人々が私の名を呼ぶ。
目を輝かせて、憧憬の眼差しで。
「相変わらず美しい」
「洪水の復興ボランティア、参加してくださりありがとうございます!!」
「水路を増やしてくれたのは姫様の指示って聞きました。本当にありがとうございますっ!!」
「お花ばたけ、まもってくれて、ありがとう」
そ、そうだ、私は王族で唯一国民から慕われている姫なのだ。
魔王の手から無事に救出された奇跡の姫でもある。
笑うな笑うな。
威厳を損なうなッッ!!
「ヌヒヒヒヒッッ!!!!」
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集会所に到着した私は、私より若干胸が大きい受付嬢に、
「ニシノ村でのドラゴン退治、誰が参加していたのか知りたい!!」
と迫った。
突然の姫の来訪に受付嬢を含め、その場にいた全員が驚いているが、無視だ。
「え、えーと」
受付嬢がパラパラとクエスト履歴書をめくる。
ルース。きっと勇者ルースに違いないのだ。
さぁ言え、言ってくれ、ルースだと。
「フォウさんと、ポコニャンさんの2名です」
「え……」
ポコニャン?
な、なんだその可愛い名前は。
ルースじゃない?
私の、勘違いだった?
「ポコニャン?」
「はい、ポコニャンさんです」
そんな……。
てっきり、ルース様かと……。
ま、待て、落胆するのはまだ早い。
ルース様は隠居なされているとのこと。
ならば名前を隠してまったくの別人として生きている可能性が高い。
勇者ではなく、一人の一般人として余生を過ごすために。
もし私が同じ立場でもそうする。世界的に知れ渡っている名前のままでは、落ち着いた暮らしがしづらいからな。
つまり、偽名。
魔王撃破直後の混乱期に乗じて、戸籍を偽装しているのかもしれない。
もちろん、ギルドへの登録も。
ようやくセバスチャンや騎士団員が遅れてやってきた。
「そ、そのポコニャンというのは、どういう髪型をしている」
「あの〜」
「住所を教えてくれ!!」
「申し訳ありません。ギルドの個人情報保護法に触れるので、外見等含め、これ以上お伝えするわけには……」
セバスチャンが耳打ちしてきた。
「王族権限で聞き出しますか?」
「いや、それはダメだ。相手に犯罪容疑があるならまだしも、ただの一般人。個人的な駄々のために法を破っていては、忌々しい兄上や姉上のようになってしまう」
つまり、プライドの問題だ。
さすがの私にも、勇者様より大事な、姫としてのプライドがあるのだ。
ならばどうする。
確かめたい、ポコニャンの正体。
勇者ルースのはずなのだ。勇者ルースであってほしい。
私の未来の旦那様。
腐った世界を救ってくださる、救世主様。
「受付嬢、ここの履歴書は何年分保管してある」
「5年分は」
「確認したい。よろしいか?」
「クエスト履歴だけでしたら問題ありませんが、かなりの数がありますよ?」
「構わん」
「で、でしたら、職員の立ち会いの下であれば……」
「よし、みんな、私の私情に手を貸してくれるものだけ残ってくれ」
セバスチャンが首を傾げる。
「姫様、なにを……」
「過去5年分のクエストを確認し、ポコニャンの名を探しだす。最低でも3回、過去にこの集会所からクエストを受けていたのなら、まずこのキタノ街に住んでいると見て間違いない」
旅の最中に偶然キタノ街に立ち寄った、としたならば5年で3回は多いだろう。
「そ、そのあとは?」
「原始的な手段、聞き込みだ」
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※あとがき
一応このラブコメ、ヒロインはマーリンです。
ヒロインなのかな。ラスボスなのかも。
応援よろしくお願いしますっ。