第5話 姫騎士、手がかりを掴む 前編
※まえがき
姫騎士視点です。
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「姉上!!」
ノックもせずに姉上の自室に入る。
私の姉、ソルランが優雅に紅茶を飲んでいた。
宝石や装飾品、魔物の剥製が並べられた、悪趣味な部屋だ。
「ノックくらいしなさい。客人の前よ」
姉上と対面するように、小柄な人物が座っていた。
フードを深く被り、その顔はよく見えない。
だが、臭う。
これは……魔物の臭いだ。
「父上にさらなる重税をするよう願い出たと聞きました。何故ですか!!」
「魔物の中でも特に希少な魔物、グリフォン。その目玉がかなり高価なのよ。希少で高価なものって、欲しくなっちゃうのよねぇ」
「なっ!? そのためだけに!?」
「だったらなに?」
「くっ!! 姉上は腐っている!! それにその客人、何者なのですか!!」
「あなたには関係のないことよマーリン。大人しく姫騎士でもしてなさい。……まさか、今の王権に反抗なんてしないわよね?」
できるならしてやりたい。
しかし無理だ。
無駄に平民を煽って、死者を出すだけ。
何故なら王族含め、あらゆる貴族が腐敗しているから。
圧倒的な金と兵士の差に惨敗するだけだ。
なにより、国内情勢が不安定になれば、隣国に付け入る隙を与えてしまう。
「くそっ!!」
部屋を飛び出す。
やはり私は無力だ。
姫でありながら、なんたるザマだ。
確信がある。この国は近いうちに滅ぶという確信が。
下手をすれば来年にも……決して考えすぎではない。
なのに、私には何もできない。
もし、勇者ルースであれば、きっと良い案を思いつくはずなのに。
「ルース」
ふひひ、いかんいかん。
名前を呼んだだけでニヤニヤしてしまった。
私の愛しの勇者様。
彼の冒険は本になっており、私は毎晩熟読している。
そのなかでも特に好きなエピソードは、村を魔物から救うくだり。
ただ魔物を殺すのではなく、村人に魔物退治の方法を教えるのだ。
たとえ、時間がかかっても。
それこそ、真の救済。
勇者様は常に物事の芯を捉えている。
やはり早急に私の旦那様にして、国内でとことん成り上がらせてトップに君臨させなくては。
「マーリン様」
前方から執事がやってきた。
「どうした、セバスチャン」
「ニシノ村の森にてドラゴンが討伐されたと情報が入りました」
「ほう、ドラゴンが。ニシノ村……そんなところに出現したとは……。やはり魔物たちの動きが活発になっている」
「良い機会です。騎士団を引き連れ、遺体を処理するついでに、ドラゴンの観察をなされては?」
「うむ。魔王が死んでから、ロクにドラゴンを見たことがない兵も増えてきたからな」
「それに、みんな姫様を大変慕っております。そんな姫様とのささやかな遠征を楽しみにしているのです。日頃の労いを兼ねて、ぜひ」
「そうだな、最近はめっきり顔を出していなかった。王国騎士団第一部隊隊長でありながら」
私自身、気晴らしになるか。
「ところで、誰がドラゴンを倒したのだ? 相当な手だれであろうが」
「倒したのは地元の魔法使いの少女とのことで」
「ほほう。ぜひ会ってみたいな。しかし、ドラゴン退治なら王国軍に任せればよかったものを」
「依頼をするだけで税金がかかりますから。故にギルドが盛んなのです。ギルドは民営なので」
それでは、騎士たちの経験値がまったく蓄積されない。
こんなことでは、もし魔王軍が復活したらどうするつもりなのだ。
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王国騎士団、つまりは王国の軍隊である。
その騎士団から若手を30名ほど選出し、ニシノ村へ向かった。
村についてから噂の魔法使いフォウに会い、ドラゴンの遺体まで案内される。
「ほほう、ずいぶんと大きいな。エネルギーの暴発を利用して倒した。若く、目も効かんのに大したものだな、フォウよ」
「い、いえ……」
それにしてもこの死体、不自然だ。
両翼と脚一本が切断されている。
しかも見事に綺麗な断面。おそらく一太刀で斬ったはず。
かなりの剣士だ。
おそらく私以上の実力者。
「仲間がいたみたいだな」
「あ、はい。その人と二人で戦いました。キタノ街のギルドで出会ったんですけど……」
「何故、そいつが殺さなかった?」
「へ?」
「これほどの芸当ができるなら、ドラゴンを瞬殺することも可能だったはずだ。なのにトドメは君が刺した」
「えっと、その……。ごめんなさい、言えません。口を酸っぱくしてお願いされたんです、あまり自分のことは語るなって」
「ほう」
正体を隠したい、もしくは目立つのを嫌う者なのか。
だからフォウに殺させた?
結局、最後の一撃を与えた者が一番の功労者として扱われやすいからな。
「ふむ……」
と、騎士団の若手メンバーがドラゴンの遺体に感嘆の声を漏らした。
「おーすっげー、これがドラゴンかぁ。初めて見たぜ。……頭ないけど」
魔王が死んで5年。たった5年のようでされど5年。
当然世代も変わる。
私だって、5年前は見習い騎士だったから、実はドラゴンとの戦闘はほとんど経験がない。
待てよ?
「君、いくつだ?」
フォウが答える。
「え、13歳です」
「ずいぶん優秀な魔法使いだな」
「あ、ありがとうございます。独学なんですけど……」
「ドラゴンの倒し方も、独学か?」
「え……」
「まさか、その剣士の仲間から教わったんじゃないか? 君は若い。ドラゴンとの戦闘は初めてで、楽な倒し方を知らなかった。だからギルドに助けを求めた」
「…………」
「そして同行してくれた仲間から教わった。違うか?」
フォウが明らかに狼狽えている。
根が素直な子なのだろう、嘘やごまかしが下手なようだ。
私の心臓がドクドク高鳴る。
困っている人に、魔物の倒し方を教える。
勇者ルースのやり方だ。
それに圧倒的な剣術レベル。
勇者ルースならばあり得る。
「まさか、その仲間は坊主頭じゃなかったか? 黒髪の」
「す、すみません、私、音はわかりますけど……」
「あ、いや、こっちこそすまない。失礼なことを……そいつの名前は……」
「ごめんなさい、言えないです」
構わん。
「セバスチャン」
「はい」
「キタノ街のギルドに行くぞ」
「はい?」
「フォウはギルドでそいつと出会った。おそらくギルドを通して依頼したのだろう。ならば、履歴に名前があるはずだ。急ぐぞ」
「ドラゴンの処理は?」
「ええい、大急ぎで終わらせる!!」
もしかするともしかする。
私がずっと追い求めていた坊主頭の勇者様。
いや……勇者様♡♡
ゆうしゃさまの手がかり♡♡
ついに、ついについについにッッ!!!!
うひょおおおおおお!!!!
「んんんっ♡♡♡」
「姫様!?」
「す、すまん。興奮しすぎて絶頂しかけた。よし、さっそく取り掛かるぞ!!」
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※あとがき
楽な倒し方、といってもドラゴンがエネルギー弾を撃とうとしなければ不可能なんですけどね。
なので結局、ドラゴン退治にはかなりの腕前が必要です。
フォウちゃん、メインキャラに昇格させたいなあ。
させたいですね。
応援よろしくお願いします。