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第4話 勇者、痕跡を残す 後編

 ドラゴンの咆哮に合わせて2本の剣を振った。

 そしてーー。


「え……」


 フォウが呆けている。

 何が起きたのかわからないといった具合に。


「あれ? いま、え? ポコニャンさんが剣を振って、間合いにも入っていないはずなのに……」


 ドラゴンの両翼と脚が一本、切断されている。

 ドラゴンですら、己の身に起きた異変に動揺しているようだ。


「あの、ごめんなさい。耳だけじゃよくわかりませんでした。いったい、なにが……」


「安心しなよ。盲目じゃなくても見えやしない。それにしても凄いな、いくら魔法で強化したとはいえ、聴覚だけでそこまでわかるなんて」


「明らかに私の耳より凄いことが起きた気がするんですけど……」


「まぁ細かいことはいいじゃん。それよりフォウ、トドメは君が刺すんだ」


「え!? な、何故ですか?」


「運良くどうにかなりました、じゃ意味がない。大切なのは、また同じことが起きたときへの対策。つまり、ドラゴンの倒し方を知ること」


 勇者として冒険するなかで、俺自身が学んだことだ。

 魔物に襲われている人を助けても、また訪ねてみたら結局魔物に殺されていました、なんてケースがよくあったのだ。


 本当の意味で助けるというのは、生き抜く力を与えるということなのである。


「ファイアーボールは撃てる?」


「は、はい」


「充分だ」


 ドラゴンが口を開ける。

 膨大なエネルギーが溜まっていく。


「あいつがビームを発射する寸前にファイアーボールを頭にぶつけてみて。タイミングわかる?」


「は、はい!! もの凄い魔力の波を感じますので。…………いま!! ファイアーボール!!」


 火球が見事にドラゴンの頭部に直撃。

 ドラゴンがビックリして口を閉じると、自ら蓄積させたエネルギーが暴発し、頭が破裂した。


「きゃっ」


「これが魔法使いの最も楽なドラゴンの倒し方ね」


「わぁ……」


 ふぅ、これにてクエスト完了。

 報酬貰ってさっさと帰ろう。

 きっとセシリーもご機嫌になるだろうから、また半年はダラダラできるはず。


「あ、ありがとうございました!! ポコニャンさんのおかげで、ドラゴンを倒せました!!」


「つっても、倒したのは君ね。君の手柄」


「そんな!! ポコニャンさんのお手柄です。私なんている必要もないくらいで……」


「いーのいーの。ドラゴンを倒したのはフォウの力。俺は何にもしてない。それでいいの。じゃないと、今後俺がいないと不安になって、ドラゴンを倒せなくなる」


「ですが……」


「意外と強情だね。ぶっちゃけ、俺がここにいたこと自体、あんまり公にしたくない。黙っていてほしいんだ。そのぉ〜、照れ屋だからさ、俺」


「わ、わかりました。なら!! いつか一人で倒せるようになって、この嘘を本当にしてみせます!!」


 くくく、そうだ。それでいい。

 ドラゴン退治なんて目立つクエストに、俺がいた形跡は可能な限り残したくない。


 フォウが倒した、としておけば、ポコニャンはただの剣士でサポートしただけ、という評価に落ち着く。


 何故なら、本当に勇者ならば、フォウの力なんぞ借りずに倒せてしまえるくらいみんなわかっているからだ。


 ポコニャン=勇者ルースであると判明させないこと、それが俺のダラダラライフを守る最も重要なポイント。


 もし勇者であることがバレたら、面倒くさい依頼や誘いがバンバンくるかもしれないからな。


「じゃあフォウ、約束の報酬を貰っとこうか」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ただいまー」


 帰宅すると、セシリーが夕飯の準備をしていた。


「おかえり、お兄ちゃん」


「ほれ、久々に稼いできたぞ」


 銀貨が詰まった袋をテーブルに置く。


「20万ゼニーだ」


「え、ドラゴンを退治したのに?」


「これでも村の人たちが頑張って捻出してくれたんだ。文句は言えん」


「ふーん。んで、どうだった? 勇者っぽいことした感想は。もっと世界のために貢献したくなった?」


「ないね。本当にダルかった。当分は寝て過ごす」


「なーんだ。お兄ちゃんの勇者魂に火が付いたと思ったのに」


 しかしどうして、あんな森にドラゴンがいたのだろう。

 ドラゴンの生息地帯からだいぶ離れているはずなのだが。


 見たところオスだったし、縄張り争いか何かに負けて群れを追い出され、あそこに来るしかなかった、とか?


 とするとドラゴンの数が増えたことになるのだが……。


 まぁいいや、俺にはもう関係のないことだ。

 勇者ルースは再び表舞台から身を潜めるよ。


 絶対に成り上がらない。気ままなダラダラ生活のために。


 フォウには自分の手柄にするよう念を押しておいたし、俺について語るなともお願いしておいた。

 誰も気づきやしない。


 そもそも、今更勇者の力なんぞ求めているやつなんかいるわけないしな、あはは。





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※あとがき

次回は姫様視点です。

ぐい〜っと話が動く予定です。

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