第3話 勇者、痕跡を残す 前編
妹の機嫌を取るため、くっっっっそ久しぶりにギルドの集会所を訪れた。
半年ぶり? いや、一年か?
毎日ダラダラしてると、時間の感覚が狂うんだよなー。
さてと、パパっと稼いでやりますか。
バンダナを口元に巻き、受付に向かう。
一応、ちょっとくらいは変装しとかないとね。
勇者だってバレたらめんどくさいし。
受付嬢ちゃんに軽く手を振る。
おっぱいが大きく、むっちりとした太ももを持つ、おっぱいが大きい巨乳の女の子だ。
俺の顔よりデカいんじゃなかろうか。
「や、久しぶり、シャインちゃん」
「あらポコニャンさん。珍しいですね」
もちろん偽名である。
この街の住人になるに当たって、偽名で登録したのだ。
魔王討伐後の混乱期だったし、バレやしなかった。
「私がデートを断ったから、拗ねて来なくなったのかと思いました」
「あはは。でさ、なーんか手軽で楽チンで、そこそこ稼げるクエストある?」
「えーっと、ポコニャンさんは最低ランクのCランクでしたよね」
クエスト表が記載された冊子を、パラパラとめくる。
「うーん、森林でスライム討伐、とかどうでしょう」
悪くないな。
瞬間、俺の耳に鬱陶しい笑い声が届いた。
集会所の酒場スペースで、男たちが盛り上がっているようであった。
冒険者たちだろう。
国営の軍隊とは別の、民営ギルドでクエストを行う戦闘のアマチュアたち。
世界各地に存在している。
その酒場スペースの隅っこに、目に包帯を巻いた女の子がちょこんと座っていた。
白い髪の、薄幸そうな子。
杖を持っているけど、盲目なのかな。
男たちとは離れて座っているし、仲間ではなさそうだ。
「ねぇ、あの子は?」
「あぁ、ニシノ村から来た子ですね。馬車やら徒歩やらでなんとかここに辿り着いたみたい」
「なんで?」
「村の周囲に凶悪なドラゴンが出たとかで、一緒に討伐してくれる人を探しているらしいのです」
「一緒に討伐、ねぇ」
「おそらくAAランククラスのドラゴンですし、報酬も割に合わないので、誰もクエストを受注しないのですが」
「ふーん。ドラゴンか、めんどくさ」
可哀想だが知らんぷりだ。
そんなもん、王国軍に討伐してもらえ。
それか村を捨てるかだな。
「…………はぁ」
「ねぇ君、仲間を探してるんだって?」
「へ?」
盲目の少女が俺の声に反応した。
あーもう、こんなはずじゃなったのに。
目の前で困っている人を放っておくと、蕁麻疹が出ちまうんだよな。
モヤモヤするし。
勇者の悲しい│性だ。
「倒してやるよ、ドラゴン」
「いいのですか?」
「いいよ。君、名前は?」
「フォウ」
「ん。俺はルース……じゃなかった、ポコニャン」
フォウは立ち上がると、俺の方を向いて頭を下げた。
「よろしくお願いします!! わ、私も頑張ってサポートしますっ!!」
「サポートって、無理でしょ」
「魔法が使えるので、大丈夫です。目は見えませんが、魔法で視覚以外の感覚を鋭くすれば、周囲にあるものも把握できます」
なるほど、だから俺の位置がわかったのね。
はぁ、ニシノ村かぁ。地味に遠いなあ。
「ワープの魔法は使える?」
「い、いえ……」
てことは馬車移動か。
しょうがない、ちゃちゃっと終わらせて、さっさと帰ってダラダラしよう。
セシリーに泊まりがけになると伝えて、俺とフォウは馬車でニシノ村に向かった。
到着する頃には夜になっていて、とりあえずフォウの家に泊まることになった。
にしても、開放感のある村だ。
建築物はすべて木材。
地面もたいして舗装されていないし、放牧的。
典型的な田舎村。
魔王が死んでまだ5年じゃあ、こんなもんか。
フォウの親から晩御飯をご馳走になりつつ、話を聞く。
一ヶ月ほど前から近隣の森にドラゴンが住み着いているのだとか。
しかも時々村に来ては家畜を食べるもんだから、みんな困っているらしい。
「ポコニャンさん、追い払うだけでもいいので、お願いしますっ!!」
「あ、うん」
両親が俺をじーっと見つめる。
本当にこんなやつで大丈夫なのか?
娘を危険に晒すだけじゃないのか?
顔隠しているし。
みたいな眼差し。
懐かしいなこの感じ。
勇者として冒険に出たばかりのころも、よく同じような視線を向けられていた。
なんの実績もなかったからね。
そして翌朝。
俺とフォウは森に入り、湖の近くでぐっすり眠っている赤いドラゴンを発見した。
デカいな。魔王軍が使役するような、質の良い強いドラゴンだ。
「サ、サポートは任せてください!! 独学ですが、魔法ならバッチリですので!!」
と、緊張して震えた声。
「いや、いいよ」
んじゃ、いっちょ久々に魔物退治といきますか。
ダルいけど。
腰に刺した剣を抜く。
2本、ね。
ドラゴンが俺の殺気に気づき、目を覚ます。
グオォ!! と迫力のある咆哮。
俺は構わず、剣を振った。
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※あとがき
次回から一日一話更新になります。
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