第11話 勇者、決意する
「ただいまー」
妹のセシリーが帰ってきた。
セシリーは俺と違ってアグレッシブだ。
お買い物、友達の用事、地元のボランティア等々、しょっちゅう外出している。
「もうお兄ちゃん、まだ寝てる。夕方だよ?」
「んー」
「まさか、サイクロプス退治の疲れがーとか言わないよね」
ちっ。
思考を読まれた。
「あのあとコロンと飲んじゃってさー。その酔いがまだ……」
「はいはい。夕飯の準備するから手伝って」
「へーい」
ベッドから起き上がる。
ふぅ、おそらくマーリン姫を騙すのは成功しただろうし、肩の荷が降りて気が楽だ。
明日、釣りでもしようかなー。
シャインちゃんを口説きに行くのもありだな。
積んである本を読むんでもいいか。
あー、自由なダラダラ生活って最高!!
必ず守り抜いてやるぜ。
「そういえばお兄ちゃん」
「なに」
「マーリン姫、お兄ちゃんを成り上がらせて国の腐敗を払拭したいみたい」
「は? なんだそれ」
「だからポコニャンを捜してるんだよ」
面倒くさいな。
自分でどうにかできないもんかね。
ていうか勇者に頼んでどうする。
そういう他力本願的な思考は好きじゃない。
自分でやれるだけやったり、痛手を負う覚悟のあるやつなら喜んで助けてやるけど。
「あとね、さっき偶然マーリン姫に会ったよ。ポコニャンについて聞かれた」
「はっ!? またこの街に来たの!? てか今もいるのかよ。な、なんか喋ったのか?」
「なーんにも話してないよー。でもあの感じだと、まだポコニャンが勇者ルースだって疑っているみたい」
「はぁ!? くそ、しつこいやつだな」
新聞読んでないのかよ。
勇者ルースはポコニャンじゃねえんだよ。
素直に諦めろよな。
あーもー、せっかくサイクロプス退治までしたのに。
「大変だねー。成り上がっちゃえば?」
「無理無理絶対無理。くっそー、また策を考えないと。今度こそ確実に諦めてもらう」
「えー、でもかつて助けたお姫様が救いを求めてるって、なんだかロマンスの香りがするじゃない。結婚しちゃえばいいのに」
「結婚なんかするかよ。グラマラスで俺のことを一途に愛してくれる女の子なら考えるが、そうじゃないなら絶対にしない」
「へー」
コロンに頼んで『変身魔法』を使ってもらうか。
自分の姿を変える魔法。実力者であれば、第三者の見た目を変化させることもできる。
それで適当な魔物の死体を俺の姿に変身させて、死んだことにする。
ダメだ成功率が低すぎる。
てかコロンのやつ、前に変身魔法は苦手とか言ってたもんな。
それに検死されたら一発でバレる。
「なら催眠魔法? いやいや、そもそもチャンスがないし、どのみちすぐにバレる」
「ふふふ」
「なに笑ってんだ?」
「やっぱり、お兄ちゃんの真剣な顔、世界で一番カッコいいなって。昔に戻ったみたい」
こいつも結構なブラコンだな。
しかしてあの姫様、いよいよ鬱陶しいな。
俺のダラダラ生活を邪魔しやがって。
くそ、こんなことなら魔王城から助けるときに好感度下げておくんだった。
セクハラしまくるとか、暴言吐きまくるとかして、失望させておくんだった。
「忌々しい。俺に構うなよ」
なんとか次の手を打たないと。
もう一度ルースとしてクエストを受けるか?
無理だ、コロンも仕事で忙しいし、おそらく同じ手を使っても無駄。
いったい、どうしてまだポコニャン=ルースだと疑っていやがるんだ?
いっそ引っ越すか?
ありえない。この街にはセシリーの友達もいる。俺のわがままで引き離すわけにはいかない。
「そういえば、手紙」
手紙で返事をくれと、張り紙には書いてあった。
なら手紙を送り、そこにルースではないと思わせる文を書く。
たとえば、女性ですと告白するような。
うーん、小手先だけの小細工にしかならんか?
いっそ、面と向かって文句を言えたらいいのだが、俺は本気で頼まれたら断れない性格だし……。
「もしくは会って脅すか」
「このままじゃ埒が明かないね」
「あぁ、なにか一つ、リスク覚悟で派手に動くしかない。距離を詰めることになろうとも」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※あとがき
次回から5話ほど、シリアス成分が強くなります。
そんなに暗くないし、ダラダラやらないつもりです。
王族の腐敗、活発になる魔物たち。
姫騎士ちゃん、頑張ります。勇者くんも。




