第10話 姫騎士、迷う 後編
私の脳内を駆け巡る可能性。
勇者様はポコニャン=ルースではないと私に思わせるために、あえてルースとしてクエストを受けた。
しかしギルドにはポコニャンとして登録しているので、違法参加という形になってしまった。
私の推理をセバスチャンに聞かせる。
「どうだ、セバスチャン」
「一応、筋は通ります。通りますが……」
「都合のいい解釈、だな。やはり」
確証がない。
妄想の域を出ていない。
単純に、2人はまったくの別人と考える方が自然な気がする。
どっちだ、どっちなんだ……。
「拘りすぎているのだろうか、ポコニャンに」
5年経ってはじめて掴んだ可能性に。
ここで悩んでいるより、ケワシ地方の街や村を捜し回るべきじゃないのか。
「セバスチャン、集会所周辺で聞き込みをしておこう」
「かしこまりました」
「勇者様、なぜ私の前に現れてくださらないのですか……」
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ケワシ地方であれ以上勇者様の情報は得られなかった。
ぐずぐずしている間に別の土地へ移動したのだろうか。
くっ、こうなってくるとますますわからん。
翌日、私はセバスチャンと2人でキタノ街を散策していた。
今日来た理由は、執念の燃えカスのようなものだ。
じっとしていられなかったのである。
あと少しで、あと少しでルース様に会えたかもしれないのに……。
「姫様、元気を出してください。ケワシ地方に勇者様がいた、その事実は変わらないではありませんか」
「うむ、そうなのだ。それはわかっているのだが、逆にわけがわからなくなってしまった。ポコニャンは勇者様ではないのか? それともポコニャンなのか? もっとケワシ地方で徹底的に調べたいが、そこまで暇でもない」
悩ましさともどかしさで、精神がどうにかなってしまいそうだ。
「もしポコニャンではないのなら、私はまったく見当違いなことに執着している頭のおかしいストーカーではないか」
「え、頭のおかしいストーカーなのは……」
「なんだ?」
「いえ、なにも」
明後日には他国の貴族や豪商を招いたパーティーがある。
さすがにそれには参加しないとな。
参加者リストを確認し、得られそうな情報は何か前もって調べておかないと。
世界情勢は、日々変わるものだから。
「おや?」
道端で女の子が倒れている。
黒髪の可愛らしい子だ。
転んで足を痛めたらしい。
「大丈夫か?」
手を差し伸べる。
「え、あなたは……」
「ん? あぁ、第3王女マーリンだ」
「王女様!?」
「そんなことはどうでもいい、立てるか?」
「あ、ありがとうございます……」
それにしても、本当に可愛らしい子だな。
どことなく、勇者様に似ている気がする。
「歩けそうにないなら家まで送るが」
「いえ、平気です。少し転んだだけなので」
「そうか、強い子だ。ついでに確認しておきたいのだが、ポコニャンなる人物に心当たりはあるか?」
「ポコニャン? そういえば、マーリン様が捜しているって噂になってましたね。見つけてどうするのですか?」
「もし私の想像通りの人物なら、ぜひ我が国の中枢で辣腕を振るってもらいたい。どんどん成り上がってほしいのだ。腐敗した王族貴族を粛清するくらいにな」
それと、私と結婚してほしい♡♡
子供もたくさん作りたい♡♡
ふひひひ、勇者様の、ゆうしゃさまの遺伝子が私に……。
想像するだけで絶頂してしまうっ!!
「なるほど……ふーん。成り上がりですか……」
「しかし、どうにも足取りが掴めん。ポコニャンなる人物がルース様なのかと思ったが、違うかもしれない。いや、たぶん違うのだろう」
あぁ、諦めかけているな、私。
「違うと、思っているんですね」
「え? あ、あぁ。少しな」
「…………」
「どうかしたか?」
少女がなにやら考え込んでいる。
心当たりがあるのだろうか。
「見たことあるかもしれません、おにい……じゃなくて、ポコニャン」
「なにっ!?」
「たまたま集会所で、それらしい人があの巨乳の受付嬢さんと話しているのを見ました。2年くらい前だったかな……。受付嬢さんが、『ポコニャンさん』って言っていて。フードを被っていたし、後ろ姿だけしか見てないのですが」
「本当か!?」
「可愛い名前だったのでよく覚えています。あと、腰に剣を2本」
二刀流!!
勇者ルース様と同じ!!
やはり、やはりポコニャンはルース様なのか!?
「ありがとう!! えっと……」
「セシリ……パコミャンです」
「パコミャン? ポコニャンに名前が似ているな」
「あははー」
「とにかくパコミャン、この恩は決して忘れない!!」
「いえいえ、頑張ってくださいね。応援してます。……せっかくまた真面目な顔が見られるようになったんだから」
「???」
とそこで、
「姫様、そろそろ城に戻る時間です」
「あ、あぁ」
ポコニャンはルース様だ。
絶対にそうだ。
なにを諦めようとしていたのだ私め。
信じるんだ、己の直感を。
私は頭のおかしい妄執女などではない。
真実を追い求める崇高なる姫騎士なのだ!!
ふふふ、ふふひひひひひひひ。
ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーーーッッ!!
もうじきです。
必ず会いに行きますよ、勇者様♡♡
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※あとがき
僕は勇者の今の生き方に賛同しているんですけどね、だんだん姫騎士を応援したくなってきました。
そろそろ、ぐい〜っと話を動かす予定です。




