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酒場

酒場からキナツが去った後。

他傭兵部隊、傭兵団がゲラゲラと笑い、ヤジを飛ばす中、破片の掃除、酒場の女将さんへの謝罪と修繕費、迷惑料を支払う。

フレヤ達は、カウンター席で横一列に座らされ、一人3品注文、アルコール類の禁止、調合禁止で本日の食事可能を言い渡された。

調合を禁止されたエルは顔をカウンターに突っ伏して呪詛をぶつぶつと吐いている。

両隣に座るフレヤ、ゴードンは彼女から椅子をずらし距離を取る。


「全く40目前になった男が、ひよっこ相手にぶちギレてるんじゃないよ。変に恨まれちまうよ」


青年の叫び方や乱暴に依頼受託所から出ていく姿からして手遅れだと思いつつも女将さんはゴードンに忠告する。


「騒がしくして本当にすまなか……。申し訳ございません」


最初の謝罪言葉は女将さんの睨みでつぐまさられる。

フレヤはふうと肘をついて頬を支えため息する。


「ひよっこでも限度があるとは思いますけどね。勝手に依頼主と交渉して、報酬の減額。これが罷り通れば他の傭兵団に迷惑がかかりますし、減額交渉が可能って認識ができてしまう」


「あの子、配分が少ないって最後は駄々捏ねてましたけど、自業自得ってそういうことなんです。自ら一人辺りの料金を減らしたなんて考えてもいなくて、『貧しい村からお金を取らない僕カッコよくて、優しい人』って優越感に浸ってるんです」


「キンガクハンブン、アイツイナクナルカラ、ソッコウセイポーションヒツヨウ。ナノニナノニナノニザイリョウヒデチョチクスコシケズル。コノコノコノコノコノコノ」


「額に傷ができるぞ。頭を打ち付けるな。……水に浸したタオル頼む」


ゴードンの注文に女将さんは厨房の奥に引っ込み、水を絞っていないタオルを手渡す。

ゴンコン頭を宙に浮いた際にタオルを机と額の間に入れる。べちゃべちゃ、水滴が男二人の席に飛ぶが気にせず話を続ける。


「そうだったのかい。理由を知らなかったこっちの非だね。けどね、今後は絶対に公共物や無関係の第三者の物は理不尽で壊さないようにね!」


「それは肝に銘じます。女将さん、注文をいいかい?」


「はいよ。さて、何を作ろうかいね」


ゴードンは豆と豚肉を塩で炒めた料理、海魚の塩焼き、東方の紫色の豆を砂糖で煮込んで磨りつぶした餡を包んだ団子。

フレヤは口から火が噴きそうなほどの香辛料を混ぜたとろみのある餡とパン5つ、牛の乳、野菜増し増しの塩スープ。

アリナは豚肉入り野菜盛り合わせ、パン三つに牛の乳を魚介などの出汁で煮込んだスープ。

エルはクルミを塗した野菜盛り、果実3種盛り合わせ、塩煮込みのピーナッツをそれぞれ頼む。


「きっちり三品。それもそこそこ値のあるものも含めてくれるのは羽振りがいいね」


「迷惑かけてたからな。一品くらいは高値の料理を……って訳じゃ無くておばちゃんの料理は旨いからな!っでえ!?」


フレヤが女将さんを褒めると、本人から軽くデコを叩かれる。オーバーなリアクションを取るが、女将さんの額打ちは戦場で駆け抜け、怪我をしてきた彼にとって蚊に刺された程度だ。

『おばちゃん』が駄目だったのか。とフレヤはデコを撫でながら考える。


「日頃、近くの女にきちんと言えてるなら素直に喜べるけどね。お隣の魔女さんが少しムッとしてるよ」


女将さんが顎でアリナ方面をしゃくり、厨房に引き籠もる。

彼女の方面を見ると脹れっ面になってフレヤを睨みつけている。


「あ、アリナの料理が一番美味しいのは揺るがない事実だ!」


「それは嬉しいわ。でも、最近は素っ気ない返事ばっかりじゃない。感謝の言葉は貰えても味の評価は全くね」


未だにご機嫌斜めのアリナに何度も謝り、明日の休暇は出掛けようなどと様々な提案を上げていく。


「夫婦漫才かぁ!?」

「家庭内のごたごたを公共でお披露目って」

「お暑いねぇ」

「でも夫婦の契りまだなんでしょ?」

「……あれで?」

「契りはそれほど慎重にするものだ」


その様子に酒場内の傭兵らは野次を投げる。

最終的に明日は街でのデートとアリナに対するプレゼントを約束をして収束する。

誰もがフレヤは尻に敷かれ、掌で弄ばれると予測していた。


全員分の料理が提供される頃には、流石にエルの頭打ち付け行為は終了した。

料理を口に運びながら4人はこれからについて話し始める。


「回復補助員が居なくなったからな、エルに悪いがポーションの作製量の増加を頼む」


「勿論だよぉ。けれど、瓶での持ち運びだから割れないように工夫しないといけないから遠出遠征となれば荷物が嵩張るなぁ。それに魔物避けの魔術があるにしろ、効き目の薄い魔物からの襲撃も考慮すると材料のスタックも増えるねぇ」


ピーナッツを口に運び、至極丁寧に奥歯で噛み砕いて喉を通していく。


「馬と荷台を借りれば荷物は問題な……いや、道が整備されていない遠方地域もまだまだある。別部隊から回復術に長けた奴を一時借りるのもありか?」


「それは駄目よ。近頃、魔物の力や統率が高まってるの。どの部隊もポーションよりも即効性の高い回復魔術士は1人でも惜しい位よ。それに……」


最後は濁したアリナの言葉でそうだったと思い出し、ヒリヒリし始めた口内を静めるために牛の乳を飲むフレヤ。

その後も4人で次回の依頼に向けての方針を固めていく中、フレヤは別件を思い出していた。


自分達の傭兵部隊且つ傭兵団のリーダーであるゴードンが、『実力が中堅だった時期よりも手数が増えてる』と1年前の定例会議で部隊長たちに話していた。

会合の最中も、ポーションの増量や持ち運びの工夫、これまでの魔物から見られなかった行動を何度と意見を交えていた。

また、直近の会合で自分達のゴードン部隊の別部隊と統合もしくは、人員補充を考えていることも話していた。

今までは5人。今日で4人となってしまったが、それまでは他部隊が二桁人数の中、極小人数で依頼をこなしてきていた。

が、ゴードン事態の年齢に伴う動きがここ半年急激に衰えが見えはじめている。

今回の依頼でも何度か、魔物に不意を突かれる場面が散見していた。


方針が大方決まり、食事を進め、舌鼓をうちながら、古参のエルと歓談するリーダーを見る。数年前、傭兵団に加わった当時から見たゴードンは、魔物よりも誰もが畏怖する飴と鞭を使い分ける『鬼』だった。

それが今では何処か心非ず場面が増え、少し雰囲気が穏やか。父と喧嘩して考えなしに飛び出た故郷の実家の向かえに住んでいたじいさんに似てきたと感じている。

ぼーっとその状況を見ていたフレヤの頬が突然、左に熱を帯ながら引っぱられる。


「あだだだだだ!!つおい、つおい!ちゔぃえてつまう!」


「熱い視線を渡す相手が男なんてどうなのよー。私なんて叶わぬ恋の穴埋めでしかなかったのねー」


おーいおいおい、と棒読みの台詞に下手な泣き真似を披露するアリナ。


「叶わぬ恋って!俺は男に興味はねえ!」


「フレヤ……そうか。お前……残念だが、気持ちに応えられねえ。変わりと言っちゃなんだが、おい、可愛い男が酌してくれる店を紹介してやってくれ、エル」


ゴードンも悪乗りをして、エルの肩を叩く。

彼女は腰に巻いた皮製の鞄から二つ折りになった紙をスッとフレヤの前に差し出す。

が、開くこと無くエルに返すフレヤ。


「いらねえですよ!てか、エルさんも悪乗りで意味深に出さないでくれよ!!」


「いやぁ、僕って見た目の割に長生きじゃん~?刺激的な体験してみたいなぁって、ゴードンに頼んだら別部隊の女の子から聞いたんだがって紹介されたのが可愛い男の娘がいっぱいのお店でねぇ。…………ギャップ萌え、可愛いがあれば性別に問題なしだったんだよねぇ」


お店での出来事を思い出したのかはふぅと頬に手を当て、露めかしい表情を浮かべるエル。


「マジの紹介状だったのかよ!てか、ゴードンさんも薦めるなよ!」


「問題ない。程々の頻度で行くように注意している」


「そこじゃねえ!!」


「やっぱり、私は変わりなのねぇー」


再びアリナを放っておくフレヤの態度に猿芝居で周囲に嘆きをアピールする。

酒場はまた一段と騒がしくなり、静になるのは当分先になりそうだった。



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