第7話 村を出て。
明朝、わたしはあかりと一緒にこの村を出ることにした。わたしが行くと言うと、あかりはすごく喜んでくれた。
家の前で皆が見送ってくれる。
リンちゃんもナオくんも。
わたしに抱きついて、お別れをした。
お母さんにも挨拶をする。
あかりの方を見ると、なんだか寂しそうな顔をしていた。わたしはお母さんにお願いした。
「お母さん。あかりちゃんを抱きしめてあげてほしいの」
お母さんが手を広げると、あかりはしばらくモジモジして、お母さんの胸に顔を埋めて幸せそうな顔をした。
あかりちゃんのママじゃないけれど……。
お母さんはアカリの頭をクシャクシャと撫でて言った。
「あなたもわたしの娘みたいなもの。いつでも遊びにいらっしゃい」
あかりはしばらくその姿勢でいて、頬のあたりを手の甲で拭うと身体を離した。
私たちは、手を振りながらロコ村を後にした。
どこまでも続く岩山は切り立っていて、空には見たこともないような尾の長い鳥が飛んでいる。
わたしは生まれてから一度も村から出たことがない。近くの森や川に行くことはあったが、それくらいだった。外の世界は、ロコ村とは違う景色は新鮮で、見ていて飽きなかった。
どこからか、獣の遠吠えが聞こえてくる。
わたしが腕を抱えていると、あかりが言った。
「心配しなくても大丈夫。わたしが守るよ」
でも、ずっとお荷物でいるわけにもいかない。
「わたし、どうしたら強くなれる?」
「うーん。イヴちゃん神官系だからね。まずは、ウルズ様の神殿にいき、儀式を行うことかな」
「でも、神殿どこにあるか分からないよ?」
「それがね。ロコに来る途中で、それっぽい大きな神殿の廃墟を見つけてね。まずはそこに行こうと思ってるよ」
国が滅びたとかならともかく、神殿だけ廃墟になったってあまり聞かないし、たしかにそれな気がする。
当てもなく歩いているのかと思ったが、ちゃんと考えていてくれたらしい。
しばらく歩くと、長い吊り橋を渡った。
渡り切ると景色が変わった。緑は減り、乾いた赤い岩が目立ちはじめた。
「あかりちゃん。景色が変わったよ」
「そうそう。ここからは……」
あかりは言葉を止めた。
遠くの方で馬車が砂埃をあげて走ってくる。
疾走は似つかわしくない高級そうな馬車だ。
その後を20メトラほど開けて、数頭の馬が野盗を乗せて駆けていた。
「あかりちゃん。こっちにくる……」
馬車からは、わたしと同じくらいの女の子が、必死の形相で顔を出している。
女の子とそれを追う野党。
どんな状況かは、聞かなくても想像がつく。
あかりは短刀を抜いて構えた。
「イヴちゃん。助けるよ」
あかりは右手に短刀を逆手に持ち、走り出した。
あかりと馬車がすれ違う。
あかりは横目で馬車の中を見ると、野盗の前に立ちはだかった。
野盗が手綱を強く引くと、馬はヒヒンと鳴きながら止まった。
先頭にいた野盗が降りてきて、あかりを指差した。フードを深くかぶっていて、その容姿は見えないが、華奢な体つきだ。
「ちょっと。危ないじゃない。なんなのアンタ」
あかりは答えた。
「あなた達。あの子を捕まえてどうするの?」
野盗は大袈裟に両手を広げた。
「捕まえて奴隷にするのよ。あの身なり。攫って身代金を要求するのもアリかもねぇ」
あかりは、野盗を睨みつけた。
「アンタたちがそんなだから……」
野盗はフードを外した。
すると、赤髪の女性だった。
女性が女性を攫おうとしている。
わたしには理解できない光景だった。
野盗の女は、露骨に不機嫌そうな顔をした。
「あんたプレイヤーでしょ? 現地人なんかのために、なんで邪魔するのよ」
「『なんか』って。ここはもともと、彼女達の世界なのよ。異物はわたしたちでしょ」
「意味わかんない。あんた達。やっておしまい」
やっておしまいって。
そんな絵本の悪者みたいなことを言う人、本当にいるんだ。




