第6話 あかりのみらい
わたしは別の世界から来た。
そこは、いつも曇り空で、みんな何かに追い立てられて生きている世界。
物には恵まれているけれど、頑張って探さなければ生きる意味が見つけられない世界。
そんな世界にわたしはいた。
うちの家族は4人で、パパ、ママ、おにーちゃんと一緒に暮らしていた。ママの実家はお寺で、わたしはおじーちゃんのことも大好きだった。だから、小さな頃からお寺で修行の真似事をしていた。
中学に入った頃、子猫を拾った。
白くて丸い女の子の猫。
こまちっていう名前をつけた。
中2のある日、部活に遅れそうになって、急いで家を出た。すると、ドアの隙間から、こまちが逃げてしまった。
わたしはこまちを追いかけた。
そして、こまちを捕まえて抱き上げると、目の前に大きなトラックが迫っていた。
トラックの信号無視ではない。
たぶん、追いかけるのに夢中で無視したのはワタシだ。
だから、わたしが轢かれてしまったら、運転手に申し訳ないな、と思った。
けたたましいクラクションの音が迫ってくる。
わたしは目を閉じて歯を食いしばった。
「あかり!!」
背中からドンッという衝撃があって。
気づくと、おにーちゃんが倒れていた。
最後に見たのは、おにーちゃんが血だらけになっている姿。その瞳には力がなくて……、命が肉になって、魂が煙になる姿。
大好きなおにーちゃん。
いつも助けてくれて。いつも優しくて。
誰よりもカッコいい。
わたしはそんなおにーちゃんに、密かに恋をしていた。
だけれど、そんなおにーちゃんの命が失われていくのに、わたしの身体はピクリとも動かなくて、何もできなかった。
あぁ。瞼が重い。
わたしもこのまま死ぬのだろうか。
でも、それも良いのかもしれない。
だって、きっと、そうしたら。
おにーちゃんとまた出会える。
きっと次は妹じゃなくて、血の繋がっていない普通の男の子と女の子として。
…………。
「にゃんにゃん」
どこからかこまちの声が聞こえる。
気づくと、わたしはアヴェルラークという世界にいた。目を開けると、どこかの知らない街で、目の前には大きなお城があった。
周りには、見慣れぬ鎧やローブのようなものを着た人たちが沢山いて、中世ヨーロッパのようだった。
皆、わたしと同じように、ここに飛ばされて戸惑っているようだった。
そして、空が真っ暗になって、無機的な声が聞こえてきた。それは圧倒的な存在感で、神や悪魔のようだった。
ソレは自らを「混沌」と名乗った。
わたしたちがここに飛ばされてきたのは、混沌の気まぐれのようだった。そして、私たちは、混沌を倒さなければ元の世界に戻れないらしい。
……混沌を倒すことは、私達の共通の目的となった。
やがて、わたしたちは落星人……落星の民と呼ばれるようになった。
半年ほどすると、落星人の中にも組織みたいなものができた。戦闘が得意な者はギルドをつくり、混沌を目指して未開の地を攻略した。
わたしたちは、現地の人達よりも、文明レベルが高く、力も強い。そのため、いつの間にか自分たちを神かなにかと勘違いし、現地人を見下し奴隷のように扱う風習が生まれた。
わたしはそれに馴染めなくて、1人で旅をすることにした。1人の旅は寂しくて危険なことも多かったが、神様気取りの彼らと過ごすよりは、いくぶんもマシだった。
そんなある日、たまたま即席パーティーをしたメンバーからあることを聞いた。
……彼女は、亡くなった家族とそっくりな人を、この世界で見かけたらしい。
わたしは思った。
もしかしたら、もしかしたら。
おにーちゃんもこの世界にいるのかもしれない。わたしは、旅をしながらおにーちゃんを探すことにした。
パパやママはきっと悲しんでいる。
学校の友達も、部活の後輩も。
だから、向こうの世界に戻ってまた皆と過ごしたい。でも……。
そうして、わたしは旅を続けている。
わたしは、道具袋から地図を出し、開いた。
「さて、次は、このロコ村に行ってみようかな」




