第5話 首飾り
その日は、あかりはウチに泊まることになった。
色々と話して、色々寄り道しながら一緒に帰る。なんだか、久しぶりのお友達と遊んでいるようで懐かしかった。
わたしは思い切って聞いてみた。
「あかりちゃんって、女の子が好きなの? わたしにキスしたし……」
すると、あかりは腕を組んで悩んだ。
もしかして、自覚がないのかな。
あかりは向こうをむいて答えた。
「そそそ、そんなことないよ? あれは、キミの魔力回路を操作するためにだね。やむなくだね……」
うーん。怪しい。
まぁ、本人がそういうなら、そうなのかな……。
あかりは続けた。
「女の子っていうか。魂の色が綺麗な人が好き。だから、イヴちゃんが男の子だったとしても、気に入ってたと思うよ?」
「魂の色って?」
「……人間の魂には色があってね。わたし、前の世界にいる時からそれが見えたんだ。イヴちゃんのは、純粋で特別な色なの。イヴちゃん以外だと、いままで1人しか見たことがない。魔力の多さも、色が関係してるのかもね」
「わたしを旅に誘ったのは、それが関係してるの?」
「正直、それもある。異世界から来た私たちには目的があってね。元の世界に帰りたいんだよ。でも、そのためには倒さないといけない敵がいる。そのために魂に濁りがない仲間が必要なんだ。だから、一緒に旅をして欲しいの」
それって。
あかりにとって、大事なことだよね。
でも、わたし……。
そんな大それたことできると思えないし。
まだ施設のみんなに、なにもお返ししていない。お母さんと離れたくないよ。
わたしは、あかりの目を見た。
「あかりちゃん。ごめんね。わたし、行けない。みんなと離れたくないの」
すると、あかりは一瞬、寂しそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔になった。
「そっかあ。わかった!! でも、わたしたち、友達でいようね?」
「うん。あかりちゃん。ごめんね」
あかりは、わたしに断られたからって態度を変えることはなかった。そのあとも、寄り道をしながら、2人で笑って帰った。
家に帰ると、皆がお出迎えしてくれた。
あかりは子供が好きらしく、みんなと追いかけっこをしている。
その様子を暖炉の前で見ていると、お母さんに呼ばれた。
おかあさんは、椅子に腰掛けていた。
わたしを呼ぶと、抱きしめて髪を撫でてくれる。
「イヴ。あの子に旅に誘われたらしいわね」
「うん。ウルズ様ともお話したよ」
「それはすごいね!! やはり……。ウルズ様は、どうだった?」
「すこし適当だったけど、あたたかくて太陽みたいな女神様だと思ったよ」
「あかりさんのことは好き?」
「……うん。会ったばかりとは思えない。一緒にいると懐かしい感じがするの」
お母さんは目を細めた。
「わたしがあなたに初めて会ったのは、こんな寒い夜だった。あなたは、玄関の外にいてね。質のいい温かそうな毛布に包まれていて。大きなカゴに入ってたの。わたしを見た時、小さな赤ちゃんだったあなたは、わたしに手を伸ばしたのよ?」
「おかあさん。そんな小さな時のこと、覚えてないよ」
お母さんは笑顔になった。
「そうね。でもね。すぐに、あなたには強い魔力があることが分かったの。普通の女の子には強すぎる力。だから、私は、あなたの力……魔力を封印したのよ」
「全然、知らなかったよ」
「でも、あなたは、その封印を解放する人に出会った。……あなたに渡すものがあるの」
おかあさんは、奥から小箱を持ってきた。
箱をあけると、そこには首飾りが入っていた。
首飾りは、砂時計に翼が生えたようなデザインのベッドがついている。お母さんは、首飾りを取り上げると、わたしの首に掛けてくれた。
「これはね。あなたを見つけた時に、一緒に置かれていたものなの。これは、とても身分の高い神官だけが持つ首飾り」
「どうして、わたしがそんなものを?」
「……わからない。だけれど、その首飾りは、きっと、あなたにとって大切な物。そろそろ頃合いなのかもしれないわ」
「わたしは、ただ、お母さんと一緒にいたいの……」
「イヴリン。貴女は貴女がなすべき事をしないと。あの子と旅をして、もっと広い世界を知りなさい」
本当は、そうすべきなのだろうと分かっていた。
でも、悲しくて寂しくて。
わたしは泣いてしまった。
そんなわたしを、お母さんは優しく抱きしめてくれた。
その日は、みんなでお菓子を食べて、残ったお菓子をウルズ様にお供えして。あかりと同じ部屋で寝ることになった。
若干の身の危険を感じるけれど、もっとお話したい気持ちもある。今後のために、疑念を払拭しておこう。
あかりは白い薄手の装束に着替えている。
ドレスと違って、うなじのあたりが綺麗に見えた。
ベッドに腰掛けるあかりに聞いてみた。
「あかりちゃん。キスしたとき、本当は何したの?」
「あ、気にしてたの? からかいすぎたね。ごめん。んとね。君の口の中に気の流れを正常化する涅槃寂静の法印を書いたんだよ。宗派が違うから賭けだったけれど、効果があってよかったよ」
そうなんだ。
へんな下心があった訳じゃないみたい。
「あかりちゃん。眠くなるまでアカリちゃんのお話を聞かせてよ」
あかりは、ベッドに入りながら、色々と話してくれた。
「わたしね。別の世界にいたっていったじゃん? こことは違う、もっと機械文明が発達した世界……」
あかりは数年前にこの世界に来てから、最初は同郷の仲間たちと冒険していたらしい。でも、色々あってイヤになってしまったということだった。
あかりはその後、1人で旅を続け、ここロコ村にたどり着いたらしい。
「ね。あかりちゃん、さっきの旅のことなんだけど……」
気づくと、あかりは眠っていた。
きっと疲れたのだろう。
しばらくすると、あかりは涙を流した。
閉じた瞼から真珠のような涙が滲み出て、つーっと頬を伝いおちる。
「おにーちゃん……パパ、ママ、会いたいよ……」
それは幼い子供のような声だった。
あかりは、きっと、わたしと同じくらいの年でこの世界に連れてこられて一人ぼっちになった。
寂しかったよね。
辛かったよね。
わたしはあかりの手を握った。
「わたし、……役に立てるか分からないけれど、一緒にいきたい」




